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屋敷に帰ると、いつものように母が出迎えてくれた。
「ノエル、お帰りなさい。学園はどうだった?いじめられなかった?大丈夫?」
矢継ぎ早で質問してくる母。
「何かあれば、学園に言いに行くわ。だから正直に言ってちょうだい」
久しぶりの登校とはいえ、以前と同じことを幾度も言ってくるのにはうんざりしてくる。正直に話せば絶対に学園に乗り込むだろうし、学園にもう行かなくていいと言うのが目に見えていた。
「いつも通りです。それに今日はテストを受けに行っていたんですよ。そっちは気にならないのですか?」
「テストなんてどうでもいいわよ。あなたはいずれお嫁に行って家を守り、後継を産むのよ」
「家を守るためにも社交は必要勃と思うわ」
「ノエルには無理よ!!あっ・・・」
本音が出た。
この傷があるからー。
左目を押さえた。
母は視線を彷徨わせる。
「傷があるのは・・・恥ずかしいこと、ですか・・・?」
私の問いに母は意を決したのか、きっっ、と睨みつけ強い口調で言ってきた。
「そうよ!恥ずかしいわ。せっかく綺麗な顔で産んであげたのにそんな醜い傷を作って。わたくしが友人たちからなんと言われてるか知ってる?『醜い傷のあるお嬢様を持って残念ね』ですって。笑われているのよ。あなたのせいでわたくしは笑われているの。ならば、そんなあなたを甲斐甲斐しく世話をする良い母親を演じて何が悪いのよ。そのくらいしかあなたには価値がないの!」
優しさからじゃなかった。
自分の保身のために私を気にかけていただけ。
「誰にも見られないようにひっそりと生きて。わたくしの前から消えて!」
傷があるだけで、私は恥ずかしい人間なの?
怖い顔の母が見れず俯き、口の中を噛んで泣き叫びたいのを我慢する。
「母上・・・」
「えっ?」
突然の声に顔をあげた。
兄だ。兄が帰ってきたのだ。
母も驚いている。それはそうだ。いつもより帰ってくるのが早い。
その兄の表情は冷淡ものだった。
「母上?ノエルに何を言ってるのですか?」
水色の瞳が氷のように見える。
「ライール。これは・・・その・・・違うの・・・」
「何が違うと?」
「あの・・・、そう、これもノエルに必要だと思って・・・」
「言い訳は結構です。ノエル行こう」
兄は私の背中に手を回し、部屋へと導いてくれた。
部屋に入るなり、兄は頭を下げる。
「すまん!もっと早く母上から離すことができれば!!」
兄のせいではない。
私は頭を振った。
「お兄様のせいではないわ」
そうは言ったものの、涙が溢れてくる。
「ノエル」
気持ちが整理できていない。
こんな屋敷から出て行くことができればどんなにいいものか。でも、外出もしていない世間知らずな私には到底一人で生きていくことができなのはわかっている。
「お兄様。ここからいなくなりたい」
「ノエル・・・」
苦しそうに名前を呼ぶ。
「すまん。本当にすまん・・・」
何度も謝ってくる。
「明後日からまた国外行きが決まった・・・」
嘘・・・?
絶望が襲う。
また、一人になる。
どうしたらいいの・・・。母とどうこれから向き合えばいい?大図書館にもいけない。学園でまた一人になる?あんな聞きたくない言葉を毎日聞かないといけないなんて・・・。
血の気が引くのがわかる。
兄は私を抱きしめた。
「それでも、俺がどうにかする。布石は打っておいた。それがどうなるかは分からんが待っていて欲しい」
兄は自分がしたことを話してくれた。
話を聞いて少しだけ希望を持つ。
そして、マルス様のことも考える。
「父上にも相談しよう」
私は頷いた。
「ノエル、お帰りなさい。学園はどうだった?いじめられなかった?大丈夫?」
矢継ぎ早で質問してくる母。
「何かあれば、学園に言いに行くわ。だから正直に言ってちょうだい」
久しぶりの登校とはいえ、以前と同じことを幾度も言ってくるのにはうんざりしてくる。正直に話せば絶対に学園に乗り込むだろうし、学園にもう行かなくていいと言うのが目に見えていた。
「いつも通りです。それに今日はテストを受けに行っていたんですよ。そっちは気にならないのですか?」
「テストなんてどうでもいいわよ。あなたはいずれお嫁に行って家を守り、後継を産むのよ」
「家を守るためにも社交は必要勃と思うわ」
「ノエルには無理よ!!あっ・・・」
本音が出た。
この傷があるからー。
左目を押さえた。
母は視線を彷徨わせる。
「傷があるのは・・・恥ずかしいこと、ですか・・・?」
私の問いに母は意を決したのか、きっっ、と睨みつけ強い口調で言ってきた。
「そうよ!恥ずかしいわ。せっかく綺麗な顔で産んであげたのにそんな醜い傷を作って。わたくしが友人たちからなんと言われてるか知ってる?『醜い傷のあるお嬢様を持って残念ね』ですって。笑われているのよ。あなたのせいでわたくしは笑われているの。ならば、そんなあなたを甲斐甲斐しく世話をする良い母親を演じて何が悪いのよ。そのくらいしかあなたには価値がないの!」
優しさからじゃなかった。
自分の保身のために私を気にかけていただけ。
「誰にも見られないようにひっそりと生きて。わたくしの前から消えて!」
傷があるだけで、私は恥ずかしい人間なの?
怖い顔の母が見れず俯き、口の中を噛んで泣き叫びたいのを我慢する。
「母上・・・」
「えっ?」
突然の声に顔をあげた。
兄だ。兄が帰ってきたのだ。
母も驚いている。それはそうだ。いつもより帰ってくるのが早い。
その兄の表情は冷淡ものだった。
「母上?ノエルに何を言ってるのですか?」
水色の瞳が氷のように見える。
「ライール。これは・・・その・・・違うの・・・」
「何が違うと?」
「あの・・・、そう、これもノエルに必要だと思って・・・」
「言い訳は結構です。ノエル行こう」
兄は私の背中に手を回し、部屋へと導いてくれた。
部屋に入るなり、兄は頭を下げる。
「すまん!もっと早く母上から離すことができれば!!」
兄のせいではない。
私は頭を振った。
「お兄様のせいではないわ」
そうは言ったものの、涙が溢れてくる。
「ノエル」
気持ちが整理できていない。
こんな屋敷から出て行くことができればどんなにいいものか。でも、外出もしていない世間知らずな私には到底一人で生きていくことができなのはわかっている。
「お兄様。ここからいなくなりたい」
「ノエル・・・」
苦しそうに名前を呼ぶ。
「すまん。本当にすまん・・・」
何度も謝ってくる。
「明後日からまた国外行きが決まった・・・」
嘘・・・?
絶望が襲う。
また、一人になる。
どうしたらいいの・・・。母とどうこれから向き合えばいい?大図書館にもいけない。学園でまた一人になる?あんな聞きたくない言葉を毎日聞かないといけないなんて・・・。
血の気が引くのがわかる。
兄は私を抱きしめた。
「それでも、俺がどうにかする。布石は打っておいた。それがどうなるかは分からんが待っていて欲しい」
兄は自分がしたことを話してくれた。
話を聞いて少しだけ希望を持つ。
そして、マルス様のことも考える。
「父上にも相談しよう」
私は頷いた。
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