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1章、契約の内容
13.
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「辺境伯に嫁いだんだよな」
エルバスの言葉にコクンと頷く。
「はい。でもこれも内緒でお願いします」
「それは、まあ、いいぜ。どんな者でもギルドプレートがあれば冒険者だ。身分も事情も関係ないからな。ただ、いろいろ今のうちに確認させてもらうが、大丈夫か?」
やはり人がいいのだろう。白髪混じりの髪をかき揚げ、孫を見るように目尻を下げる。
「おまえさん、伯爵の噂は知ってんだよな?」
「はい。『冷酷の騎士』と言われるほど、剣技に容赦なく魔獣を狩る騎士。5人の辺境伯の中でも一位、二位を争う実力者グレンディール・アルザイド辺境伯公。彼には幼馴染の大事な女性がいる、ですよね」
「彼女には既に会ったか?」
「いえ、昨日着いたばかりですし、人柄に興味は今はありませんが、病気については興味があります・・・」
薬師としての性を垣間見る。
今日初めてあったというのに肩入れたくなる自分がいるのに、エルバスは気づいた。シェリルのために口を濁したくなるがあえて心を鬼にして語る。
「辺境伯の思い人はニーナ・シェルバス。元シェルバス男爵令嬢だったが、11年前のスタンピードで父親を亡くして、母親、辺境伯の伯母にあたるケリー夫人と共にあの城で住んでいる。病気は・・・心臓が悪くてな、昔から走ることはできないし、発作を起こすことがある。それでも小さい頃は側近のマクロンと一緒によく三人で街を歩いてたよ」
懐かしいのか目を細める。
「昔から仲が良かったんですね」
「そうだな。
だからこそ、辺境伯はニーナを好いている。噂じゃなく、真実だ。
城の侍女やメイドたちも昔からいるのが多くて、辺境伯とニーナの関係を歓迎している者も多い。城の中・・・ニーナ推しが多くて、生活しにくいんじゃないのか?」
「北側の部屋でいますよ」
「待て!北は貴族用の牢だよな。大丈夫かよ?」
「快適ですよ」
ニコニコと言い返す。
思っていた反応とあまりに違い、返す反応が一瞬遅れた。
「困ったらここに来ればいいと言いたかったんだが・・・」
「わたしたちがいますので、ご心配なく」
アシュリーにまで言われ、かっこよく決めようと思っていたのが上手くいかず、ボリボリと頭をかく。
「・・・なら、いいが・・・。ああっ、ポーションのことだが、今、商業ギルドにも一本持っていってる。もしかすると、そっちからも誘いがくるだろうが、できればこちらと協同でさせてもらいたいがいいか?」
「かまいませんよ。今後の技術指導もいるでしょうし、次に来た時にお話ししましょう」
「助かる。ギルドランクだが、あんたEランクだが、昇級は考えてないのか?」
「リルで、お願いします。ランクは維持で。薬草取りをするのにあれば便利とアシュに言われてとっただけですし、魔獣を倒す能力はわたしにはありませんから」
「そうか、よろしくな、リル」
大きな手を乗せて髪をかき乱したのだった。
そして、帰える時エルバスは外で大人しく待つ賢蒼馬を見て眩暈がしたことは余談としておく。
エルバスの言葉にコクンと頷く。
「はい。でもこれも内緒でお願いします」
「それは、まあ、いいぜ。どんな者でもギルドプレートがあれば冒険者だ。身分も事情も関係ないからな。ただ、いろいろ今のうちに確認させてもらうが、大丈夫か?」
やはり人がいいのだろう。白髪混じりの髪をかき揚げ、孫を見るように目尻を下げる。
「おまえさん、伯爵の噂は知ってんだよな?」
「はい。『冷酷の騎士』と言われるほど、剣技に容赦なく魔獣を狩る騎士。5人の辺境伯の中でも一位、二位を争う実力者グレンディール・アルザイド辺境伯公。彼には幼馴染の大事な女性がいる、ですよね」
「彼女には既に会ったか?」
「いえ、昨日着いたばかりですし、人柄に興味は今はありませんが、病気については興味があります・・・」
薬師としての性を垣間見る。
今日初めてあったというのに肩入れたくなる自分がいるのに、エルバスは気づいた。シェリルのために口を濁したくなるがあえて心を鬼にして語る。
「辺境伯の思い人はニーナ・シェルバス。元シェルバス男爵令嬢だったが、11年前のスタンピードで父親を亡くして、母親、辺境伯の伯母にあたるケリー夫人と共にあの城で住んでいる。病気は・・・心臓が悪くてな、昔から走ることはできないし、発作を起こすことがある。それでも小さい頃は側近のマクロンと一緒によく三人で街を歩いてたよ」
懐かしいのか目を細める。
「昔から仲が良かったんですね」
「そうだな。
だからこそ、辺境伯はニーナを好いている。噂じゃなく、真実だ。
城の侍女やメイドたちも昔からいるのが多くて、辺境伯とニーナの関係を歓迎している者も多い。城の中・・・ニーナ推しが多くて、生活しにくいんじゃないのか?」
「北側の部屋でいますよ」
「待て!北は貴族用の牢だよな。大丈夫かよ?」
「快適ですよ」
ニコニコと言い返す。
思っていた反応とあまりに違い、返す反応が一瞬遅れた。
「困ったらここに来ればいいと言いたかったんだが・・・」
「わたしたちがいますので、ご心配なく」
アシュリーにまで言われ、かっこよく決めようと思っていたのが上手くいかず、ボリボリと頭をかく。
「・・・なら、いいが・・・。ああっ、ポーションのことだが、今、商業ギルドにも一本持っていってる。もしかすると、そっちからも誘いがくるだろうが、できればこちらと協同でさせてもらいたいがいいか?」
「かまいませんよ。今後の技術指導もいるでしょうし、次に来た時にお話ししましょう」
「助かる。ギルドランクだが、あんたEランクだが、昇級は考えてないのか?」
「リルで、お願いします。ランクは維持で。薬草取りをするのにあれば便利とアシュに言われてとっただけですし、魔獣を倒す能力はわたしにはありませんから」
「そうか、よろしくな、リル」
大きな手を乗せて髪をかき乱したのだった。
そして、帰える時エルバスは外で大人しく待つ賢蒼馬を見て眩暈がしたことは余談としておく。
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