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五十二話、誘拐

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 馬車に乗り込むと、なぜかそこにはサーシャス王女殿下がいた。
 間違って乗ったのだろうか・・・。わたしはミッシェル様やポニー様と同じ馬車だと思っていましたが・・・。

「間違いじゃないわよ。二人きりで話がしたくて変わってもらったの」

 なんです?再び拷問時間ですか?
 二人っきりはすごく嫌ですが・・・。

 ガタガタと動き出しました。

「感謝してるわ」

 およ?
 素直になってます?

「知らないことばかりだった。水って、気もちいいだけだと思ってたけど、違うのね。お皿洗いなんてはじめてやったわ。重かったわ。はっきり言って、私、平民にはなれないわ」
 
 はっきり言いましたね。

「貴女は何を知ってるの?私、できないことばかり、でも、もっと知りたいの。貴女の知ってること、経験したこと聞きたいの、教えて!」

 プッ・・・

「なによ・・・」
「いい感じに変わられましたね」
「ふん、誰かさんのせいよ」

 可愛らしくそっぽを向かれます。
 わたしは領土の話をしました。父のこと、母のこと。弟のこと。
 暮らしのこと。

 キラキラと目を輝かせ聞いています。わからなければ質問責めしてきます。

 初めの気の重たさもどこかに行き楽しいです。

 なので、異変を感じ取るのが送れました。

 ガタッ

 馬車が急に止まり、外から声が・・・

『馬車から出ないでください』と。

 カーテンの隙間から見ると、盗賊らしき人たちな囲まれている。

「何?」
「賊です。サーシャス様、これから言うことしてください」

 手短に説明すると、準備しました。
 今日着ているドレスが、ゴテゴテしてなくてよかった。
 早業の如く、殿下の服と取り替えると座席下からウィッグを装着、そして殿下と同じ瞳の色のカラコンを入れ目元だけアイラインを引く。
 殿下には悪いけどひん剥かせてもらいました。発育いいですね。
 おっと、痴女じゃありませんから。

 10分程度の事ですが、まだ外は騒がしい。
 アルゼルト殿下やラフィス様は大丈夫でしょう。それぞれ婚約者がついているので、必ず守り通すはず。
 ならば、一番危険なのは私たちの馬車。乗っているのは私たちだけですし、騎士も少ない・・・。出る直前に変わってしまったから・・・。

 大丈夫、やれる。
 私まで狼狽えていたら、サーシャス殿下を不安にしてしまう・・・。

 安心させるように抱き寄せ、終わるのを待った。

 ガシャン

 窓ガラスが割られ、そこから、悪意の満ちた顔を覗かせる。

「みぃ~つけた」

 地獄の使者かしら?
 サーシャス殿下を抱きしめる力が強くなった。

 馬車が急に動きだす。

 泣きそうなサーシャス殿下・・・。



 はぁ~。
 こうなったんだもの、アルゼルト殿下に棄権手当請求しないといけないよね。
 
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