1 / 42
1.セイラ視点
しおりを挟む
あの方が隣国、シャンス国に留学してニ年がたった。
初めの頃は週に一度は手紙が来ていた。
甘く優しい言葉が紡がれていた。手紙を手に取るたび胸が高鳴り、嬉しかった。
封筒の中には花びらが入っていた。贈られてくる度、一つづつ栞にしていった。
それが少しずつ、一ヶ月に一度、二ヶ月に一度になったかと思えば、今では手紙がくるのが途絶えた。
わたしが送った手紙にさえ返信はない。
あの方に何あったのか不安になった。
忙しいのだろうか?
病気なのだろうか?
どうしたのだろう?
心配になる。
不安になる。
寂しくなる。
どうしたらいいのかしら?
あまり、手紙を送ると貴方は嫌がるかしら?
じっと待つしかないのかしら?
あの方のご両親に聞くべきなのかしら?
ご両親には手紙はきているのかしら?
不安な気持ちを押し殺して、ずっと待っていた。
そんな時、あの方のご両親が我が家を訪ねてきた。
彼らは、お父様とわたしの前であの方との婚約解消をして欲しいと願い出た。
あの方は、留学先の学園でとある伯爵令嬢に出逢われたのだそう。
お互いに一目で惹かれ合ったのだと。
わたしという婚約者がいるからと気持ちを抑えていたものの、やはり無理だったのだそうです・・・。お互いに惹かれた者同士、思い留まることができなかったと、手紙に書かれていたそうです。
それで、ご両親に婚約解消を相談し、今にいたるのです。
まだ、あの方は留学中なので帰ってこられないそうです。
わたしに会う気持ちないようです。
直接謝る気持ちも、手紙で謝る気も持ち合わせていないのでしょう。
それとも、もうわたしのことはどうでもよくなっているのかもしれません。
そのことの方がショックでした。
そんな方とは思いもよりませんでした。
10年です。
婚約して10年。
幼馴染として15年。
お父様が親友であるからこそ、決まった婚約でした。
わたしは彼を愛していました。
優しくて、頼れる一つ上の男性。
ずっと、ずっとずっと側にいて欲しい、側にいたい、そう思える方でした。
なのに・・・。
悲しいと言うより、落胆が大きかった。
そんな方とは思わなかった・・・。
あの方のご両親が帰った後、父がわたしに声をかけてきました。
「セイラ、大丈夫か?」
大丈夫?
自分のことなのによくわかりませんでした。
婚約が解消になりショックですが、それより、一気にあの方の思いが無くなった自分の気持ちに驚いていたからです。
本当にあの方が好きだったのかさえ、今ではわからなくなって、いたのです。
『愛』
それが、それほど脆いものだったのかと、思ってしまったのです。
あの方が抱いていたものはなんだったのでしょうか?
わたしが抱いていた気持ちは、『愛』ではなかったのでしょうか?
もう、わからなくなりました。
あの方に婚約解消されてよかったのかもしれません。
このままでは、きっとどこかでダメになっていたかもしれませんもの。
ですが、こうなったからには、わたしは傷物と一緒です。
『解消』とはいえ、明日には学園の皆様に知れ渡っている事でしょう。
「お父様・・・。以前お話があった伯母様のところへ行きたいわ・・・」
お母様の姉である、アデライト伯母様は帝国で嫁がれています。
以前から言語留学を勧められていたのを思い出したのです。
あの方の留学先とは逆にありますから、暫くは会うこともないでしょう。
そこでなら、これから起こる煩わしい喧騒を聞くこともないでしょう。
逃げ出した、と言われてもかまいません。
今は、この国にいたくありません。
「そうだな。義姉上のところに行っておいで」
お父様はわたしをそっと、抱きしめてくださいました。
その日わたしは、メイドに言って彼から頂いた花びらで作った栞を全て燃やしてもらいました。
パチパチと燃える小さな火を見ながらわたしは思いました。
全てを忘れよう・・・と。
初めの頃は週に一度は手紙が来ていた。
甘く優しい言葉が紡がれていた。手紙を手に取るたび胸が高鳴り、嬉しかった。
封筒の中には花びらが入っていた。贈られてくる度、一つづつ栞にしていった。
それが少しずつ、一ヶ月に一度、二ヶ月に一度になったかと思えば、今では手紙がくるのが途絶えた。
わたしが送った手紙にさえ返信はない。
あの方に何あったのか不安になった。
忙しいのだろうか?
病気なのだろうか?
どうしたのだろう?
心配になる。
不安になる。
寂しくなる。
どうしたらいいのかしら?
あまり、手紙を送ると貴方は嫌がるかしら?
じっと待つしかないのかしら?
あの方のご両親に聞くべきなのかしら?
ご両親には手紙はきているのかしら?
