暗黒騎士様の町おこし ~魔族娘の異世界交易~

盛り塩

文字の大きさ
上 下
233 / 297

第232話 想いの扉

しおりを挟む
 誠司の運転するワゴン車に乗ったぬか娘とモジョ。
 アルテマの背を求め、蹄沢集落から病院までの道を徹底的に探して回った。
 飲兵衛たちが見てくれていたはずだが、それでもまだまだ見落としはあるはず。
 交番に駆け込んで聞いてもみたが、それらしい女児は見なかったという。

「彼女は何を目的に出ていったのでしょうか?」
「わからん……最初は難陀《なんだ》に復讐するため、怒りのまま飛び出したのかと思ったが。……裏山にも、ソーラーパネルのところにもいなかったとなると、じゃあ何をしに出ていったのか……」

 爪を噛みながらモジョが誠司に答えた。
 もしかしてアマテラスの力をムリヤリにでも行使しようと企んだのではないか?
 そう考えて誠司の元にやってきた二人だったが、それも当てが外れて……。
 そうなってしまうともう、アルテマの意図が読めなくなってしまう。
 途方に暮れるモジョだったが、そこにぬか娘が意見を言ってきた。

「私は……アルテマちゃん、そんな無茶な行動してないと思う……」
「? なぜそう思う?」
「だって……アルテマちゃん、ホントは私たちよりズッと年上なんだよ? 暗黒騎士なんだよ? ……そんな人が……たとえ恩人の死でも……取り乱しちゃうなんて……ないんじゃないかなぁぁぁわあああぁぁぁぁぁぁん……」

 話しながら、元一の死をあらためて実感し、泣きじゃくってしまうぬか娘。
 よしよしと肩を抱いて擦ってやるモジョだが、なるほど……確かにその通りだと考えを整理する。
 アルテマは自暴自棄になったわけじゃない。
 冷静に、なにかキチンとした考えがあって飛び出したのだ。

「元一の訃報を聞いたアルテマが……一番に求めたものは何だ……?」

 モジョのつぶやきに、

「ぐすん……。そ、それはやっぱり回復魔法でしょ……? いまからでも……ヒールをかければ生き返ってくれるかもしれないし……。私だったらそうする」
「そうだな。……だめでもとにかく回復《ヒール》は絶対試すだろうな……。そのために必要なものは何だった……?」

 順を追って考え始めるモジョに、鼻をすすったぬか娘がじれったそうに言う。

「……だからぁ……電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》を病院まで持って行って……。そのためにはゴーレムをそこまで延ばさなくちゃいけなくて……。それにはアルテマちゃんの魔力が必要でぇ……ぐす……」
「そうだな。そのために魔素を集めていた最中に連絡があったんだ。……ならアルテマの目的は一つだ」

「……魔素を補給しに行った?」
「そうだ」

「え……? だってどこに? そんな場所があれば最初っからそこに……」
「いや、魔素はあるんだが近寄るなと約束されていた場所があったはずだ……」

 そう言われてぬか娘は、かつての騒動『悪魔ザクラウ』との戦いを思い出した。
 占いさんに契約不履行の呪いをかけていたあの巨大な化け物は、アルテマがこの世界で初めて退治した悪魔。
 そのためにまとまった量の魔素が必要で、それは元一家のとある部屋に溜まっていた。

「……ま、まさか……アルテマちゃん、あの部屋に……?」
「ああ。……そうとしか考えられん」
「だ、だったら大変。止めなきゃ」

 実を言うとぬか娘は――――いや、モジョも、集落のメンバー全員も、あの部屋の秘密を知っていた。
 最初からすべてを知っていて、ずっと黙っていた。

「……なんの話です?」

 誠司だけが話についてこれず、戸惑った顔をしている。
 ぬか娘とモジョは同時に叫んだ。

「アルテマちゃんはゲンさんの家です!!」「元一のウチに向かってくれ!!」




 アルテマはひとり寂しげに立っていた。
 目の前には自分と同じように、やはり寂しく閉まっている扉があった。

 家の二階にあるこの部屋は、二人から決して近寄ってはならないと、かたく言いつけられている。

 かつてあの悪魔を倒すため、ここから魔素をいただいたことがある。
 あのときは節子が立ちふさがって、部屋に入らないでくれと縋《すが》られた。
 だから扉に染み込んでいた魔素だけを絞り出して吸収したのだ。
 それだけで、当時の自分には余るほどの魔素量だった。
 いまの扉にはもう魔素は残っていない。

 だけども。
 きっと部屋を開ければ、とんでもない量の魔素が溜まっているに違いない。

 なぜこの家に?
 なんの変哲もなさそうなこの部屋に。
 それだけの魔素が溜まっているのだろうか?

 魔素は〝人の想いの強さ〟で量が決まる。
 それは呪いでも、怒りでも、恨みでも、そして愛でも同じ。
 部屋の魔素はいったいなんの想いで溜められているものだろうか?

 アルテマには察しがついていた。
 だけども聞けなかった。
 聞いたらつらい思いをさせると思ったから。
 この部屋はきっと――――二人の子供の部屋だっただろう。
 婬眼《フェアリーズ》で探ってなどいない。
 そんな無粋なことをしなくても、人としての感覚でわかった。

 そんな大切な部屋を荒らされたくないという、節子の気持ちは当然だった。
 たとえ扉一枚だったとしても、そこにあった魔素は二人と、その子供の大切な大切な想いの形だったのだから。

 だから絶対もう、この部屋には近づかない。
 そうかたく誓い、約束もした。
 だけども、もう一度。
 もう一度だけ使わせてほしい。
 元一を救うために……ほんのわずかな奇跡のために。

 約束破りの罪など、我が信仰の魔神だろうが、この世界の閻魔だろうが、好きな方が裁けばいい。
 アルテマはすべての罰を覚悟して。
 ひっそりと閉じる、扉の持ち手に手をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...