上 下
1 / 11

1.

しおりを挟む
 醜い。
 わたしは醜い。
 とても、醜い。

 わたしは、嫉妬に狂った、愚かな女。
 
 あの女を殺したいくらい憎い。
 それほどまで、嫉妬をしている。

 あの方はわたしの婚約者モノなのに、ベタベタと触る。


 触らないで!
 声をかけないで!
 笑いかけないで!
 近づかないで!

 それが言えたなら、どんなにいいものか。

 令嬢として教育されたわたしには言えない。
 言えば、あの方に嫌われるかもしれない。

 軽蔑されるかもしれない。
 蔑まれた眼差しで見られるかもしれない。
 
 苦しいわ。
 泣きたいの。
 叫びたい。
 貴方のその胸に飛び込んで、慰められたい。

 それをひた隠して、生きているの。
 笑っているの。
 微笑みをむけるの。

 歪んでいくわたしの心。

 
 あの女をひどく虐めれば、わたしの気持ちが楽になれるかもしれない。
 きつい言葉で攻めて、気を落としている姿を見れば、スッキリするかもしれない。
 物を隠して、探し回っている姿を見れば、いい気味だと笑えるかもしれない。
 噴水に突き落として、泣いている姿を見れば、高らかに笑えるかもしれない。
 階段から落として、怪我をした姿を見れば、ほっとするかもしれない。

 そんなわたしの中の悪女が囁く。
 やるんだ、と。
 やればいいのだ、と。
 悪女のわたしが囁く。

 そんなわたしの中の悪女が嫌い。
 なぜ、存在するの?

 黒い影がわたしの心を支配する。
 願っていないのに。

 醜い。
 浅ましい。
 醜悪。
 おぞましい。


 わたしの中の嫉妬を無くして。
 わたしの中の悪を消して。
 わたしの中の悪女をー

           殺してー。


*******

 外出できない日が続く。
 部屋に閉じこもる。
 お父様もお母様も見にこない。
 それでいい。
 醜いわたしを見て欲しくない。


 外に出れば、わたしは嫉妬から彼女に危害を加えるだろう。
 
 あの女のー、
 顔を見たくない。
 声を聞きたくない。
 あの甘い声で彼を呼ぶ声なんてもってのほか。
 愛おしく向ける彼の顔が浮かぶ。
 嫌っ!!!
 そんな顔を見せないで。

 わたしを見て。
 わたしだけを・・・。

 考えるだけで心が苦しい。
 心臓がちくちくと痛む。
 息が出来なくなる。

 
  
 
 幼馴染でメイドのカナンが部屋にやってくる。
 わたしを抱きしめてくれる。

「カナン。わたしを殺して。わたしの中の悪女を殺して」

 泣いて縋る。

「お嬢様。わたしには無理です。ですが、森の魔女様なら・・・」
 
 魔女?

「対価を払えば、なんでも願いを叶えてくれると言います」
 
 対価を払えばなんでも?

 わたしの中の悪女も?
 醜い心も?
 全て殺してくれる?
 殺してくれる?

 ならばー。


 わたしは、カナンの協力を得て、内緒で家を出て魔女の元へ行った。


 悪女を殺してもらうためにー。
 
 

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

【完結】それがわたしの生き方

彩華(あやはな)
恋愛
わたしの母は男爵令嬢。父は国王陛下。 わたしは国のために生きている。 そんなわたしでも、幸せになっていいですか?

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

処理中です...