上 下
72 / 76

72.ケティ視点

しおりを挟む
 あれから2年の月日が経つ。

 わたしも、ロード先生のもとで勉強し、ついに学園の卒業を迎えた。

 いつの間にかマルスとは喧嘩友達のような関係になっている。
 追い求めていたような恋焦がれる恋愛ではないが、このままの時間が流れていつかは・・・と淡い思いを抱くこともあった。
 でも、彼の中にはまだ彼女がいる。
 彼はわたしを見てくれない・・・。

 それもそう・・・、醜いわたしは希望を抱いてはならない。


 卒業式。
 わたしは学生服で会場に出ていた。
 家からは放逐されはわたしにはドレスを買う費用などない。

 ロード先生のおかげで、職はあり食べることや寝る場所には困らない。贅沢さえしなければどうにか暮らしていける。
 始めは惨めで悔しかったが、今では生きていけるだけで幸せなのだと感じていた。
 それに、困っている女性のために働いているため、やりがいがあるのだ。
 だからこそ自分がどんな姿であろうと、堂々とする気でいる。


 無事に式も終わり、パーティーの時間になると壁際で、わたしは飲み放題のワインを飲みながら隣をみた。
 隣ではマルスが同じく制服姿でソワソワしている。

「落ち着いたら?」
「しかし、帝国から特別ゲストがくるんだぞ」

 ロード先生の影響で『研究者』や『芸術家』などに興味を持つようになり、この卒業式で特別ゲストの来訪を聞いてわくわくがとまらないらしい。
 わたし自身なにが楽しいのかわからない。
 有名でなくてもかっこいい人なら目の保養にもなるし、少しは楽しくなるのだが。

 卒業パーティーも中盤になったころ、会場の扉が開く。
 国王陛下が現れた。その後ろには去年卒業した王太子殿下がいる。

 そして、その後ろには二人の美男美女がいた。

 黒髪の男性に銀色だろうか、白色にも見える髪色の女性。
 
 お似合いの二人に誰もが心奪われた。

「ノエル・・・」

 隣から小さな声。
 ばっと、マルスを見てそしてもう一度女性を見た。

「あっ・・・」

 遠目でわからなかった。
 以前ならおどおどした見た目で陰険な感じがしていたが、目の前にいるのは傷のある顔を躊躇なく曝け出し優雅に笑っている。それでも間違いなく彼女だった。

 彼女に気づいた者がいたのか、少しずつザワザワした空気が広がる。

「皆、改めて卒業おめでとう」
  
 国王陛下の言葉に一瞬にして静かになった。

「若い者たちの力を持ってこの国をこれからも支えてもらいたい。そして、彼女・・・ノエル・エルトニー伯爵令嬢のように素晴らしい功績を上げる者も出てきてほしいものだ」

 顔を見合わせあい、ざわめきだつ。

「ノエル嬢よ。やはりこの国を起点にするのは無理か?」

 しょげるような顔の国王陛下に彼女は眉を下げ微笑む。

「お誘いは嬉しいのですが、私のしたい研究は帝国を起点にするのが一番なのです。この国で実践するには難しいのですわ。私のような女が活動するには大変息苦しいですもの」

 国王陛下の顔が一瞬歪んだ。
 
 どんなに男女平等を求めようと、文化や民族意識が邪魔をする。古い掟を優先して新しいことを受け入れようとしない。

「それに、婚約者である彼・・・アーサーはこの度民族学研究の第一人者として皇帝陛下からも認められました。それにあたりこれからは彼はたくさんの国を巡ることになり私もついて行きますので無理ですわ」

 二人は互いに見つめ合い、頬を緩めた。
 
 
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

王子様、あなたの不貞を私は知っております

岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。 「私は知っております。王子様の不貞を……」 場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で? 本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

処理中です...