上 下
12 / 16

12.カイト  

しおりを挟む
2年経ったころ、一通の手紙が届いた。

差出人を見て驚いた。

エイトとアミー嬢の名前が連名で書かれてあったのだ。
一人、隠れるようにして中を見る。

そこには僕に会いたいと言う旨が書かれていた。

嬉しかった。

フィオナは王太子と結婚して父と母は僕に期待を寄せるようにしてくらしていた。
そんな僕に結婚相手がくるわけもなく、気楽な独身生活を送っていた。

口うるさい両親の目を欺き、エイトたちに会いに行く。

久々に会う、エイトとアミー嬢。
アミー嬢に会っていいものか、不安だった。

「おっ・・・カイト、さま。ご無沙汰しております」

気持ちが嬉しかった。

落ち着いたのか?

アミー嬢はエイトの手を握っていた。
緊張しているようだった。

それでもいい。
僕を見てくれたのだから。

泣きたかった。

抱きしめたい。

でも、だめだ。

僕の役目ではない。

「話はなんですか?」

あえて、触れないでいた。
安心したように緊張がわずかに薄れるのがわかった。

話は、皇帝陛下の結婚の事だった。
先月、皇帝陛下とセシル様のご成婚の儀があった。
そのお披露目会の参加者である、王太子夫妻のこと。

アミー嬢は今、外交を任されているらしく、招待状を携えてきているのだと言う。

そこまで聞いて、なぜ呼ばれたのかがわかった。

「皇帝陛下はわたしの一存で選んで良いとおっしゃいました・・・」

少しの期待が見えた。

僕はかぶりを振る。

「期待しないほうがいい。この国を見ればわかるだろう」

変な期待を持って欲しくなかった。

身勝手で自分本意なまま。

アミー嬢は静かに瞳を閉じた。

フィオナとはやはり似ていても似ていなかった。


*******

あれからあの国は崩れて帝国が統合した。

王太子殿下はフィオナとうまくいかなかった。
王太子殿下はやっと外を見たのだ。
お嬢様気質のフィオナは貧しい暮らしに耐えきれず、チヤホヤしてくれた騎士と駆け落ちをし、すぐに捕まった。王太子妃と言うのもあり死刑にはされず、修道院に入ったらしいが、病気で亡くなったと聞く。

母は『聖女』がいなくなったこと『聖女の母』でなくなった事に悲嘆し、狂った。
父はそんな母を介護していると言う。

僕にはすでに関係ないことだ。

国王陛下も王太子殿下も国を立て直すことはできなかった。

『聖女の為』と我慢していた国民は『聖女』
がいなくなったことで、一気に不満をあらわにしたからだ。

『聖女』の怖さを目の当たりにした。


僕は今、帝国で民間の図書館司書をしている。
誰でも借りることのできて、勉強も教えている場所。

就業時間を間近に迎えたころ、入り口に一台の馬車が停まった。



入って来たのはの息子のロイだった。
16歳になるロイはアミーに似た顔つきにエイトのような実力の持ち主だった。

「どうしましたか?」
「今日は家に来るんだろ」

今日は皇帝陛下夫妻と共に外交へ行っていたエイトとアミーが帰ってくるのだ。

「後で行くつもりでしたよ」
「嘘だ。そう言って何回来なかったんだか?」

16歳の若者だと言うのに、子供のように言う。

まだ、あの家の敷居を跨ぐのは高い。
どうしても気後れしてしまう。
それがわかっているのか、ロイはこうして僕を誘いにくる。

僕はまだ交流を持っていた。
あの二人が喧嘩するたびに僕はエイトに呼ばれる。
アミーはもちろん子供たちをつれてセシル様の元へ行く。
僕はエイトの愚痴と惚気を聞くのだ。

そんな関係だった。


僕は馬車に揺られてバウンゼント公爵邸へ行く。
ロイの妹のサナと弟のマイクが出迎えてくれた。
二人とも抱きついてくれる。

嬉しくて仕方ない。
可愛い。
たわいない話しをする。


しばらくして、二人が帰ってきた。

3人は急いで迎えに行った。


僕もゆく。

抱きついて出迎えている。

アミーの幸せな顔を見てホッとした。
その顔を見るだけで幸せになる。

だから、僕は言うのだ。




「おかえり。アミー」


アミーはとろけそうなほどの笑みを向け、僕に言った。






「ただいま帰りました。お兄様」







◇◇◇◇◇


次からはエイト編になります。





            
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

私のことなど、どうぞお忘れくださいませ。こちらはこちらで幸せに暮らします

東金 豆果
恋愛
伯爵令嬢シャーロットは10歳の誕生日に魔法のブローチを貰うはずだった。しかし、ブローチは、父と母が溺愛していた妹に与えられた。何も貰うことができず魔法を使うことすら許されないという貴族の娘としてはありえない待遇だった。 その後、妹メアリーの策略で、父と母からも無視されるようになり、追いやられるように魔法学園に通うことになったシャーロット。魔法が使えないと思われていたシャーロットだったが、実は強大な魔力を秘めており… さらに学園に通ったことが王族や王子とも出会うきっかけになり…

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...