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61.最終話2

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「ルナ様は?」
「ルナ様はこちらには二度と来られることはなかったそうよ」
「そんな・・・」
「そんな生き方を選んだのでしょうね」

 お母様は優しい手つきで僕の髪をなぜてくれた。


 次の日、真面目に勉強をした。
 リュート王のような王様になりたいと思ったからだ。
 もっともっと、リュート王を知りたいとも思った。人魚のことも知って仲良くなりたいとも。
 
 僕はまだ人魚を見たことがない。
 
「アーシャは人魚を見たことがある?」
 
 アーシャに聞いてみた。彼女は明るい顔で首を振る。

「正直言いますと、ないですね。私たち一族は長らく王族に仕えていますが、人魚を見たのは片手に満たないそうです。ひぃお祖母様でも人魚の姿では見ていないと言っていました」
「そうなんだ・・・」

 声は聞こえることはあっても姿を見たことがないとなると断然興味が湧いた。
 本当に昨日見た本の中に描かれていたような姿をしているのか気になる。

 だから人魚を見てみたいと思ってしまう。
 
「・・・ひぃお祖母様は泣いていました」

 アーシャはポツリと呟いた。

「うん?」

 どうしたのかと、海を見ている彼女を見上げた。その顔はどこか悲しげに見える。
 
「ひぃお祖母様は幼い頃から仕えていたアルフリード様と可愛く思っていたフィーがなんの別れもなく、いなくなったことを亡くなるまで悲しんでいたのを覚えています。幼いころの私はそれが悔しくて人魚という存在が嫌いでした」

 苦しそうな告白に僕は聞く。
 
「今もアーシャは人魚が嫌いなの?」
「わかりません。殿下に・・・アトラス王家に仕えるためにたくさんの人魚にまつわる話を読んで勉強をしました。その中で人魚がますますわからなくなったのも本当です。もし可能なら・・・会ってみたいです・・・」
「うん。僕も会いたいな・・・。知りたいことがたくさんあるね」
「はいっ」

 波の音が心地よく聞こえる。

 僕たちはその音をゆっくりと聞いていた。
 そんな時に声が聞こえてきた。


「もうっ!やだっ!!」

 僕はアーシャに目をやった。彼女は僕を見たあと、すぐに周りを警戒をしながら声のする方へとゆっくり歩き出した。

 僕もそれに続く。

「殿下はここにいてください」

 張り詰めたアーシャの声に僕は首を振る。

「危ないことはしないよ」
「・・・では離れないでください」

 頷き二人で声をする岩場に近づく。

「不法投棄禁止!網くらいちゃんと回収しなさないよ。全く!」

 少し甲高い声からすると女の子のだろう。
 近づくにつれて文句を言う声が大きくなっていった。

 僕たちは岩場の向こうを見て、声を失った。そして相手も僕らを見て驚いていた。

「やっーーーっ!!なんでなんで!!ここにがいるのよぉ!!」 

 彼女はぼくらを見て悲鳴をあげ浜辺を転げ回った。

 僕らの前にまさに人魚がいた。
 銀の髪に紫の瞳をしていて、青に魚の尾鰭がある。ただし、全身漁の網でがんじがらめの姿をしてもがいていた。

「やぁだあーー。食べられちゃうっ!!」

 威勢のいい声に僕は思わず笑ってしまう。
 人魚は頬膨らませながら海に戻ろうとしていたので、笑いながら引き止めた。

「食べないよ。それより、暴れるから余計に絡まってない?」

 見た時より酷い状況になっている。

「うそっ?やだ、ほんとだ。あれ??取れないっ」

 髪や鱗に引っかかっているようだ。
 僕は取るのを手伝うために近づいた。

「殿下!」
「大丈夫だよ。アーシャも手伝って」
「あっ、はい・・・」

 10分くらいかかって網を取り除くと、人魚はほっとしたのか肩の力を抜いた。

「ありがとう。助かったわ」

 にこにこと笑う人魚は可愛いかった。どのくらい生きているのか。僕と変わらないくらいに見えた。

「なんで網に絡まってたの」
「友達の亀が底に落ちてた網に絡まってたのを助けたの。でね、網があるとまたからまりそうだったから、ここに捨てに来たんだけど私が絡まっちゃったんだよね」

 人魚はへへへっと顔をかく。

「気をつけるように言っておくよ」
「ほんと!良かった」

 紫の瞳がキラキラと輝いた。それを見て僕の胸はドキドキした。初めて他人の目が綺麗だと思った。
 そしてなんだかわくわくした。

「ねぇ、あなた名前は??」
「僕?僕は・・・リュシード。君は?」
「私はフィレーネ。偉大な魔女の名前なんだって」

 人魚・・・フィレーネは自慢げに言ってきた。

「どんな人魚??」
「えっとね・・・」

 彼女は楽しそうに話し出してくれた。



 



 僕たちがどうなってゆくかはわからない。だけど、僕らの未来はここから始まってゆく。


 幸せな未来を夢見て毎日を過ごしていくのだ。

 
 波が打ち寄せる音は絶えず続く。
 
 彼女たちの残した足跡は消えたとしても新しい痕跡をつくり、紡がれる形は途切れることはない。


 
 この話は僕の未来の話につながる。僕たちの話がこれから果てない未来へと続いてゆく・・・。


             ーおわりー

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