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アルフ様は様子を伺っていたのだろう。ルナ様の怯んだ一瞬の隙をついてルナ様を拘束した。
「離して!!離しなさい」
ぎっと睨みつけてくる。
「アルフ、遅いですよ」
「すまない。動機が知りたくて見ていた」
暴れようとするルナ様の手から短剣が落ちた。
「離して」
「ルナ様。ソレイユ様は間違いなく人間ですなので・・・」
「ううっ・・・『うああああああぁぁぁぁっっっ』」
ルナ様の口から《声》がでた。
人魚だけがだせる魔力がこもった高音域の声。泡沫人にとっては痛いものでそこにいた誰もが耳を塞いでしまう。
それによってアルフ様の拘束を振り払ったルナ様は短剣を拾い近くにいたリュート様に向かって突進していった。
トン。
それは動けるセイネ様がリュート殿下の前に躍り出たことで、ルナ様にぶつかる音だった。
「セイネシア?」
なぜ?
ルナ様からそんな言葉が聞こえた気がした。
ルナ様は短剣を持ったままゆっくり離れる。
セイネ様の左脇腹が真っ赤に染まっていた。
「っ!!」
ソレイユ様の悲鳴が上がる。
「セイネシア?なんで?」
ルナ様が思わず短剣を落とす。急いでアルフ様が再び彼女を掴んだ。
「セイネ!セイネ!!」
リュート殿下が叫び倒れたセイネ様を抱きしめる。
ー動け!私の足、動け!!
ドレスを真っ赤に染めているセイネ様の姿を見て震えた。
それは、以前体験したような既視感を感じさせた。
ー恐れるな。しっかりしろ!私は・・・私は進まなければ・・・白昼夢にとらわれるな!
私は足を進めようとしてまだ抵抗して叫びルナ様を見下ろした。
「ひっ」
私を見て、ルナ様は怖いものでも見たような顔を引き攣らせる。
「人魚の声をむやみに使うなと決まってるはずよね」
「ああっ、あっ・・・」
ルナ様は震え出し下を向いた。
「フィー?」
アルフ様を無視してセイネ様の元へ行くと傷を見た。
エプロンを脱いで止血しようとしたが生温かい血ですぐに真っ赤になってしまう。それほど傷は深かった。
私の呪いでは治すことはできない。このままではセイネ様の命はなくなる。ならばどうすればいい??
「セイネ様、聞こえますか?」
息も荒く苦悶の表情をしたセイネ様の目がうっすらと開く。
「このままでは死にます。ですが生きる方法が一つだけあります」
「あるのか?!それを!!」
リュート殿下の声が届いたが、人差し指を彼の唇に立てだまらせた。そうしながら私はセイネ様の瞳をしっかり見て冷静に言葉を紡いだ。
「ルナ様からいただいた回復の紙を使うのです。ですがそれはセイネ様が人魚に戻ることを意味します」
どこからか息を呑む音がした。
彼女に選択肢を委ねるために続けた。
「そうなれば、二度と泡沫人になることはできません。それでもあなたは生きることを望みますか?」
セイネ様は一度目を閉じた。そしてゆっくりと目を開けると微笑み口を動かした。
『人魚に戻るわ』
セイネ様の心情は私にはわからない。でも生きることを望むのなら私がすべきことは一つだけ。
服のポケットから紙を取り出した。
ーきちんと扱えるだろうか。いや、できる。私ならできる。怖がるな!
