(完結)泡沫の恋を人魚は夢見る

彩華(あやはな)

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26.セイネとルナ2

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「800年の禁忌とはなんですか?何があったのですか?」

 自然と口に出ていた。
 知りたいという好奇心が勝ってしまったからだ。

 セイネ様もルナ様も私の存在を半ば忘れていたのか、二人同時に視線を送ってくる。

「あっ、すいません。気になったので。聞かない方が良かったですか?」
「・・・かまわないわ。こんな泡沫人がいるなんて面白いわ。ここまでくれば内緒にしてもしかたないしね」

 ルナ様は声を立てて笑った。

「では、話し終えたなら記憶消しの呪いをしましょうか?」
「だ・か・ら、今ではそんな呪いはないのよ。なんなの?セイネシア!こんな泡沫人がいるなんて聞いたことないわよ!」

ーなんで使えないのか!?

 人魚なら使えると思い込んでいたのだが、違うのだろうか。

「もういいわ。嘘はついてないようだし」
「人魚は嘘を見抜けるというのは本当なんですね!」
「目を輝かせないで。見抜けるのではなく、人魚は耳が良いから声の大きさ強弱、声の震える感じでなんとなくわかるだけよ」

 ルナ様はフーッと息を吐くと真顔になった。
 色々と表情を変える人なので見ていると面白い。
 
「人魚族に伝わっているのは、800年前に100歳の誕生日に魔女であるフィレーネ様が地上光の国に行ったとされているの。彼女はそこで人魚としてはやってはいけないことをしたと昔話として語られているわ」

ーフィレーネ・・・。

 先日行った村で出てきた名前によく似ていた。発音違いなのだろうか?

「何をしたのかルナ様なら知っているのですか?昔話として聞かされてはきましたが、具体的な話はありませんよね」

 セイネ様が質問する。
 ルナ様はクリームを塗った足をさすりながら私たちを見てきた。

「私も気になって何をしたかを調べたけど詳しくはわからなかったわ。でも先代の大魔女であったフィレーネ様が書いたとされる文献にはもう二人の名前があったの」
「もう二人ですか?」

ーもう二人?
 
 誰なのだろうとワクワクした。
 
 800年前の人魚伝説はきちんとした書物は読んではないがどんな内容かは物語としては聞いて知っている。
 人魚の世界とこの世界の話は違いがあるのだろうか・・・。
 そんな思いは悟られることはなく話は進む。

「その文献にはフィレーネは3姉妹だと記されているわ。フィレーネは女王候補であり、大魔女はフィレイネといった。そしてもう一人は二人の妹で先代の女王でもある、レイシアであると」

ーフィレーネとフィレイネ?似た名前が二人。それにレイシア?

 一人は先日行った村で出た名前だった。あの時はあまり思わなかったが二つの名前を同時に聞いて、ソワソワする自分がいた。
 
 
「フィレイネとフィレーネは双子で、しかも二人とも地上光の国に魅せられたとあったわ。女王候補であったフィレーネは当時の王子に一目惚れをした。その時に何があったのだと思うわ。女王候補だったフィレーネではなく、その妹のレイシアが女王になったことにも関係するくらいの、よほどのことがあったのだと思うの」

 ルナ様は一度、言葉を区切り大きく息を吸った。

「でなければ大魔女であるフィレイネと女王候補のフィレーネが一人の人物として伝わりはしないでしょう。
 それに泡沫人に人魚は姿を見せてはならない。人になることを禁止すると言われなかったと思うわ。女王がどこまで知っているかもわからないけど」

 一体何があったのだろうか気になった。

「つまりほぼわからないと言うことですね。だからといって、ルナ様の意向がわかりかねます」

 セイネ様は強い口調で言ってきた。

「そうね。私は人間に憧れているの。今までは魔女という立場から抑えていたわ。でもセイネシアが禁忌を犯して人間になった。女王もそれを許した。なら、私も破ってもいいと思ったのよ。
 薬はね、改良したの。大魔女フィレーネが残した薬と文献を頼りにして言葉に影響しないように。言葉が出るのは良かったけど、足の痛みが酷いなのは盲点だったわ」

 ルナ様は足をなぜながら自嘲する。

「セイネシアには悪いけど、私も譲るわけにはいかないの。簡単に泡になるつもりもないのだけどね。人間になるために卑怯なこともする気よ」
「ルナ様!!」
「怖い顔。そうね、あなたにこれをあげるわ」

 そう言って、一枚の紙を差し出してきた。
 中央には複雑な模様が描かれている。

「大魔女フィレーネが残した『回復』の呪いよ。私は使えなかったけど、セイネシアなら・・・いえ、そっちの子なら確実に使えるんじゃないかしら。これを使えば人魚に戻れるわ。だからすべてを譲ってあなたは海に帰りなさい。女王となり人魚の安寧を守るの」

 ルナ様は白い手。紙はひらひらと床に落ちた。

「ルナ様・・・、私は・・・私は」
「別に構わないけど。言葉のないあなたに何ができるかしらね」

 少し悲しそうにルナ様は笑っていた。
 それを厳しい瞳で見つめるセイネ様。
 
 私は行き場をなくした紙を拾いあげることしかできなかった。
 
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