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マルクの回顧録

悪戯

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 あれは、10歳の時、父に3歳年上の兄と一緒に王宮に連れて行かれた時だった。
 二人の王子に引き合わされた。
 自分より5歳下のアルフリード殿下ともう一つ下のロディク殿下。
 ロディク殿下は出会って早々にぐずりだし、乳母と部屋に帰っていった。

 アルフリード殿下は聡明な方で兄との会話を楽しそうにしていた。つまらなかった。
 だから、庭の花を見ていた。

 「おい、これをやる」

 いつの間にか、アルフリード殿下が横に来て、手を差し出していた。何だろうとそれをもらった。
 真っ黒なG君だった。
 「#×\☆€×<」
 声にもならない悲鳴をあげた。もちろん手の内の物は即効投げ捨てた。

 殿下は大笑い。

 「殿下っ!」

 マジ怒りしかなかった。

 「よくもやりましたね。しかもよく持てますね。やめてください」

 殿下は不思議そうに僕の顔を見たが、すぐに悪戯顔に戻っていった。

 それが最悪な初対面だった。

 その後も会いに行くことになった。その度に悪戯をされ泣かされ続けた。穴に落とされたり、なぜか犬に追われることになったり、ミミズまみれにされたり・・・。嫌われているのかと思いきや、なぜか僕はアルフリード殿下の従者になり側に控えるようになった。

 その頃には学園に行っていた兄は、殿下に会いに行ってはボロボロに帰ってくる僕を心配してはくれたが、助けてはくれなかった。
 逆に、なぞの言葉を言った。

 「意外だな・・・。もっと大人かと思ったけど、マルクの前では仮面をとってるのかな?うん、いい傾向だよね。マルク、しっかりお相手するんだよ。きっとアルフリード殿下の将来は君に掛かってるからね」

 わけわかんねぇよ・・・。兄ちゃん・・・。しんどいよ。疲れ、た・・・。
 パタッ・・・。

 「マルク?廊下で寝ないで・・・」



 
 十三歳になると、僕が学園に入ったため、殿下に会うのは学園が終わってからと、休みの時だけになった。

 殿下はかわらず僕に悪戯をした。

 縛られて枝で突かれたり、鳥の羽でこそばられ続けられたり、氷水の中に落とされたり、熱々料理を口に突っ込まれたり、片足で何時間耐えられるかとか、伝説の大魚を釣るからと餌として川に落とされるとか、とか。
 危険な時は殿下の魔術で助けてはくれたが酷かった。酷かった。

 思い出したくなくなるようなこと、人に言えないようなことまであった。
 他人に事もあった。
 生理現象は我慢できません。絨毯に・・・。 
 それを殿下に見られたら・・・正に悪夢。忘れたい黒歴史。

 これっていじめじゃない?毎度僕は怒るのに懲りてくれなかった。

 そして家に帰ると泣いたよ。
 兄さんに殿下の従者を辞めたいって。
 宥められ、辞めることはできなかった。

 殿下は時たま面白くなさそうな顔をした。
 全てを諦めたような、孤独に耐えるような寂しい顔をした。

 そして、そう言う時に限って行き過ぎることをするのにいつからか気付いた。


 殿下が九歳、僕が十四歳の時、城の塀を登らされた。途中塀の一部が欠けて落下。完一発の殿下の魔術で事なきを得たが、腕がぽっきり折れた。

 初めて殿下は泣いた。綺麗な顔が歪んだ。

 「だから嫌だって言ったんですよ。次は断固拒否しますから」
 「マルク。僕から離れない?」
 「?離れませんよ。僕はあなたの従者なんですよ」
 「ごめん。もうしない。だから・・・僕の側にいて・・・」

 殿下の初めての弱音だったと思う。
 数日後、殿下は王位継承権を弟のロディク殿下に譲ったと兄から聞かされた。

 兄は言った。

 「彼は天才なんだ。だからこの世界が狭く思えるんだ。面白くないんだ。一つ聞けば五十は理解できる方だから、こんな世界に興味が持てないんだろうね。
 今はマルクが外の世界とを繋いでるんだ。大役だよ。しっかり殿下を捕まえといてね。
 君がいなくなれば、きっとあの方は魔王になることも厭わないだろうから。
 もし、殿下が未来を見つける事が出来れば、賢王にでもなる事ができる。その時は僕は彼に尽くすだろうね」


 この言葉は忘れられなかった。

 僕では、殿下を満たすことが出来ないとも、痛感した時だった。

 
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