黒の瞳の覚醒者

一条光

文字の大きさ
上 下
2 / 469
一章~気が付けば異世界~

探索開始

しおりを挟む
 歩き出したものの、どこへ向かえばいいのかも分からない。
「なんでこんなことになってんだろ」
 歩きながらスマホをいじる。やっぱりアンテナは立ってない。
 時間を見ると十時四十分になったところだった。
 普段ならまだ寝ているか、起きていても起き上がれず布団でごろごろしている時間だなぁ。
「はぁ、だるい……」

 しばらく黙々と歩いたけど、歩いても歩いても見えるのは広大な草原だ。
 代り映えしない景色にうんざりしてくる。結構歩いたはずなんだけどな……。
 少し休憩しよう。疲れたし。長年引きこもって居たせいでスタミナがない。幸い食料はある、菓子だけど。
 草の上に腰を下ろして荷物をあさる。
 どれにしようかと迷うが、グミが多い……買い物に行くと、よく考えずにその時食べたい物を買い溜めることがあるけど、今回は酷いな。
 スーパーの買い物袋いっぱいの菓子のほとんどがグミ、なんでもっと色んなの種類の菓子を買わなかったんだよ…………。

 サワーハードグミの袋を開けて口いっぱいに頬張る。
「酸っぱー!」
 酸味のある粉末がまぶしてあるから結構酸っぱい。それに硬めだから顎が疲れてくる。
 でもグミは頬張って食べるのが好きなんだ。
 もぐもぐしながらスマホの画面を見た。十三時前、歩き始めてから結構経ってたんだな。

 強い風が吹いた。歩いて熱くなった身体に涼しい風が心地よい。
「それにしても鬱陶しいな」
 顔が隠れる程に伸びた前髪を摘む。外に出ることがほとんどないせいで伸ばし放題だった髪を鬱陶しく感じる。他人に会わないから頓着しなかったもんなぁ。家じゃ横に流してたし。後ろは気にならないけど前髪はなんとかしたい。
 今は風でぼさぼさだ……。

 そんなくだらないことを考えてぼーっとしていた。現実逃避だな。
 時間を見ると十四時前、一時間もぼーっとしてたのか……。
 見渡す限り草原で人工物なんて全く見当たらない。もしかしてこのままだと野宿になるのか? 意識が現実に引き戻されて不安が大きくなる。

「歩こう」
 とにかくこの草原ばっかりの景色から脱出したい。今日中に人工物を見つけたい、出来れば人と接触してここがどこなのか知りたい。
 再び歩き始めたけど足が重い。
 このままずっと草原ってことはないよな? 鈍った身体に鞭を打って歩く。

 遠くに森が見えてきた。
 草原以外の場所があると分かったことで多少安心したけど、すぐに不安が大きくなる。日が傾きだしていた。
 森の手前にたどり着く頃にはすっかり日が暮れていた。
 どうしよう? 草原を抜けはしたけど、夜の森に入るのは危ない気がする。
 このまま進むより森から少し離れて草原で野宿のほうがいいんだろうなぁ。
「はぁ、野宿か……」
 現代の日本人で野宿経験がある奴なんてそうそういないんじゃないか? 

 疲れたなぁ。こんなに長時間動いたの何年振りだろう。
 このままずっと人に会えなかったらどうしよう…………。
 あんなに人と関わるのが嫌だったのに、今は人に会いたいなんて変な感じだ。

 明日は人、見つかるといいんだけど……。
 草の上に寝転がりリュックを枕にする。
 空には雲ひとつなくて月や無数の星が瞬き、とても綺麗で吸い込まれそうなほど神秘的な光景だ。

 こんな異常事態じゃなけりゃ感動もするんだろうけど、俺の心は不安に支配されていた。
 帰れる、よな? 帰る……? 俺は帰りたいんだろうか? あの引きこもるだけの空間に――

 疲れていたんだろう、横になって目を瞑るとすぐに眠気がやってきた。いつもなら薬を飲まないと眠れないのにな。



 まぶしい――。
 それにやけに青臭い。
 瞼を開けると、見えるのは青い空……。
「夢じゃなかったか……」
 気怠い身体を起こし周りを見る。やっぱり夢じゃなかったか。夢オチ結構期待してたんだけどなぁ。
 時間は、八時か……。こんなに早起きしたのは久しぶりだ。

