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「ノエル」
ノックと共に低い声が聞こえてきた。
その声に机から顔を上げ、急いで扉を開けに行く。
「お兄様」
扉をあけると、そこには兄であるライールがいた。私より5歳年上で、今は若手の外交官として、上司の補佐として国内外を飛び回っている。
3ヶ月ぶりに会えたのが嬉しくてお兄様の胸に飛び込む。
「まだまだ子供だな」
優しい声が聞けて嬉しい。
「ノエル?」
その声に泣きそうになる。
「・・・なんでもない、わ。それよりお土産は?」
ー泣いてはダメ。
顔を上げおねだりをしてみた。
兄は苦笑いする。
「立ち話もなんだ、部屋に入らせろ」
「はい」
兄を案内して並んでソファーに座った。そして兄を見上げる。
「まったく。ほれ」
兄は手に持っていた2冊の本を手渡してくれた。一冊は外交に赴いていたブルトリア国の恋愛小説。もう一冊は恋愛小説を読むためのその国の国語辞書だ。
「これ、だけ?」
「お前が楽しみにしている本は、いつも通り先に図書室に置いてきた。母上にバレたらまた何か言われるんだろう」
こうやって兄が手渡してしてくれるのは恋愛小説で、私が実際に楽しみにしているのは歴史書や地理、民俗学といった専門の本である。
私は知らない国の言葉や生活のことを知る方が楽しかった。他の国を旅している気持ちになれるからだ。
だけど、母は違う。私に女の子らしさを求めててくる。傷があっても家庭的であれば、生きていけると思っているからこそ私が専門的な類の本を読むのを嫌っていた。ただ恋愛小説は別としてー。
兄が国外視察から帰ってくるたび、あらかじめ屋敷の図書室に置いてきてくれるようになった。
母はあまり図書室に入らないので、多少本が増えていてもわからない。あとでこっそり読みにいけばいい。
「ありがとうございます。学園に入ってから・・・ますます過干渉が増してきたから・・・」
「そうか・・・。学園は楽しいか?」
ー楽しいわ。
兄の顔を見ていると、そういうことができなかった。
「ノエル?」
「今日・・・マルス様に・・・触るなと言われたの・・・」
「はあ?」
瞳の色が一瞬濃いものになり、眉間にしわを寄せ私を見てくる。
「詳しく話を聞かせてくれ」
私は兄には話した。母にはどうしても言えないかったことを。
こんなことを正直に話せばまた、屋敷のなかだけの生活に戻ってしまう。
苦しい胸の内を話すことができるのは兄だけ。
黙って最後まで話を聞いてくれた。
「良く話したな」
優しく、私の頭をなでてくれる。
そして、手を自分の顎に当て考え事をしだしたかと思うと、ふむふむと頷く。
「うん。俺はしばらく内勤だ。2ヶ月くらいは王宮にいくことになっている」
「そうなんですね」
確かに、外交から帰ってくれば、しばらくは事務処理や次の外交準備にはいる。それがなんなのだろう、と首を傾げた。
「お前も王宮についてこい」
「私がですか?」
何しに行けばよいの?
「王宮の隣に何がある?」
王宮の隣には・・・王宮が管理する図書館ー王立大図書館が建っている・・・。
「まさか?」
「そのまさかだ。まだ王立大図書館に行ったことないだろう。そこで本でも読んでろ」
「いいのですか?でもお母様は・・・」
「そこは俺に任せろ」
にかりと笑う兄におもわず抱きつく。
「お兄様、大好きですっ」
「おう!兄様もノエルが好きだ」
食事に呼ばれるまで、私は兄に色々な国の話を聞いて思いを馳せた。
ノックと共に低い声が聞こえてきた。
その声に机から顔を上げ、急いで扉を開けに行く。
「お兄様」
扉をあけると、そこには兄であるライールがいた。私より5歳年上で、今は若手の外交官として、上司の補佐として国内外を飛び回っている。
3ヶ月ぶりに会えたのが嬉しくてお兄様の胸に飛び込む。
「まだまだ子供だな」
優しい声が聞けて嬉しい。
「ノエル?」
その声に泣きそうになる。
「・・・なんでもない、わ。それよりお土産は?」
ー泣いてはダメ。
顔を上げおねだりをしてみた。
兄は苦笑いする。
「立ち話もなんだ、部屋に入らせろ」
「はい」
兄を案内して並んでソファーに座った。そして兄を見上げる。
「まったく。ほれ」
兄は手に持っていた2冊の本を手渡してくれた。一冊は外交に赴いていたブルトリア国の恋愛小説。もう一冊は恋愛小説を読むためのその国の国語辞書だ。
「これ、だけ?」
「お前が楽しみにしている本は、いつも通り先に図書室に置いてきた。母上にバレたらまた何か言われるんだろう」
こうやって兄が手渡してしてくれるのは恋愛小説で、私が実際に楽しみにしているのは歴史書や地理、民俗学といった専門の本である。
私は知らない国の言葉や生活のことを知る方が楽しかった。他の国を旅している気持ちになれるからだ。
だけど、母は違う。私に女の子らしさを求めててくる。傷があっても家庭的であれば、生きていけると思っているからこそ私が専門的な類の本を読むのを嫌っていた。ただ恋愛小説は別としてー。
兄が国外視察から帰ってくるたび、あらかじめ屋敷の図書室に置いてきてくれるようになった。
母はあまり図書室に入らないので、多少本が増えていてもわからない。あとでこっそり読みにいけばいい。
「ありがとうございます。学園に入ってから・・・ますます過干渉が増してきたから・・・」
「そうか・・・。学園は楽しいか?」
ー楽しいわ。
兄の顔を見ていると、そういうことができなかった。
「ノエル?」
「今日・・・マルス様に・・・触るなと言われたの・・・」
「はあ?」
瞳の色が一瞬濃いものになり、眉間にしわを寄せ私を見てくる。
「詳しく話を聞かせてくれ」
私は兄には話した。母にはどうしても言えないかったことを。
こんなことを正直に話せばまた、屋敷のなかだけの生活に戻ってしまう。
苦しい胸の内を話すことができるのは兄だけ。
黙って最後まで話を聞いてくれた。
「良く話したな」
優しく、私の頭をなでてくれる。
そして、手を自分の顎に当て考え事をしだしたかと思うと、ふむふむと頷く。
「うん。俺はしばらく内勤だ。2ヶ月くらいは王宮にいくことになっている」
「そうなんですね」
確かに、外交から帰ってくれば、しばらくは事務処理や次の外交準備にはいる。それがなんなのだろう、と首を傾げた。
「お前も王宮についてこい」
「私がですか?」
何しに行けばよいの?
「王宮の隣に何がある?」
王宮の隣には・・・王宮が管理する図書館ー王立大図書館が建っている・・・。
「まさか?」
「そのまさかだ。まだ王立大図書館に行ったことないだろう。そこで本でも読んでろ」
「いいのですか?でもお母様は・・・」
「そこは俺に任せろ」
にかりと笑う兄におもわず抱きつく。
「お兄様、大好きですっ」
「おう!兄様もノエルが好きだ」
食事に呼ばれるまで、私は兄に色々な国の話を聞いて思いを馳せた。
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