上 下
16 / 51

15.

しおりを挟む
 帝国に入ても、馬車は速度を落とさなかった。
 街外れの道をひたすらゆく。
 変わったと言えば、街の近くに立ち寄るようになったこと。街で食べ物を購入して食べるのだ。
 美味しかった。食べたことのない味。

 国を出て、1週間。
 普通なら倍はかかるだろう道を駆け抜け、オスタニア帝国の帝都に着いのだ。
 

「マザーはどこにいますか?」
「我が家にいるよ」

 優しく微笑んでくれる。
 心配が安らぐかのようにー。
 早く会いたい。
 マザーに・・・。

 王都の中心を抜けた、閑静な場所に大きな屋敷があった。
 あまりの大きさに、我を忘れて見入ってしまった。

 馬車が入り口前で止まる。
 ロイの手を借り馬車を降りた時、声が聞こえてきた。

「セシリア!」

 マザーだ。
 いつものシスター姿ではない。こざっぱりとした年相応の落ち着いた色の服。白いエプロンをした姿に安心できた。


「マザー!!」

 その顔を見て、どっと涙が溢れてしまった。
 マザーに抱きついて、子供のように泣いた。

「頑張ったわ。セシリア。ごめんね、助けにいくのが遅くなって」

 違う!
 マザーの所為じゃない。
 
 マザーの胸の中でいくども、首を振った。
 
 マザーの所為じゃない。
 悪いのは自分だ。
 引き際を間違えた自分が悪いのだ。
 油断していた自分がいけないのだ。

「ロイ様、ありがとうございます」 

 マザーは泣く私を抱きしめたまま、ロイにお礼を言った。

「お礼はいらないよ。こちらがしないといけないくらいだ。これで、暫くは大丈夫だから、ゆっくりとして」
「本当にありがとうございます」
「ありがとう・・・」

  感謝を述べると、彼は目を逸らしポリポリと頬をかいた。

「お礼を言われると、罪悪感が生まれるな・・・」

 わけのわからないことを呟く。

「感謝は叔父上にしてくれたらいい。僕はただ利害一致したから、君を助けただけだ。
 の情報は仕入れる。ここにいれば、絶対に手出しはできないから、それだけは安心していいよ」

 ロイは天使の微笑みをうかべた。

「僕は叔父上に会いに行くから、マザーは後はよろしくね」
「わかりました」

 再び馬車に乗るロイを見送ると、マザーは屋敷の中へと誘ってくれた。

「マザー。ごめんなさい」
「何言ってるのよ。あなたに比べたらどうってことないわ」
「でも・・・、あの子たちは?」

 気になっていたことを聞く。

「大丈夫よ。年長組のバルとボブはここで従者として働いてるの。あとの子たちも、ここで勉強してるわ。養子が決まりそうな子もいるのよ」

 明るい笑顔にほっとする。

「ごめんなさいね」
「マザー?」

 なぜ、マザーが謝るのだろう。

「私が学園行きを勧めたばかりに・・・」
「そんなことない」
「情報は仕入れてはいたの。学園内に何人かは知り合いがいるから・・・。でも、すぐに情報が入るわけでもなく、時間のロスがうまれてしまって。怖い思いをさせてしまったわ」
「マザーの所為ではないです。それより、マザーに謝らないといけないのは、私の方です・・・。母を・・・、母を・・・かば、った、から・・・」

 マザーの人生を奪ってしまった・・・。

「知ったのね」

 頷く。
 
 マザーの顔は変わらない。
 慈愛に満ちた笑顔があるだけ。

「エリザを庇ったことを、後悔してないわよ」
 
 マザーは、私を抱きしめてくれた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...