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13.カインゼル殿下
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「カインゼル殿下へ
改めて、アリシア様との婚約おめでとうございます。あの時に言うことができず、申し訳ありませんでした。
わたくしは殿下に会えて楽しかった。
幼い頃からたくさん語りましたね。殿下の語る国の未来は私とって夢物語のようでした。キラキラとした眼差しで語る姿が羨ましかった。
わたくしが無理があると言っても、調べて実現ができるんだ!と力説しついたこともありました。
わたくしのあの一時は、生きる希望になっていたのです。
途中からすべてを捨てる覚悟をしたとしても・・・。
わたくしは殿下が造るこの国を見てみたいと思ってしまった。
わたくしの我儘を許してください。
でも、わたくしが愛し、生きたこの国をたくせるのは殿下しかいないのです。
わたくしの分まで幸せになってください。
殿下の作る国を見ることはできません。
殿下なら、素晴らしい国を作ることができると信じております。
今もその志を持ち続けていることを願っております。
私は、殿下に出会えて幸せでした。
さよなら。カインゼル殿下。
これからの人生に幸大きことをー。」
僕にはたったこれだけの内容だった。
虚しかった。
宰相の娘であるケイカに会ったのはまだ幼い頃。フレイの後ろを隠れるようについて王宮にきていた。
走ることもできない、すぐに熱を出す妹的存在。
でも、勉強熱心で王宮に来るたびによく討論することもあった。
年を重ねるごとに王宮に来ることも少なくなり、気にはしてはいたものの自分のことででがいっぱいだった。
まさか、それほど病が進行しているとは知らなかったのだ。
エリアルとエミリアはよく屋敷に行っていたから、話は聞いてはいたがそれだけのこと。
我儘の噂だって、鵜呑みにしていた。
病弱だから我儘を言っているのだろうと思っていた。
高いドレスを買ってすぐに売ると聞いていたが、もしかすればその認識は違っていたのかもしれない。
宰相が目に入れても痛くないと溺愛していた。
死ぬことがわかっていたからこそ、宰相はケイカを喜ばせようとあれこれと買い与えていたのかもしれない。
宰相がケイカに甘い理由が、こうなってみてわかるなんて思いもしなかった。
まさか、こんなに早く逝ってしまうと思わないだろう。
僕があのままエリアルと結婚すれば、君は幸せをつかめたのかい?
短い一生を悔いなく生きれたのだろうか?
わからない。
君のことがわからない。
なんで、そんなに僕を買い被るのかも。
なぜ、なにも言ってくれなかったんだ。
すべて後悔しても遅かった。
僕は本当は周りを見ているつもりで、実は自分しか見ていなかったことにやっと気づいた。
いつから想像がつかなくなったのだろう?
他人を気遣う気持ちを忘れていたのだろう?
本当に僕が国王になっていいというのかい?
教えてくれよ。
何もかも遅すぎた。
*******
僕は生きる。
ケイカが逝ってしまって、十五年。
あれから、僕のために頑張ってくれたアリシアと一緒になった。
僕の結婚を機に父上はケイカのことに責任を感じたのか、国王の座を僕に譲って隠居し、王都から離れていった。
僕たちに、子供も生まれた。
幸せな生活を送っているように見せている。
だが、この幸せはケイカ、君の死の上に成り立っているものだ。
人の闇や汚さを目の当たりにし、自分で決断する。
自分の心を傷つけることも沢山あった。責任の重さがのし掛かり、すべてを投げ出したくなることだってある。
あれから人々の僕たちを見る目はきびしかった。一挙手一投足を見られていた。
批判の声、軽蔑の声が聞こえてくることもある。
逃げたい。けれど逃げるわけにはいかない。
当たり前のことだ。
ケイカの願いで僕はここにいるのだから、弱音を吐いてはいけない。
どんなことを言われようとも受け入れるしかなかった。
たくさんの想いを背負いながら僕は生きている。
どんなに苦しくても、僕が決めた道なのだ。
偽りの笑みを貼り付けて、幸せなふりをする。
弱い心をひた隠し強者の道を進む。
僕には与えられ、ケイカには与えられなかった「生きる」ことをする。
僕はケイカの最後の手紙ー、願いを叶えるために前を向いて生きていくしかない。
アシュレイ公爵一家は一切、呼び出しにも応じない。『まだ喪があけていない』とだけ手紙が届く。
失って初めて、大切な物にきづく。
親友、仲間。心の支え・・・。
いずれ、向こうに逝ったとき、ケイカは笑ってくれるのだろうか?
