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「話はよく知っていると思うから割愛するけど、800年前、私の姉様であるフィレーネはこの国のフリック王子に恋に落ちた。でも、彼は隣国の王女と恋をした」
「それで・・・?」

 実名までは知らなかっただろう。ロイドとソレイユは身を寄せ合いながら、興味深そうに聞き入っている。

「物語と違うのはここからよ。フィレーネは自分に好意を向けられないことに怒り狂った。自身が泡になるうんぬんより彼の幸せを願えず彼を殺して自分も死のうと考え、王子に刃を向けた・・・」

『泡沫人になったのに、この思いを伝える術がない!薬が未完成だったのが悪いのよ』
『なんでよ!あの女ばかり見るの?なんで私を見てくれないの?わたしの名前を呼んでほしいのに!』
『泡になりたくない。あの二人は幸せになって、わたしは一人、泡となって消えるなんて嫌よ』
『お願い!お願いよ。わたしは愛してるの。わたしを愛してよ!!』
『憎い。わたしを見てくれないあの人が憎い。わたしを見てくれないならいらない。殺してわたしは一緒に泡になって消えるほうがいい・・・』

 今だにフィレーネがでない声で、私にだけ聞こえる声で必死に訴えてきたのを私は鮮明に聞こえる気がした。
 あの優しかった姉が相手の幸せを願えないほどの恋をして変わってしまった。目を血走らせ、髪を振りみだして泣いていた。行き場のない想いを私のせいにしなければならないほど心を壊していた。

 あの時、私にはどうにもできず見守ることしかできなかった。

「フィレーネは王子を襲った。でも、その直前リードがかばい、刺されて・・・海に落ちてきた。海水が真っ赤に染まって・・・」

 思い出すと胸が痛い。
 何もしなかった自分を呪いたい。あの時姉を止めていたなら。自分に足があれば・・・。

 震える私を落ち着かせるように肩にあるアルフの手に力が入る。

「あれは君が悪いわけではない。咄嗟だった。あの時のレネは正気ではなかった」
「それでも・・・私は・・・」
「どうにもできなかった。君は人魚だったんだ。だからこそ私は助かった」

 あれは私のエゴだ。
 後先なんて考えてなかった。

「違う。私は醜い人魚よ。恨みを言いながら泡になるフィレーネ姉様を見捨てた。私はあなたを死なせたくなくて、あなたが襲うだろう苦しみを考えもしなかった愚かな人魚なの」

 なぜ彼は私を責めないのかわからない。
 ずっとずっと苦しんでいたはずなのに。

 アルフに向かい合い、彼の胸を叩いた。

「800年よ。全部覚えてるんでしょう?大事な人が死ぬ様や苦しい思いも、痛い思いも全部を抱えて生きるしかなかったのよ。私はあなたが苦しんでいることさえ忘れて生きてきたのよ。私が・・・私が自分の・・・人魚の肉を食べさせたから・・・・・・」
「人魚の・・・肉?」
 
 セイネシアの声が浜に流れた。
 

 
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