黒の瞳の覚醒者

一条光

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一章~気が付けば異世界~

勧誘された

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 最初に感じたのは腹部への圧迫感だった。こんな感覚があるってことは、生きてはいるんだろう。
「重い……」
 声が出た、やっぱり、また生きてたのか。ゆっくりと目を開けた。見えたのは、洞窟? の様な土の天井だった。次に圧迫感の正体を確かめる為に腹を見た。
「なにしてる?」
 銀色の少女が俺の腹に腰掛けていた。
「座ってる。ここには他に座れるものがないから」
 そういう問題じゃない、そもそもここはどこなんだ? 手を突いて起き上がろうとしたら、手首を縛られてることに気が付いた。当然か……捕まってるんだから。リオはどうなったんだろう? 気にはなる、なるけど知るのが怖くて確かめられそうにない。

「お前はここでなにしてるんだ? というか、降りろ、重い」
 チビだから本当は大して重くはない、重くはないけど、椅子代わりにされてる事がムカついた。
「ん」
 頬を抓って引っ張られた。加減はしてるんだろう痛くはない、でも、いきなりなんなんだ?
「チビじゃない、子供でもない、十八歳」
 心を読まれた!? いや、それよりもびっくりなのは十八歳ってところ、どう見ても小学生だろ!? 今は立ってないからはっきりとはわからないけど、俺の胸の辺りくらいまでしか身長なかった気がする、だとしたら百四十cm以下くらいじゃないか? 本当に十八歳か? 疑いの目を向けた途端に、頬を掴んでいた指に力が入った。

「いふぁい! いふぁい! いふぁい!」
「十八歳」
 表情は変わってないけど、目がヤバい!
「わふぁった! わふぁった! わふぁったふぁら! はなふぇ!」
 ようやく離した。馬鹿力め! 無茶苦茶痛いじゃないか……。身長がコンプレックスなのか、まぁこれだけ小さかったらしょうがないか?
「次は加減しない」
 あれで加減してるのかよ!? 加減してなかったら頬を引き千切られる気がするな。あ~痛い……。
「それで、お前はここでなにしてるんだよ?」
「見張りと勧誘?」
 首をかしげながら聞いてくる、俺が聞いてるんだが……。
「勧誘って、仲間になれってやつのことか? 俺なんか入れてもお前らに得なんてないだろ。俺は――」
「……ん?」

 お前が殺したカイルより弱いんだぞ。そう続けようとしたけど、あの光景を思い出して口が止まった。一瞬で人が、人だった物に変わった。それを表情も変えずにやる少女が恐ろしかった。あの後、リオに手を伸ばした後、なにをしたんだろう? 本人が目の前に居るんだ、ただ尋ねれば、簡単に答えをくれるかもしれない。しばらく逡巡したけど、やっぱり聴けそうになかった。
「得はある。覚醒者」
 俺を指さしてそう言った。確かに何かしらの特殊な能力を持っていれば、仲間にする意味はあるんだろうけど……。
「俺は覚醒者なんかじゃない、ただの異界者だ。お前らの期待するような力は持ってない」
 そう、俺は特別な力なんて持ってない、そんな力を持っていたらあの時リオを救ってる。持っていないからこそ、リオを守れず無様に負けて、今ここで縛られて椅子にされてるんだろう。

「知ってる、成るのを待つ」
 成るのを待つ? 待てば成れるみたいな言い方だな。それともなにか方法があるのか?
「成るのを待つって、待てば成れるものなのか? それとも異界者を覚醒者にする方法でも知っているのか?」
「知らない。待つだけ、待っても成らない人もいるけど」
 やっぱりな、そう簡単に力が得られるわけがない。それに今さら力を得られてもどうしようもない、リオを助けてやれなかったんだから。
「待っても成れなかったらどうするんだ?」
 なんの役に立たないやつをいつまでも置いておくわけがないだろうし、見切りをつけられたら殺されるか?
「処分」
 処分、ね。殺す、じゃなく処分……こいつらも異界者を人間と見ていないのか。便利な道具ってところだろうか?

「なんで覚醒者に拘るんだ? お前たちは充分強いだろ、覚醒者なんて要らないんじゃないか?」
 リオの住んでた町は結構な規模だった。最初に行き着いた町にも兵士が居たんだから、リオの町にも兵士は居たはず、それを問題とせず町を潰せるだけの戦力があるんようだし、カイルは強かったけど、あれが全力ではなかっただろう、盗賊が何人いるのかはわからないけど、兵士を圧倒して町を潰せるくらい強い奴らなら特殊な能力なんて必要ないように思う。それにこの娘の強さは異常だった、それを考えると益々特殊な能力なんて要らない気がする。

「便利だから、ここも覚醒者が作ったし」
 やっぱりか……。ここって、この洞窟みたいな場所のことだろうか?
「そいつは穴掘り能力でも持ってんの?」
「土とか岩を操ってる。この洞窟の隠れ家は全部ツチヤが能力で作った」
 隠れ家なら結構な広さの洞窟なのか? それを作れるだけの能力……確かに覚醒者は便利な『道具』なんだろう。ツチヤ……土屋? 土谷? 日本人の苗字か?
「そのツチヤってやつは俺と同じ日本人?」
「ニホンジンってなに?」
「あー、えーっと、俺と同じで黒髪黒目でこんな感じの肌の色やつ? あっ! そいつのフルネーム教えてくれ」
 黒髪黒目で黄色肌だけだと日本人とは限らないんだから、最初からフルネーム聞けばよかった……。
「あなたと同じで黒髪黒目、でも肌はあなたのが白い。名前は……ツチヤリョウスケ?」
 青白くて悪かったな……引きこもってたから日に焼けてないんだよ! 漢字が分からんけど、ツチヤリョウスケなら日本人の名前って考えて問題ないよな。
「他の異界者も同じ感じなのか?」
「今は異界者はツチヤだけ」
 今は、か。他にもいたけど、処分、されたんだろう。いったい何人の日本人が殺されたのやら……。

「そういえば、お前たちはなんでそんなに身体能力が高いんだ? この世界にはそういう人種がいるのか? お前なんか特に凄かったように見えたし」
 たしかルシスは混ざりものとか呼んでたな。
「私たちは異界者とヴァーンシアの混血」
 それで混ざり者なのか、この言い方は蔑んだ言い方なのかもしれない……。
「混血者はみんな目が紅いのが特徴、それから父親が異界者なら身体能力が高くなって、母親が異界者なら覚醒者に成る可能性がある。なんでそうなるのかは知らない」
 親になる異界者の性別で変わるのか、覚醒者に成る可能性がある、より身体能力が高いほうがお得な気がする。目覚めるかどうかわかんないものより元々備わってる方がいいな。
 盗賊団って言ってたから団を作れる程度には混血者がいるってことなんだよな……奴隷扱いしている相手と子供なんか作るか?
「お前たちの親は?」
「知らない。私たちは軍が奴隷にした異界者の男とヴァーンシア人の女をまぐわわせて作られたから」
「作られた? 意図的に?」
「そう、使い捨て出来る強い兵士にするために」
 使い捨ての兵士……あの身体能力だし兵士とするならこれ以上の人材はなさそうだけど……。
「それって異界者を捕まえて、そういうことをさせてるって事だよな? 俺町に入った時に捕まるどころか殺されそうになったんだけど?」
 あれは捕まえるって感じは全くしなかった。殺る気満々だった。
「大きい町なら絶対に捕えるけど、小さい町は覚醒者になって危害を与えられるのを怖がって殺そうとするところが多い」
 俺はそういう町に入ったってわけね……。

「覚醒者の能力ってそんなに危険なものが多いの?」
「……変なのもいる、と思う」
 変な能力……もし覚醒者になっても役に立たないものだったら最悪だな。
「例えばどんな?」
「…………触った物の色を変える?」
 なんでお前が疑問形なんだよ。それに触った物の色が変わっても何の役にも立ちそうにない……せっかく異能を持てたのにそんな能力だったら落ち込むなぁ。にしても、聴いたら色々素直に答えてくれるな…………実は良い娘?

