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19.パーティー2
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カラナイ国の王女殿下と正反対を思わせる夜の闇のような真っ黒な髪に黒曜石のような黒い瞳の女性だった。
だが彼女は質素な布を纏い、上からずぶ濡れの姿をみて戸惑う人々。
この場には異質ともいえる彼女の乱入に会場は静寂につつまれる。
彼女はロイド殿下を見ると艶やかに笑い、手を伸ばしながら言葉を紡いだ。
「お待ちください。海の中であなたを助けたのはこの私です。私は・・・」
それだけ言うと、彼女はゆっくりその場で倒れてしまった。
「大丈夫か?医務室に!」
アルフさまが率先して近づき指示を出しにかかった。
ザワザワとした声が大きくなる。
私のドレスの裾を持つセイネ様の手が震えているのがわかった。
セイネ様を見ればガクガクと震え涙を流しながら首を幾度も振っていた。
口がぱくぱく開閉している。
まるで『違う』と動いているかに見えた。
言葉にできない悔しさがあるようだった。
「セイネ様・・・、部屋に戻りましょう」
こんな騒ぎがあれば、ダンスどころでなくなる。早々にパーティーも終わるかもしれない。
ならば、早々に部屋に戻ってもいいはずだと思い、近くにいたメイドに声をかけて、セイネ様を送っていった。
部屋に入るなりセイネ様はベッド一直線に行き、枕を抱えた。
声なき啜り泣きが聞こえる。
声も出せず泣くのはつらい。
聞いている方もどう言葉をかければ良いのかわからない。
ー私は・・・
肩を振るわせ泣いているセイネ様の背中をなぜた。
「さっきの方を知っているのですか?」
セイネ様は顔をあげわたしを見た。涙で化粧が落ち、アイシャドウやアイライナーが頬を汚していた。
もっていたハンカチでそれを拭いてあげながらセイネ様の目を見た。
「教えていただけますか?」
一度躊躇いを見せたが彼女は何か決心したのか小さく頷く。
なので、私はぽんっと手を打って提案した。
「では、はじめにドレスを脱いで楽になりましょう。身体を清めてからゆっくり話をしませんか?」
呆気にとられるセイネ様にわたしは微笑んだ。
こんな姿では落ち着いて会話もできない。
呼び鈴でマリー様を呼ぶとセイネ様のことを頼んだ。
その間に、私も着替えに戻るため部屋を出た。
ふわふわとしたドレスはやはりどうも性に合わないので、早く脱ぎたい。
「セイネ嬢はどんな感じだ?」
部屋を出てすぐにアルフ様が立っていた。
ーいつから?
「聞いてどうしますか?それより、あの黒髪の方は?」
「様子が気になったから聞いたんだ。あの女性は今は医務室で眠っている。・・・君は、彼女を人魚だと思うか?」
じっと見てくるアルフ様に、私は苦笑いした。
「なんでもかんでも人魚にしたいのですか?」
「そんなつもりはない」
「ではなぜ、人魚か聞いてくるのです?」
「・・・君は人魚の恋をどう思う?」
ー人魚の恋?
「彼女たちは報わなければ泡となって消える。それを見るのは辛くないか?ならば、泡になる前に海に帰ってもらいたい・・・」
どこか達観した凪いだ眼差しだった。
真面目に私の答えを口にする。
「それは・・・彼女たちが決めることで、泡沫人が気にすることではないわ」
「・・・・・・、そうか」
「そうよ。われわれは見守るしかないの」
「・・・わかった」
アルフ様は静か頷いた。
「では、失礼します」
部屋に戻ろうと踵を返した時、思いがけないアルフ様の声がした。
「フィー、その姿よく似合うよ」
「!!」
ばっと振り返ると、彼の去って行く後ろ姿があるだけだった。
ー何?なんって言った!?似合う?えっ?