不安な気持ちを押し殺して、ずっと待っていた。
そんな時、あの方のご両親が我が家を訪ねてきた。
彼らは、お父様とわたしの前であの方との婚約解消をして欲しいと願い出た。
あの方は、留学先の学園でとある伯爵令嬢に出逢われたのだそう。
お互いに一目で惹かれ合ったのだと。
わたしという婚約者がいるからと気持ちを抑えていたものの、やはり無理だったのだそうです・・・。お互いに惹かれた者同士、思い留まることができなかったと、手紙に書かれていたそうです。
それで、ご両親に婚約解消を相談し、今にいたるのです。
まだ、あの方は留学中なので帰ってこられないそうです。
わたしに会う気持ちないようです。
直接謝る気持ちも、手紙で謝る気も持ち合わせていないのでしょう。
それとも、もうわたしのことはどうでもよくなっているのかもしれません。
そのことの方がショックでした。
そんな方とは思いもよりませんでした。
10年です。
婚約して10年。
幼馴染として15年。
お父様が親友であるからこそ、決まった婚約でした。
わたしは彼を愛していました。
優しくて、頼れる一つ上の男性。
ずっと、ずっとずっと側にいて欲しい、側にいたい、そう思える方でした。
なのに・・・。
悲しいと言うより、落胆が大きかった。
そんな方とは思わなかった・・・。
あの方のご両親が帰った後、父がわたしに声をかけてきました。
「セイラ、大丈夫か?」
大丈夫?
自分のことなのによくわかりませんでした。
婚約が解消になりショックですが、それより、一気にあの方の思いが無くなった自分の気持ちに驚いていたからです。
本当にあの方が好きだったのかさえ、今ではわからなくなって、いたのです。
『愛』
それが、それほど脆いものだったのかと、思ってしまったのです。
あの方が抱いていたものはなんだったのでしょうか?
わたしが抱いていた気持ちは、『愛』ではなかったのでしょうか?
もう、わからなくなりました。
あの方に婚約解消されてよかったのかもしれません。
このままでは、きっとどこかでダメになっていたかもしれませんもの。
ですが、こうなったからには、わたしは傷物と一緒です。
『解消』とはいえ、明日には学園の皆様に知れ渡っている事でしょう。
「お父様・・・。以前お話があった伯母様のところへ行きたいわ・・・」
お母様の姉である、アデライト伯母様は帝国で嫁がれています。
以前から言語留学を勧められていたのを思い出したのです。
あの方の留学先とは逆にありますから、暫くは会うこともないでしょう。
そこでなら、これから起こる煩わしい喧騒を聞くこともないでしょう。
逃げ出した、と言われてもかまいません。
今は、この国にいたくありません。
「そうだな。義姉上のところに行っておいで」
お父様はわたしをそっと、抱きしめてくださいました。
その日わたしは、メイドに言って彼から頂いた花びらで作った栞を全て燃やしてもらいました。
パチパチと燃える小さな火を見ながらわたしは思いました。
全てを忘れよう・・・と。
27
お気に入りに追加
580
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい
冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」
婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。
ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。
しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。
「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」
ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。
しかし、ある日のこと見てしまう。
二人がキスをしているところを。
そのとき、私の中で何かが壊れた……。
婚約者の浮気をゴシップ誌で知った私のその後
桃瀬さら
恋愛
休暇で帰国中のシャーロットは、婚約者の浮気をゴシップ誌で知る。
領地が隣同士、母親同士の仲が良く、同じ年に生まれた子供が男の子と女の子。
偶然が重なり気がついた頃には幼馴染み兼婚約者になっていた。
そんな婚約者は今や貴族社会だけではなく、ゴシップ誌を騒がしたプレイボーイ。
婚約者に婚約破棄を告げ、帰宅するとなぜか上司が家にいた。
上司と共に、違法魔法道具の捜査をする事となったシャーロットは、捜査を通じて上司に惹かれいくが、上司にはある秘密があって……
婚約破棄したシャーロットが幸せになる物語
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
婚約者の密会現場を家族と訪ねたら修羅場になりました
Kouei
恋愛
伯爵家の次女である私フォルティ・トリエスタンは伯爵令息であるリシール・ナクス様と婚約した。
しかしある問題が起きた。
リシール様の血の繋がらない義妹であるキャズリーヌ様から嫌がらせを受けるようになったのだ。
もしかして、キャズリーヌ様ってリシール様の事を……
※修羅場・暴言・暴力的表現があります。
ご不快に感じる方は、ブラバをお勧めします。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
【完結】妹にあげるわ。
たろ
恋愛
なんでも欲しがる妹。だったら要らないからあげるわ。
婚約者だったケリーと妹のキャサリンが我が家で逢瀬をしていた時、妹の紅茶の味がおかしかった。
それだけでわたしが殺そうとしたと両親に責められた。
いやいやわたし出かけていたから!知らないわ。
それに婚約は半年前に解消しているのよ!書類すら見ていないのね?お父様。
なんでも欲しがる妹。可愛い妹が大切な両親。
浮気症のケリーなんて喜んで妹にあげるわ。ついでにわたしのドレスも宝石もどうぞ。
家を追い出されて意気揚々と一人で暮らし始めたアリスティア。
もともと家を出る計画を立てていたので、ここから幸せに………と思ったらまた妹がやってきて、今度はアリスティアの今の生活を欲しがった。
だったら、この生活もあげるわ。
だけどね、キャサリン……わたしの本当に愛する人たちだけはあげられないの。
キャサリン達に痛い目に遭わせて……アリスティアは幸せになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる