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七十一話、学園祭目玉 アンドリュー視点
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母さんたちに連れられてきたのは、これから行われる、学園祭目玉の模擬剣術大会の会場だった。
一応学生対象で、騎士科から一般科の男女全ての学生が対象にされ、誰でも参加できる。男子の部と女子の部で分かれているので基本別々になっていて、やはり男子の部の方が人気は高い。
優勝者には、賞金と願い事を言える権利がもらえる。
去年は、アルと言うやつが騎士科の万年一位を破り優勝した。
学生らしいが、誰も知らない謎の男として認識されている。顔も甲冑で覆われ、素顔を晒すこともなかった。
学園長とアルゼルト殿下が何も言わないところを見ると、ちゃんとした身元と言え、誰も異論を唱えることはなかった。
負けた相手さえ、文句を言うことなく・・・。
あの後、女たちが躍起になってアルを探していたのは有名な話である。
既に観客でいっぱいのなか、ポッカリと空いた、王族優先席近くに堂々と座る。
座って落ち着いた頃、母さんが口を開いた。
「アン、ごめんなさいね」
細い眉を八の字にさせて、言った。
「母さん・・・」
「手紙ありがとう。連絡もせずに、心配かけたわね」
「元気、なら良かったよ。できればもっと早く会えたら・・・良かった。ごめん、何もできずに・・・」
やっと、
やっと言えた。
「かあしゃま?このおにいちゃまも、かあしゃまなかすの?」
金色に近い茶色の小さな目が自分を見る。
なるほど、アメリアが可愛くて仕方がないのがわかる。
「お父様は違うけど、サリーのお兄様よ」
「おにいちゃま?」
「アンドリューだよ。サリー」
小さな天使はその手を僕の頬に当てた。
温かい。
泣きそうになる。
「アンドル?」
「アンでいいよ」
「アンにいちゃま」
可愛らしい。
「母さん、幸せ?」
「ええ。すごく幸せよ。見てわからなかったかしら?」
首を振った。
アメリアを見ていたらわかる。純粋で一直線。自分より他人の幸せを願う。愛されて育ったからこそ彼女と言う存在があるのだ。
見ていてわかる。アメリアが母さんが大好きだと言うことも。
羨ましい・・・。
「それにしても、あの子、あなたにわたしのこと言うの忘れてたのね。もう、おっちょこちょいなんだから。アン、しっかりアメリアを捕まえておきなさいね」
もちろん。
彼女を手放す気はさらさら無い。
僕は力強く頷いた。
一応学生対象で、騎士科から一般科の男女全ての学生が対象にされ、誰でも参加できる。男子の部と女子の部で分かれているので基本別々になっていて、やはり男子の部の方が人気は高い。
優勝者には、賞金と願い事を言える権利がもらえる。
去年は、アルと言うやつが騎士科の万年一位を破り優勝した。
学生らしいが、誰も知らない謎の男として認識されている。顔も甲冑で覆われ、素顔を晒すこともなかった。
学園長とアルゼルト殿下が何も言わないところを見ると、ちゃんとした身元と言え、誰も異論を唱えることはなかった。
負けた相手さえ、文句を言うことなく・・・。
あの後、女たちが躍起になってアルを探していたのは有名な話である。
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座って落ち着いた頃、母さんが口を開いた。
「アン、ごめんなさいね」
細い眉を八の字にさせて、言った。
「母さん・・・」
「手紙ありがとう。連絡もせずに、心配かけたわね」
「元気、なら良かったよ。できればもっと早く会えたら・・・良かった。ごめん、何もできずに・・・」
やっと、
やっと言えた。
「かあしゃま?このおにいちゃまも、かあしゃまなかすの?」
金色に近い茶色の小さな目が自分を見る。
なるほど、アメリアが可愛くて仕方がないのがわかる。
「お父様は違うけど、サリーのお兄様よ」
「おにいちゃま?」
「アンドリューだよ。サリー」
小さな天使はその手を僕の頬に当てた。
温かい。
泣きそうになる。
「アンドル?」
「アンでいいよ」
「アンにいちゃま」
可愛らしい。
「母さん、幸せ?」
「ええ。すごく幸せよ。見てわからなかったかしら?」
首を振った。
アメリアを見ていたらわかる。純粋で一直線。自分より他人の幸せを願う。愛されて育ったからこそ彼女と言う存在があるのだ。
見ていてわかる。アメリアが母さんが大好きだと言うことも。
羨ましい・・・。
「それにしても、あの子、あなたにわたしのこと言うの忘れてたのね。もう、おっちょこちょいなんだから。アン、しっかりアメリアを捕まえておきなさいね」
もちろん。
彼女を手放す気はさらさら無い。
僕は力強く頷いた。
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