急いで自分の部屋に入るとズルズルと座り込んだ。
顔が熱い。
それにドキドキと鼓動が早い。
『似合うよ』
その言葉で涙が湧いてくる。
どうしてなのかわからない。でもその言葉がなんだか懐かしくて、切なくて、そして嬉しく思った。
だが彼女は質素な布を纏い、上からずぶ濡れの姿をみて戸惑う人々。
この場には異質ともいえる彼女の乱入に会場は静寂につつまれる。
彼女はロイド殿下を見ると艶やかに笑い、手を伸ばしながら言葉を紡いだ。
「お待ちください。海の中であなたを助けたのはこの私です。私は・・・」
それだけ言うと、彼女はゆっくりその場で倒れてしまった。
「大丈夫か?医務室に!」
アルフさまが率先して近づき指示を出しにかかった。
ザワザワとした声が大きくなる。
私のドレスの裾を持つセイネ様の手が震えているのがわかった。
セイネ様を見ればガクガクと震え涙を流しながら首を幾度も振っていた。
口がぱくぱく開閉している。
まるで『違う』と動いているかに見えた。
言葉にできない悔しさがあるようだった。
「セイネ様・・・、部屋に戻りましょう」
こんな騒ぎがあれば、ダンスどころでなくなる。早々にパーティーも終わるかもしれない。
ならば、早々に部屋に戻ってもいいはずだと思い、近くにいたメイドに声をかけて、セイネ様を送っていった。
部屋に入るなりセイネ様はベッド一直線に行き、枕を抱えた。
声なき啜り泣きが聞こえる。
声も出せず泣くのはつらい。
聞いている方もどう言葉をかければ良いのかわからない。
ー私は・・・
肩を振るわせ泣いているセイネ様の背中をなぜた。
「さっきの方を知っているのですか?」
セイネ様は顔をあげわたしを見た。涙で化粧が落ち、アイシャドウやアイライナーが頬を汚していた。
もっていたハンカチでそれを拭いてあげながらセイネ様の目を見た。
「教えていただけますか?」
一度躊躇いを見せたが彼女は何か決心したのか小さく頷く。
なので、私はぽんっと手を打って提案した。
「では、はじめにドレスを脱いで楽になりましょう。身体を清めてからゆっくり話をしませんか?」
呆気にとられるセイネ様にわたしは微笑んだ。
こんな姿では落ち着いて会話もできない。
呼び鈴でマリー様を呼ぶとセイネ様のことを頼んだ。
その間に、私も着替えに戻るため部屋を出た。
ふわふわとしたドレスはやはりどうも性に合わないので、早く脱ぎたい。
「セイネ嬢はどんな感じだ?」
部屋を出てすぐにアルフ様が立っていた。
ーいつから?
「聞いてどうしますか?それより、あの黒髪の方は?」
「様子が気になったから聞いたんだ。あの女性は今は医務室で眠っている。・・・君は、彼女を人魚だと思うか?」
じっと見てくるアルフ様に、私は苦笑いした。
「なんでもかんでも人魚にしたいのですか?」
「そんなつもりはない」
「ではなぜ、人魚か聞いてくるのです?」
「・・・君は人魚の恋をどう思う?」
ー人魚の恋?
「彼女たちは報わなければ泡となって消える。それを見るのは辛くないか?ならば、泡になる前に海に帰ってもらいたい・・・」
どこか達観した凪いだ眼差しだった。
真面目に私の答えを口にする。
「それは・・・彼女たちが決めることで、泡沫人が気にすることではないわ」
「・・・・・・、そうか」
「そうよ。われわれは見守るしかないの」
「・・・わかった」
アルフ様は静か頷いた。
「では、失礼します」
部屋に戻ろうと踵を返した時、思いがけないアルフ様の声がした。
「フィー、その姿よく似合うよ」
「!!」
ばっと振り返ると、彼の去って行く後ろ姿があるだけだった。
ー何?なんって言った!?似合う?えっ?
急いで自分の部屋に入るとズルズルと座り込んだ。
顔が熱い。
それにドキドキと鼓動が早い。
『似合うよ』
その言葉で涙が湧いてくる。
どうしてなのかわからない。でもその言葉がなんだか懐かしくて、切なくて、そして嬉しく思った。
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