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68.マルス視点

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 帝国の牢屋は絨毯が引かれ高待遇が待っているわけもなく、凍りそうなほど冷たい石畳の中でボロボロの毛布一枚を巻きつけて僕はうずくまっていた。

「マルス・・・」

 冷たい声を聞いた瞬間、ブルリと寒気が走る。
 
「ライール・・・兄さん」
「だあれが兄さんだ?ノエルとの婚約は解消したよな?」

 解消・・・。でもー。
 立ち上がり、柵を掴んで訴える。

「ノエルは僕のです」 
「お前のじゃない」 
「僕のです。あの傷は僕がつけた。だから、僕のですっ。彼女を愛しているんです。彼女に合わせてください!話をさせてください。そうすれば、わかってくれる・・・」

 彼女は僕のだ。顔に傷のある女なんて、誰も見向きもしない。だから僕が妻にするんだ。傷をつけた僕が責任を持ってノエルを妻にするんだ。
 あの太陽の光を受けてキラキラと輝く髪、雪解けの氷のよう瞳。全部僕のものだ!!

「マルス・・・」

 ライルさんは冷たい目で僕を見てきた。重く長いため息が聞こえる。

「お前・・・遅いだろう。なぜ、そこまでノエルに固執するなら、護らなかった?なぜ、ノエルの味方にならなかった?お前が・・・お前自身がノエルを手放したんだろう?」

 それは・・・。
 みんなが・・・・・・。

 そう、みんなが、ノエルを醜いというから、仕方なく・・・。

「ノエルはお前から離れ、自分自身の足で立って前に向かって歩いている。幸せを自身の力で掴み取ろうとしてるんだ。そんなノエルの邪魔するな」

 ノエルが幸せを掴もうとしている?僕と共に歩くことじゃ得られないとでもいうのか?

「僕は邪魔なんてしない。ノエルの幸せは僕の隣にいることなんだ!」

 ライルさんはまたため息を吐く。

「もし、ノエルがお前の元に帰ってきたとしてお前はノエルをどうしたい?」
「どう・・・とは?」
「好きなことを好きなだけさせてやれるのか?好奇な目から護れるのか?」

 それは、屋敷でいてもらう・・・。あんなわけのわからないことは、やめてもらうに決まって・・・。

「ノエルは世界の広さを知った。自由をみた。柵しかないあの国で生きていけるわけはないだろう。そんなノエルを受け入れることがお前にはできるのか?明るく笑うノエルが想像できると言うのか?」

 明るく笑う・・・。

 僕は下を向く。

 久しぶりにノエルを見た時、彼女は笑っていた。見たことがない優しい表情に驚き、早く会いたくて追いかけたのだ。
 彼女は僕を見て驚き、困惑した顔をしていた。
 それに・・・ノエルは一緒にいた男が倒れた時、聞いたこともないような大きな声をあげ、そして泣いていた。

 どれも僕の前では見せたこともない表情ばかり。

 ノエルは同じことを僕のためにしてくれるだろうか・・・?

 想像ができなかった。
 静かに僕の隣で微笑むノエルしか思い浮かばない。
 それが当然だと思っていたのに、何かが違うと思ってしまう。

「もう一度聞くが、今のノエルの全てを受け入れることができるか?ありのままのあの子をお前は護ることができるのか?」
「・・・・・・」
 
 返事ができない。
 
「できないなら。諦めろ」

 ライルさんは静かに言い放つ。そして、声色を変えた。

「さて、お前の処分が決まった。内容は賠償金を払うことと、永久に帝国に立ち入らないことだ。ロマニズ公爵家の温情だ」
「・・・本当に・・・それだけ、ですか?」
「お前に対しては、だ」
「僕に対して・・・?」
「あとは国に対してだな。色々と交渉ネタを帝国に与えたわけだ。国に帰り次第、また何かしらの処分はあると思っとけ」
「・・・・・・」 
 
 そう言ってライルさんは帰って行った。
 
 僕は力を抜け冷たい床に座り込む。
 
 どこで僕は間違えたのだろう・・・。
 
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