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誰も風邪を引くこともなく、謹慎期間が明けたが、私はまだロマニズ公爵家にいた。
ミリア様が残りの冬休みー、一緒に新年を迎えようと言ってくれたからだ。その際、ロマニズ公爵様やアーサー様のお兄様が以前アーサー様が私の腕を掴んだことに対して直々に謝ってくれる。
すっかり忘れていたことなので、逆に申し訳なく思う。
私にしたら、アーサー様にいつでも会えることが正直嬉しかった。
元気になった彼を見て安心した私は、冷静になったのかここしばらく本を読んでいないことに気づく。しかも、読んでいた本はエマの屋敷に置きっぱなしにしていた。
手持ちぶたさになり、アルバート先生の部屋にある本を借りることにする。
アルバート先生はロマニズ公爵家の御当主様が帰ってきたことで、やっと研究に専念できると部屋にこもり新年の挨拶にきた以外、部屋からでてこない。
私は本を読む時間と共にエマやミリア様たちと交流する時間が増えた。左目を怪我をして以来、人前に出たことがなかったため緊張する。
でもたくさんの方と何気ない会話をするのはこんなに楽しいとは改めて気付かされた。
そして、今日ー急遽作られた眼鏡が出来上がってきたのだ。
エマやミリア様たちが悩みに悩み、私専用に作ってくださった片眼鏡。フレームに付けられたチェーンには邪魔にならないような小さな花の飾りがついている。
申し訳なく辞退したのだが、私には彼女たちを止める術を持ち合わせていなかった。
ありがたくいただき、誰もいない部屋でかけた。
そして、鏡の前に立つ。
前髪に隠れた眼鏡。見え方は確かに見やすい。だけど前髪で見にくい。
左側の髪を耳にかけた。
視界がクリアになって、眼鏡をかけた自分の顔に傷の色が鮮明に見える。
髪を下ろして隠す、また耳にかける。
何度も繰り返した。
そして、部屋の中をくるくると歩いた。鏡の前で立ち止まり、じっくりと自分をみる。鏡をのぞく。
同じ行動を幾度もした。
落ち着かない。これでいいのかと不安にも思ってしまう。
違う自分がいるようですごくドキドキするのだ。
「なにしてるの?」
エマが入り口でいた。いつからいたのだろう。扉を開け放していたみたい。
彼女は不思議そうに見ていた。
その横にはアーサー様も。
全部見られていたのだろうか?変な人に見られたかもしれない、そう思うと一気に羞恥心が押し寄せてくる。
だが・・・。
「似合う。かっこいい・・・」
真顔でアーサー様は呟いた。
・・・・・・。
一瞬、思考が止まる。
そして、反芻した。似合う?かっこいい?
背筋が痺れる感覚が走ったかと思うと、一気に恥ずかしくなった。
何気ない言葉なのに嬉しい。
好きな人に言われることでこんなに気恥ずかしくて戸惑ってしまって、どうしたらいいのかわからない。
ふつふつと頭が茹る感じがする。
「ノエル!?」
エマが叫んだ気がした。
私は・・・もう、立っていられなくなりしゃがみ込む。
その後、二日間寝込んだ。
風邪ではない。
知恵熱だったー。
ミリア様が残りの冬休みー、一緒に新年を迎えようと言ってくれたからだ。その際、ロマニズ公爵様やアーサー様のお兄様が以前アーサー様が私の腕を掴んだことに対して直々に謝ってくれる。
すっかり忘れていたことなので、逆に申し訳なく思う。
私にしたら、アーサー様にいつでも会えることが正直嬉しかった。
元気になった彼を見て安心した私は、冷静になったのかここしばらく本を読んでいないことに気づく。しかも、読んでいた本はエマの屋敷に置きっぱなしにしていた。
手持ちぶたさになり、アルバート先生の部屋にある本を借りることにする。
アルバート先生はロマニズ公爵家の御当主様が帰ってきたことで、やっと研究に専念できると部屋にこもり新年の挨拶にきた以外、部屋からでてこない。
私は本を読む時間と共にエマやミリア様たちと交流する時間が増えた。左目を怪我をして以来、人前に出たことがなかったため緊張する。
でもたくさんの方と何気ない会話をするのはこんなに楽しいとは改めて気付かされた。
そして、今日ー急遽作られた眼鏡が出来上がってきたのだ。
エマやミリア様たちが悩みに悩み、私専用に作ってくださった片眼鏡。フレームに付けられたチェーンには邪魔にならないような小さな花の飾りがついている。
申し訳なく辞退したのだが、私には彼女たちを止める術を持ち合わせていなかった。
ありがたくいただき、誰もいない部屋でかけた。
そして、鏡の前に立つ。
前髪に隠れた眼鏡。見え方は確かに見やすい。だけど前髪で見にくい。
左側の髪を耳にかけた。
視界がクリアになって、眼鏡をかけた自分の顔に傷の色が鮮明に見える。
髪を下ろして隠す、また耳にかける。
何度も繰り返した。
そして、部屋の中をくるくると歩いた。鏡の前で立ち止まり、じっくりと自分をみる。鏡をのぞく。
同じ行動を幾度もした。
落ち着かない。これでいいのかと不安にも思ってしまう。
違う自分がいるようですごくドキドキするのだ。
「なにしてるの?」
エマが入り口でいた。いつからいたのだろう。扉を開け放していたみたい。
彼女は不思議そうに見ていた。
その横にはアーサー様も。
全部見られていたのだろうか?変な人に見られたかもしれない、そう思うと一気に羞恥心が押し寄せてくる。
だが・・・。
「似合う。かっこいい・・・」
真顔でアーサー様は呟いた。
・・・・・・。
一瞬、思考が止まる。
そして、反芻した。似合う?かっこいい?
背筋が痺れる感覚が走ったかと思うと、一気に恥ずかしくなった。
何気ない言葉なのに嬉しい。
好きな人に言われることでこんなに気恥ずかしくて戸惑ってしまって、どうしたらいいのかわからない。
ふつふつと頭が茹る感じがする。
「ノエル!?」
エマが叫んだ気がした。
私は・・・もう、立っていられなくなりしゃがみ込む。
その後、二日間寝込んだ。
風邪ではない。
知恵熱だったー。
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