大きな深呼吸をした。
「リュート様。離れてください」
呪いの紙をセイネ様の傷の上に置いて手をかざした。
緊張で心臓が速くなるのがわかる。
風の音さえ大きな音に聞こえてきた。
失敗をしたらという不安が付きまとう。
不意に無音になる。そして明るい声がした。
『落ち着いて。大丈夫よ。あなたならできるわ』
ー私・・・私はできるんだった
その声を聞いて冷静になった。
歌のような『古代語』で呪文を唱える。
その紙が渦を巻くように光りだした。
その光を受け私は自分のことを思い出した。
ーそうだ・・・。私は・・・
「離して!!離しなさい」
ぎっと睨みつけてくる。
「アルフ、遅いですよ」
「すまない。動機が知りたくて見ていた」
暴れようとするルナ様の手から短剣が落ちた。
「離して」
「ルナ様。ソレイユ様は間違いなく人間ですなので・・・」
「ううっ・・・『うああああああぁぁぁぁっっっ』」
ルナ様の口から《声》がでた。
人魚だけがだせる魔力がこもった高音域の声。泡沫人にとっては痛いものでそこにいた誰もが耳を塞いでしまう。
それによってアルフ様の拘束を振り払ったルナ様は短剣を拾い近くにいたリュート様に向かって突進していった。
トン。
それは動けるセイネ様がリュート殿下の前に躍り出たことで、ルナ様にぶつかる音だった。
「セイネシア?」
なぜ?
ルナ様からそんな言葉が聞こえた気がした。
ルナ様は短剣を持ったままゆっくり離れる。
セイネ様の左脇腹が真っ赤に染まっていた。
「っ!!」
ソレイユ様の悲鳴が上がる。
「セイネシア?なんで?」
ルナ様が思わず短剣を落とす。急いでアルフ様が再び彼女を掴んだ。
「セイネ!セイネ!!」
リュート殿下が叫び倒れたセイネ様を抱きしめる。
ー動け!私の足、動け!!
ドレスを真っ赤に染めているセイネ様の姿を見て震えた。
それは、以前体験したような既視感を感じさせた。
ー恐れるな。しっかりしろ!私は・・・私は進まなければ・・・白昼夢にとらわれるな!
私は足を進めようとしてまだ抵抗して叫びルナ様を見下ろした。
「ひっ」
私を見て、ルナ様は怖いものでも見たような顔を引き攣らせる。
「人魚の声をむやみに使うなと決まってるはずよね」
「ああっ、あっ・・・」
ルナ様は震え出し下を向いた。
「フィー?」
アルフ様を無視してセイネ様の元へ行くと傷を見た。
エプロンを脱いで止血しようとしたが生温かい血ですぐに真っ赤になってしまう。それほど傷は深かった。
私の呪いでは治すことはできない。このままではセイネ様の命はなくなる。ならばどうすればいい??
「セイネ様、聞こえますか?」
息も荒く苦悶の表情をしたセイネ様の目がうっすらと開く。
「このままでは死にます。ですが生きる方法が一つだけあります」
「あるのか?!それを!!」
リュート殿下の声が届いたが、人差し指を彼の唇に立てだまらせた。そうしながら私はセイネ様の瞳をしっかり見て冷静に言葉を紡いだ。
「ルナ様からいただいた回復の紙を使うのです。ですがそれはセイネ様が人魚に戻ることを意味します」
どこからか息を呑む音がした。
彼女に選択肢を委ねるために続けた。
「そうなれば、二度と泡沫人になることはできません。それでもあなたは生きることを望みますか?」
セイネ様は一度目を閉じた。そしてゆっくりと目を開けると微笑み口を動かした。
『人魚に戻るわ』
セイネ様の心情は私にはわからない。でも生きることを望むのなら私がすべきことは一つだけ。
服のポケットから紙を取り出した。
ーきちんと扱えるだろうか。いや、できる。私ならできる。怖がるな!
大きな深呼吸をした。
「リュート様。離れてください」
呪いの紙をセイネ様の傷の上に置いて手をかざした。
緊張で心臓が速くなるのがわかる。
風の音さえ大きな音に聞こえてきた。
失敗をしたらという不安が付きまとう。
不意に無音になる。そして明るい声がした。
『落ち着いて。大丈夫よ。あなたならできるわ』
ー私・・・私はできるんだった
その声を聞いて冷静になった。
歌のような『古代語』で呪文を唱える。
その紙が渦を巻くように光りだした。
その光を受け私は自分のことを思い出した。
ーそうだ・・・。私は・・・
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