(完結)泡沫の恋を人魚は夢見る

彩華(あやはな)

文字の大きさ
上 下
48 / 57

52.

しおりを挟む
 アルフ様は様子を伺っていたのだろう。ルナ様の怯んだ一瞬の隙をついてルナ様を拘束した。

「離して!!離しなさい」

 ぎっと睨みつけてくる。

「アルフ、遅いですよ」
「すまない。動機が知りたくて見ていた」

 暴れようとするルナ様の手から短剣が落ちた。
 
「離して」
「ルナ様。ソレイユ様は間違いなく人間ですなので・・・」
「ううっ・・・『うああああああぁぁぁぁっっっ』」

 ルナ様の口から《声》がでた。
 人魚だけがだせる魔力がこもった高音域の声。泡沫人にとっては痛いものでそこにいた誰もが耳を塞いでしまう。
 それによってアルフ様の拘束を振り払ったルナ様は短剣を拾い近くにいたリュート様に向かって突進していった。

 トン。

 それは動けるセイネ様がリュート殿下の前に躍り出たことで、ルナ様にぶつかる音だった。

「セイネシア?」

 なぜ?
 
 ルナ様からそんな言葉が聞こえた気がした。

 ルナ様は短剣を持ったままゆっくり離れる。
 セイネ様の左脇腹が真っ赤に染まっていた。

「っ!!」

 ソレイユ様の悲鳴が上がる。

「セイネシア?なんで?」

 ルナ様が思わず短剣を落とす。急いでアルフ様が再び彼女を掴んだ。

「セイネ!セイネ!!」

 リュート殿下が叫び倒れたセイネ様を抱きしめる。


ー動け!私の足、動け!!

 ドレスを真っ赤に染めているセイネ様の姿を見て震えた。
 それは、以前体験したような既視感を感じさせた。
 
ー恐れるな。しっかりしろ!私は・・・私は進まなければ・・・白昼夢にとらわれるな!

 私は足を進めようとしてまだ抵抗して叫びルナ様を見下ろした。

「ひっ」

 私を見て、ルナ様は怖いものでも見たような顔を引き攣らせる。

「人魚の声をむやみに使うなと決まってるはずよね」
「ああっ、あっ・・・」

 ルナ様は震え出し下を向いた。

「フィー?」

 アルフ様を無視してセイネ様の元へ行くと傷を見た。
 
 エプロンを脱いで止血しようとしたが生温かい血ですぐに真っ赤になってしまう。それほど傷は深かった。

 私の呪いまじないでは治すことはできない。このままではセイネ様の命はなくなる。ならばどうすればいい??

「セイネ様、聞こえますか?」

 息も荒く苦悶の表情をしたセイネ様の目がうっすらと開く。

「このままでは死にます。ですが生きる方法が一つだけあります」
「あるのか?!それを!!」

 リュート殿下の声が届いたが、人差し指を彼の唇に立てだまらせた。そうしながら私はセイネ様の瞳をしっかり見て冷静に言葉を紡いだ。

「ルナ様からいただいた回復の紙を使うのです。ですがそれはセイネ様がに戻ることを意味します」

 どこからか息を呑む音がした。
 彼女に選択肢を委ねるために続けた。

「そうなれば、二度と泡沫人になることはできません。それでもあなたは生きることを望みますか?」

 セイネ様は一度目を閉じた。そしてゆっくりと目を開けると微笑み口を動かした。

『人魚に戻るわ』

 セイネ様の心情は私にはわからない。でも生きることを望むのなら私がすべきことは一つだけ。

 服のポケットから紙を取り出した。
 

ーきちんと扱えるだろうか。いや、できる。私ならできる。怖がるな!

 大きな深呼吸をした。

「リュート様。離れてください」 

 呪いまじないの紙をセイネ様の傷の上に置いて手をかざした。

 緊張で心臓が速くなるのがわかる。
 風の音さえ大きな音に聞こえてきた。
 
 失敗をしたらという不安が付きまとう。
 
 不意に無音になる。そして明るい声がした。

『落ち着いて。大丈夫よ。あなたならできるわ』

ー私・・・私はできるんだった

 その声を聞いて冷静になった。
 歌のような『古代語』で呪文を唱える。
 
 その紙が渦を巻くように光りだした。
 その光を受け私は自分のことを思い出した。

ーそうだ・・・。私は・・・

 

 


 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...