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止血の効はなかった。
どんどん流れていく血が床を真っ赤に染めていく。
意識も朦朧としていた。
そんな中、オブライド殿下は最後に小さく呟いた。
「一度で・・・いいから、君に、抱きしめて・・・、欲しかった・・・」
と。
わたしも、抱きしめてあげたかった。
彼が小さな子供のように見えた。愛に飢えている子供に。
だから、ロイに手伝ってもらって彼を抱きしめた。
腕の中で彼は息を引き取った。
その顔は満足そうに笑っていた。
幸せそうだった。
苦しまずに逝けたのだろうか。
ゆっくりと彼を寝かせた。
王妃は衛兵たちに囚われていた。
髪を振り乱しながら自分の行いを狂ったように笑っていた。
王妃とは思えないほど醜悪だった。
「オブライド!なんであなたが庇うのよ。わたくしは、わたくしは・・・あはっ、あははっ」
自分の幸せの象徴だったであろう。
王妃として君臨するための駒だったのだろう。
それが壊れたのだ。
自らの手で、壊したのだ。
「グリフィアス国王。この事態をどう見る?どのように処分を下す?」
ロイの服も真っ赤になっていた。
その姿で腰を抜かしている国王の前へと立った。
国王は真っ青な顔だった。
起きた事態についていけていないのか、震え、冷や汗をかき、虚勢を張ることもできずにいるようだった。
「この女は我が婚約者に刃を向け、自分の息子を手にかけた。それ相応の処罰があるだろうな?」
声だけで鳥肌が立ってくるほどぞっとする。ロイは怒っているのだろう。
「そ、それは・・・」
口籠る国王。
「所詮小物だな。こんなやつに張り合う意味は無かったんだな・・・」
お父様の小さな声に振り向いた。力抜けしたような表情だった。
わたしの隣に来たお父様はオブライド殿下の身体に自分の上着をにかけてあげた。
「どんなものであったにせよ、皆の前に晒したままにはできないからな・・・」
そうよね。
罪人ではない。どんな罪を犯していようと、彼は王族だった。
そして最後はわたしを助けてくれたのだから。
お父様に導かれて立ち上がると、ロイの隣に立って国王を見た。
目を彷徨わせている。
どうすればいいのか考えているのか?それともわかっていないのか?
「くだせぬか?」
「それは・・・」
「なら、わたしが下してやる。王妃は処刑する。国王、あなたは幽閉だ」
「お待ちを!お待ちください。この国は?わたしがいなければ・・・」
「お前がいなくても、やっていけるだろう。現にこの国の政務は側妃アナスタシアがしているのだから。知らないとでも思っているのか?」
真っ青を通り越して蒼白と言っていいほどになっている。威厳も何にもない姿。
「それは・・・」
「それにな、グリフィアス国の公爵家全てと侯爵家の3分の2は側妃アナスタシアの子供アルバートにつく事を決めている」
「まだ、アルバートは子供です!」
「我が叔父上が後ろ盾になってくれるそうだ。リチャード宰相も賛同している」
「リチャード!!おまえ!!」
今まで黙秘を貫いていた宰相が進み出てきた。
彼はゆっくりと歩いてくると、マザーの手を取り横に並んだ。
「リチャード?裏切っていたのか?」
国王は信じられないものを見たようだった。
「もとから心から貴方に仕えたことはありませんが?。なぜ、他人の忠告も聞き入れず人のを陥れるような方に忠誠を抱けるのか?
わたしの大事な人を陥れたのですから憎しみしかありませんでしたよ。
権力に逆らえずにいただけですよ。
貴方をやっとフィアナを取り戻せる」
最後の言葉はマザーに向けてだった。
恋する眼差しでマザーを見つめている。
マザーも幸せそうだ。
どんどん流れていく血が床を真っ赤に染めていく。
意識も朦朧としていた。
そんな中、オブライド殿下は最後に小さく呟いた。
「一度で・・・いいから、君に、抱きしめて・・・、欲しかった・・・」
と。
わたしも、抱きしめてあげたかった。
彼が小さな子供のように見えた。愛に飢えている子供に。
だから、ロイに手伝ってもらって彼を抱きしめた。
腕の中で彼は息を引き取った。
その顔は満足そうに笑っていた。
幸せそうだった。
苦しまずに逝けたのだろうか。
ゆっくりと彼を寝かせた。
王妃は衛兵たちに囚われていた。
髪を振り乱しながら自分の行いを狂ったように笑っていた。
王妃とは思えないほど醜悪だった。
「オブライド!なんであなたが庇うのよ。わたくしは、わたくしは・・・あはっ、あははっ」
自分の幸せの象徴だったであろう。
王妃として君臨するための駒だったのだろう。
それが壊れたのだ。
自らの手で、壊したのだ。
「グリフィアス国王。この事態をどう見る?どのように処分を下す?」
ロイの服も真っ赤になっていた。
その姿で腰を抜かしている国王の前へと立った。
国王は真っ青な顔だった。
起きた事態についていけていないのか、震え、冷や汗をかき、虚勢を張ることもできずにいるようだった。
「この女は我が婚約者に刃を向け、自分の息子を手にかけた。それ相応の処罰があるだろうな?」
声だけで鳥肌が立ってくるほどぞっとする。ロイは怒っているのだろう。
「そ、それは・・・」
口籠る国王。
「所詮小物だな。こんなやつに張り合う意味は無かったんだな・・・」
お父様の小さな声に振り向いた。力抜けしたような表情だった。
わたしの隣に来たお父様はオブライド殿下の身体に自分の上着をにかけてあげた。
「どんなものであったにせよ、皆の前に晒したままにはできないからな・・・」
そうよね。
罪人ではない。どんな罪を犯していようと、彼は王族だった。
そして最後はわたしを助けてくれたのだから。
お父様に導かれて立ち上がると、ロイの隣に立って国王を見た。
目を彷徨わせている。
どうすればいいのか考えているのか?それともわかっていないのか?
「くだせぬか?」
「それは・・・」
「なら、わたしが下してやる。王妃は処刑する。国王、あなたは幽閉だ」
「お待ちを!お待ちください。この国は?わたしがいなければ・・・」
「お前がいなくても、やっていけるだろう。現にこの国の政務は側妃アナスタシアがしているのだから。知らないとでも思っているのか?」
真っ青を通り越して蒼白と言っていいほどになっている。威厳も何にもない姿。
「それは・・・」
「それにな、グリフィアス国の公爵家全てと侯爵家の3分の2は側妃アナスタシアの子供アルバートにつく事を決めている」
「まだ、アルバートは子供です!」
「我が叔父上が後ろ盾になってくれるそうだ。リチャード宰相も賛同している」
「リチャード!!おまえ!!」
今まで黙秘を貫いていた宰相が進み出てきた。
彼はゆっくりと歩いてくると、マザーの手を取り横に並んだ。
「リチャード?裏切っていたのか?」
国王は信じられないものを見たようだった。
「もとから心から貴方に仕えたことはありませんが?。なぜ、他人の忠告も聞き入れず人のを陥れるような方に忠誠を抱けるのか?
わたしの大事な人を陥れたのですから憎しみしかありませんでしたよ。
権力に逆らえずにいただけですよ。
貴方をやっとフィアナを取り戻せる」
最後の言葉はマザーに向けてだった。
恋する眼差しでマザーを見つめている。
マザーも幸せそうだ。
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