「あ、そうだ。この世界の人には黒い瞳の人はいないって聞いたんだけど、紅い瞳は混血者だけしかいないのか?」
「違う。普通の人間でも紅い瞳はいる」
 なんだ、いるのか。なら俺みたいに追い回されることなく普通の人に紛れて暮らすことも出来るんじゃないのか?
「なんで盗賊なんかやってるんだ? 容姿でバレないなら町で普通に暮らしたらいいんじゃないのか?」
「私たちは軍から脱走してるから町に居たらバレるかもしれない。それに殺し方しか習ってない。普通の暮らしは無理」
 殺し方しか習ってない……。
「なんで脱走したんだ? というか強いならみんな従わないんじゃないのか?」
「小さい頃から使い捨ての道具だって教え込まされる。それでも従わなかったら覚醒者の力で潰される、ぐちゃって」
 右手を握る仕草をする。潰すって物理的にか? 人を圧死させる能力? ……確かにそんなのがいたんじゃ、異界者が怖がられて当然だな。
「脱走したのは任務を失敗したから、戻って殺されるのは嫌だってヴァイスが部隊のみんなを連れだした」
 カイルたちもヴァイスがどうのと言ってたな、そいつがリーダーなのか?
「脱走した奴らからしたら、ヴァイスは恩人なわけか」
「さぁ? 私はどっちでもよかった。そろそろいい?」
 ん? …………いいってなにがだ?
「なんのことだ?」
「勧誘、仲間になるか、ならないか」

 あぁ、そういえば言ってたな。盗賊、ねぇ……リオを殺したであろう奴らの仲間になる? 馬鹿馬鹿しい、なんでそんな奴らの仲間になる必要がある。ならなければ殺されるとかそういう感じか? どうでもいい。
「ならない!」
 きっぱりと言ってやる。なってたまるか!
「ん~、仲間になったらヴァーンシアの女犯せるよ? 男は女を犯すのが楽しいんでしょう? みんな村とか襲った時いつもやってる」
 どういう教育を受けてきたんだ? っと思ったけど、そうだった、まともな教育は受けてない集団だった……。
「はぁ~、俺はならない、そんな趣味も無い」
「?…………どうして? 今までの異界者は全員これを言ったら仲間になった」
 ……あぁ、確かにこの世界に来てこの国に投げ出されて、この国の異界者への酷い仕打ちを受ければ、仕返しをしたいとか憂さを晴らしたいって気持ちを持つのは不思議なことじゃない。俺だってこの国の人間に怒りがないわけじゃないけど、リオに出会って優しい人もいることがわかった。それにこいつらの仲間になってそういうことをするってのはこの国の奴らと同類な気がして嫌だ。

 リオの言葉を思い出した。
「心を持った同じ人間に、お前たちがやってるような仕打ちを俺はしたくない」
「変なの……ヴァイスは普通の人間と私たちは違って、混血者と特別な力が使える覚醒者の方が偉いって言ってるよ」
 抑圧された環境からようやく逃げ出して、持った思想はこの国の奴らと同じ相手を蔑むものか……。
「まぁ、どう考えようとお前らの自由だけど、俺にそれを強制するな」
「ふ~ん」
 じぃっと見られる。敵視って感じではないし、嫌なものを見る感じでもない。心底不思議って感じか? あまりまじまじ見られると恥ずかしいんだが、無茶苦茶強い殺人鬼だけど容姿は美少女なわけで、そんな娘にずっと見られるのは居心地が悪い。縛られて上に乗られてるから動けないし。
「あなたの世界にはそういう人が他にもいるの?」
「いるよ。中には人を傷つけて喜ぶ奴もいるだろうけど、俺のいた世界の大半の人は誰かを蔑んだり、傷つけたりはしない…………と思うなぁ」
 言ってて自信無くなってきた。そもそも俺の人間嫌いが加速したのって同級生の苛め問題だし、そういうニュースもよく目にしたし……あれー? それに他の人のことを語れる程俺社会に出てない……。
「ツチヤは?」
 うっ、確かに、この娘の仲間に乱暴して喜んでる日本人がいる以上俺の言ったことって、この娘には空虚に聞こえるんじゃ?

「えーっと……俺が変わってるのかもしれない……」
 ごめんなさい、諦めました。たぶん良い人はたくさんいる、いるんだけど、引きこもってた俺は出会ってない! むしろ嫌な目に遭ったせいで嫌なものがよく見えるようになってしまった。
「やっぱり変なの」
 ずっと無表情だったのに、今は少し楽しそうだ。

 意味がわからん。
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