無理だろう。
それでいいのだ。
今年の建国祭が終わった。
金木犀の香りが漂う季節。
ケイカの好きだった花の匂い。
そんな季節が巡ってきたのかと感傷にひたる。
ケイカの姿を思い出す。
背筋を伸ばし、艶やかに笑った顔。
美しいカーテシーの姿を。
あの美しい顔を濡らす涙。
金木犀の花言葉を思い出す。
金木犀の花言葉はー「気高い」
君の姿が金木犀に重なるー。
改めて、アリシア様との婚約おめでとうございます。あの時に言うことができず、申し訳ありませんでした。
わたくしは殿下に会えて楽しかった。
幼い頃からたくさん語りましたね。殿下の語る国の未来は私とって夢物語のようでした。キラキラとした眼差しで語る姿が羨ましかった。
わたくしが無理があると言っても、調べて実現ができるんだ!と力説しついたこともありました。
わたくしのあの一時は、生きる希望になっていたのです。
途中からすべてを捨てる覚悟をしたとしても・・・。
わたくしは殿下が造るこの国を見てみたいと思ってしまった。
わたくしの我儘を許してください。
でも、わたくしが愛し、生きたこの国をたくせるのは殿下しかいないのです。
わたくしの分まで幸せになってください。
殿下の作る国を見ることはできません。
殿下なら、素晴らしい国を作ることができると信じております。
今もその志を持ち続けていることを願っております。
私は、殿下に出会えて幸せでした。
さよなら。カインゼル殿下。
これからの人生に幸大きことをー。」
僕にはたったこれだけの内容だった。
虚しかった。
宰相の娘であるケイカに会ったのはまだ幼い頃。フレイの後ろを隠れるようについて王宮にきていた。
走ることもできない、すぐに熱を出す妹的存在。
でも、勉強熱心で王宮に来るたびによく討論することもあった。
年を重ねるごとに王宮に来ることも少なくなり、気にはしてはいたものの自分のことででがいっぱいだった。
まさか、それほど病が進行しているとは知らなかったのだ。
エリアルとエミリアはよく屋敷に行っていたから、話は聞いてはいたがそれだけのこと。
我儘の噂だって、鵜呑みにしていた。
病弱だから我儘を言っているのだろうと思っていた。
高いドレスを買ってすぐに売ると聞いていたが、もしかすればその認識は違っていたのかもしれない。
宰相が目に入れても痛くないと溺愛していた。
死ぬことがわかっていたからこそ、宰相はケイカを喜ばせようとあれこれと買い与えていたのかもしれない。
宰相がケイカに甘い理由が、こうなってみてわかるなんて思いもしなかった。
まさか、こんなに早く逝ってしまうと思わないだろう。
僕があのままエリアルと結婚すれば、君は幸せをつかめたのかい?
短い一生を悔いなく生きれたのだろうか?
わからない。
君のことがわからない。
なんで、そんなに僕を買い被るのかも。
なぜ、なにも言ってくれなかったんだ。
すべて後悔しても遅かった。
僕は本当は周りを見ているつもりで、実は自分しか見ていなかったことにやっと気づいた。
いつから想像がつかなくなったのだろう?
他人を気遣う気持ちを忘れていたのだろう?
本当に僕が国王になっていいというのかい?
教えてくれよ。
何もかも遅すぎた。
*******
僕は生きる。
ケイカが逝ってしまって、十五年。
あれから、僕のために頑張ってくれたアリシアと一緒になった。
僕の結婚を機に父上はケイカのことに責任を感じたのか、国王の座を僕に譲って隠居し、王都から離れていった。
僕たちに、子供も生まれた。
幸せな生活を送っているように見せている。
だが、この幸せはケイカ、君の死の上に成り立っているものだ。
人の闇や汚さを目の当たりにし、自分で決断する。
自分の心を傷つけることも沢山あった。責任の重さがのし掛かり、すべてを投げ出したくなることだってある。
あれから人々の僕たちを見る目はきびしかった。一挙手一投足を見られていた。
批判の声、軽蔑の声が聞こえてくることもある。
逃げたい。けれど逃げるわけにはいかない。
当たり前のことだ。
ケイカの願いで僕はここにいるのだから、弱音を吐いてはいけない。
どんなことを言われようとも受け入れるしかなかった。
たくさんの想いを背負いながら僕は生きている。
どんなに苦しくても、僕が決めた道なのだ。
偽りの笑みを貼り付けて、幸せなふりをする。
弱い心をひた隠し強者の道を進む。
僕には与えられ、ケイカには与えられなかった「生きる」ことをする。
僕はケイカの最後の手紙ー、願いを叶えるために前を向いて生きていくしかない。
アシュレイ公爵一家は一切、呼び出しにも応じない。『まだ喪があけていない』とだけ手紙が届く。
失って初めて、大切な物にきづく。
親友、仲間。心の支え・・・。
いずれ、向こうに逝ったとき、ケイカは笑ってくれるのだろうか?
無理だろう。
それでいいのだ。
今年の建国祭が終わった。
金木犀の香りが漂う季節。
ケイカの好きだった花の匂い。
そんな季節が巡ってきたのかと感傷にひたる。
ケイカの姿を思い出す。
背筋を伸ばし、艶やかに笑った顔。
美しいカーテシーの姿を。
あの美しい顔を濡らす涙。
金木犀の花言葉を思い出す。
金木犀の花言葉はー「気高い」
君の姿が金木犀に重なるー。
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