 ぐぅー。
 腹、減ったな。でも有るのは菓子だけ――。
 飯食いたいなぁ。それに昨日は気にならなかったけど喉も渇いた。とりあえず水だけでも確保したい。
 腹は減ってるけど、喉が渇くから少しずつだな。
 グミの袋を一つ開けて、一粒口に放り込む。
 今日は絶対に人――は無理にしても水場はなんとしても見つけたい。
 立ち上がり昨日の森へ向かう。

 改めて見るとこの森の木、物凄くデカいものが多いな。幹も凄く太いし。
 やっぱりここ、日本じゃないんじゃないか?
 こんな森に入って大丈夫か? ヤバいものとかいないよな?
 不安で足が前に出ない。しばらく逡巡して、ようやく森へ踏み入る。
「変なものが出ませんように」

 大きな木々が生い茂っているせいで森の中は少し暗い感じだ。
 どう考えてもこんな所に人なんて居そうにない。引き返そうか………?
 でも引き返してどこへ行く? またあのだだっ広い草原に戻るのか? 

 不安に駆られながらも、凸凹して歩きづらい森の中を進む。
 木の根に足を取られた。
 「あぁー、もう、歩きづらいしめんどくせぇー!」
 なんでこんなことになった? 引きこもり続けてたから罰が当たったのか?
 罰で別の場所に飛ばされました。って漫画かよ? 
 漫画ならタイムスリップか異世界ってところか。
 タイムスリップ…………は嫌だな、こんなに自然豊かなら大昔だ。だとしたら人が全く居ない可能性がある。
 異世界は異世界で問題だな、ゲームみたいなファンタジーな世界だったら魔物に遭遇したとたんに終わりだろう。武器もない特別な力もないゲームで言えば名もない村人レベルの俺が戦えるわけもない。もしかしたら村人よりも弱いかもな。うつ病引きニートなんだし………………。

 あぁ、なにくだらないこと考えてるんだろう。
「進むか……」
 しばらく黙々と歩く、バカなことを考え出さないように身体を動かす。運動不足の身体には堪えるらしく汗がどんどん出る。ベタベタして気持ち悪い。
 大分進んだところでぽっかりと開けた空間に出た。薄暗い場所から日の光が差し込む場所に出たことでいくらか気分がマシになる。

 ここで休憩しよう。近くの木にもたれ掛かる。随分と歩いた気がする。
 スマホで時間を確認すると十三時前だった。五時間近くも歩き続けたんだと思うと疲れが一気に身体を襲う。このまま寝てしまえたらどんなにいいだろう。
 でもこんな森の中で野宿なんて絶対したくない。
 三十分程休憩してまた歩き出す。

 疲れと空腹感からついグミを頬張る。気づけば三袋空にしていた。
 喉が渇いた……。せめて水場くらいないのか。

 ぐきゅるる~。
 忘れていた。
 グミを食べ過ぎると腹痛になるんだった……。
「うぅぅ」
 我慢できそうにない。


「はぁ、ティッシュ持っててよかった」
 もう嫌だ。普通にトイレで済ませたいし、風呂にだって入りたい。
 無理してでも歩くスピードを上げて、森を抜けてしまおう。
 そんなことを考えていたとき、奇妙な鳴き声が聞こえた。不安が一気に膨らんだ。
 俺は疲れているのも忘れて無我夢中で走った。


 息が切れて、動けなくなって膝をつく。
「ヒュー、ヒュー、ヒュー」
 身体が酸素を求めて呼吸が荒くなり喘鳴がする。

 しばらくしてやっと呼吸が落ち着いてきて、ようやく気付く。
 俺は街道らしき場所に居た。
 ――轍がある! 人がいるんだ! まだ明るいし今日中に人のいる場所にたどり着けるかもしれない。
 疲れてはいたけど、早くこの状況から脱したい一心で轍に沿って歩き続けた。

 小高い丘を登り切ると町が見えた。
「やった……」
 人がいる場所にたどり着けた。疲労で足が重たいがそんなこと気にせず走った。
 全然速くなんてなかったけど、それでも走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...