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帝国に入ても、馬車は速度を落とさなかった。
街外れの道をひたすらゆく。
変わったと言えば、街の近くに立ち寄るようになったこと。街で食べ物を購入して食べるのだ。
美味しかった。食べたことのない味。
国を出て、1週間。
普通なら倍はかかるだろう道を駆け抜け、オスタニア帝国の帝都に着いのだ。
「マザーはどこにいますか?」
「我が家にいるよ」
優しく微笑んでくれる。
心配が安らぐかのようにー。
早く会いたい。
マザーに・・・。
王都の中心を抜けた、閑静な場所に大きな屋敷があった。
あまりの大きさに、我を忘れて見入ってしまった。
馬車が入り口前で止まる。
ロイの手を借り馬車を降りた時、声が聞こえてきた。
「セシリア!」
マザーだ。
いつものシスター姿ではない。こざっぱりとした年相応の落ち着いた色の服。白いエプロンをした姿に安心できた。
「マザー!!」
その顔を見て、どっと涙が溢れてしまった。
マザーに抱きついて、子供のように泣いた。
「頑張ったわ。セシリア。ごめんね、助けにいくのが遅くなって」
違う!
マザーの所為じゃない。
マザーの胸の中でいくども、首を振った。
マザーの所為じゃない。
悪いのは自分だ。
引き際を間違えた自分が悪いのだ。
油断していた自分がいけないのだ。
「ロイ様、ありがとうございます」
マザーは泣く私を抱きしめたまま、ロイにお礼を言った。
「お礼はいらないよ。こちらが感謝しないといけないくらいだ。これで、暫くは大丈夫だから、ゆっくりとして」
「本当にありがとうございます」
「ありがとう・・・」
感謝を述べると、彼は目を逸らしポリポリと頬をかいた。
「お礼を言われると、罪悪感が生まれるな・・・」
わけのわからないことを呟く。
「感謝は叔父上にしてくれたらいい。僕はただ利害一致したから、君を助けただけだ。
あちらの情報は仕入れる。ここにいれば、絶対に手出しはできないから、それだけは安心していいよ」
ロイは天使の微笑みをうかべた。
「僕は叔父上に会いに行くから、マザーは後はよろしくね」
「わかりました」
再び馬車に乗るロイを見送ると、マザーは屋敷の中へと誘ってくれた。
「マザー。ごめんなさい」
「何言ってるのよ。あなたに比べたらどうってことないわ」
「でも・・・、あの子たちは?」
気になっていたことを聞く。
「大丈夫よ。年長組のバルとボブはここで従者として働いてるの。あとの子たちも、ここで勉強してるわ。養子が決まりそうな子もいるのよ」
明るい笑顔にほっとする。
「ごめんなさいね」
「マザー?」
なぜ、マザーが謝るのだろう。
「私が学園行きを勧めたばかりに・・・」
「そんなことない」
「情報は仕入れてはいたの。学園内に何人かは知り合いがいるから・・・。でも、すぐに情報が入るわけでもなく、時間のロスがうまれてしまって。怖い思いをさせてしまったわ」
「マザーの所為ではないです。それより、マザーに謝らないといけないのは、私の方です・・・。母を・・・、母を・・・かば、った、から・・・」
マザーの人生を奪ってしまった・・・。
「知ったのね」
頷く。
マザーの顔は変わらない。
慈愛に満ちた笑顔があるだけ。
「エリザを庇ったことを、後悔してないわよ」
マザーは、私を抱きしめてくれた。
街外れの道をひたすらゆく。
変わったと言えば、街の近くに立ち寄るようになったこと。街で食べ物を購入して食べるのだ。
美味しかった。食べたことのない味。
国を出て、1週間。
普通なら倍はかかるだろう道を駆け抜け、オスタニア帝国の帝都に着いのだ。
「マザーはどこにいますか?」
「我が家にいるよ」
優しく微笑んでくれる。
心配が安らぐかのようにー。
早く会いたい。
マザーに・・・。
王都の中心を抜けた、閑静な場所に大きな屋敷があった。
あまりの大きさに、我を忘れて見入ってしまった。
馬車が入り口前で止まる。
ロイの手を借り馬車を降りた時、声が聞こえてきた。
「セシリア!」
マザーだ。
いつものシスター姿ではない。こざっぱりとした年相応の落ち着いた色の服。白いエプロンをした姿に安心できた。
「マザー!!」
その顔を見て、どっと涙が溢れてしまった。
マザーに抱きついて、子供のように泣いた。
「頑張ったわ。セシリア。ごめんね、助けにいくのが遅くなって」
違う!
マザーの所為じゃない。
マザーの胸の中でいくども、首を振った。
マザーの所為じゃない。
悪いのは自分だ。
引き際を間違えた自分が悪いのだ。
油断していた自分がいけないのだ。
「ロイ様、ありがとうございます」
マザーは泣く私を抱きしめたまま、ロイにお礼を言った。
「お礼はいらないよ。こちらが感謝しないといけないくらいだ。これで、暫くは大丈夫だから、ゆっくりとして」
「本当にありがとうございます」
「ありがとう・・・」
感謝を述べると、彼は目を逸らしポリポリと頬をかいた。
「お礼を言われると、罪悪感が生まれるな・・・」
わけのわからないことを呟く。
「感謝は叔父上にしてくれたらいい。僕はただ利害一致したから、君を助けただけだ。
あちらの情報は仕入れる。ここにいれば、絶対に手出しはできないから、それだけは安心していいよ」
ロイは天使の微笑みをうかべた。
「僕は叔父上に会いに行くから、マザーは後はよろしくね」
「わかりました」
再び馬車に乗るロイを見送ると、マザーは屋敷の中へと誘ってくれた。
「マザー。ごめんなさい」
「何言ってるのよ。あなたに比べたらどうってことないわ」
「でも・・・、あの子たちは?」
気になっていたことを聞く。
「大丈夫よ。年長組のバルとボブはここで従者として働いてるの。あとの子たちも、ここで勉強してるわ。養子が決まりそうな子もいるのよ」
明るい笑顔にほっとする。
「ごめんなさいね」
「マザー?」
なぜ、マザーが謝るのだろう。
「私が学園行きを勧めたばかりに・・・」
「そんなことない」
「情報は仕入れてはいたの。学園内に何人かは知り合いがいるから・・・。でも、すぐに情報が入るわけでもなく、時間のロスがうまれてしまって。怖い思いをさせてしまったわ」
「マザーの所為ではないです。それより、マザーに謝らないといけないのは、私の方です・・・。母を・・・、母を・・・かば、った、から・・・」
マザーの人生を奪ってしまった・・・。
「知ったのね」
頷く。
マザーの顔は変わらない。
慈愛に満ちた笑顔があるだけ。
「エリザを庇ったことを、後悔してないわよ」
マザーは、私を抱きしめてくれた。
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