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第230話 騎証オラクル
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元一が死んだ。
残された携帯に出て、そのことをあらためて聞かされたモジョ。
これをアルテマが知ったら、きっと怒りのままに無茶な行動をしかねない。
そう心配した節子が、しばらく事実を隠すようアニオタに伝言を頼んだのだったが、運悪く、電話に出たのはモジョではなくアルテマ本人。
モジョはすぐさまぬか娘を叩き起こしてアルテマの後を追った。
「うえぇぇ……うえぇぇぇ~~ん……」
「泣くな、ぬか娘!! 走れ!!」
モジョは校庭に出ると、小さな背中を探した。
出て行ってからまだそんなに時間は経っていない。
一分も差はなかったはず。
ならば幼子の足。そうそうまだ遠くには行っていない……。
しかしぐるり一周見回しても、姿は見つけられなかった。
「ぬか娘!! アルテマだ、アルテマを探せ!!」
「……だ、だって……ゲンさんが……ゲンさんが……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~ん……」
ボロボロと泣き崩れるぬか娘の頬をギュッとつまんで怒鳴る。
「いまのアルテマはどんな無茶をするかわからん!! わたしは難陀《なんだ》の所に行く、そこに向かった可能性が一番高いからな!! お前は病院に向かえ、そっちに行った可能性もある!!」
怒鳴られたぬか娘はハッとして、
「そ、そうだ……ア……アルテマちゃん……アルテマちゃ~~~~~~~~んっ!!!!」
事態に気づいて青ざめると、モジョの話を聞かず裏山へと走り出した。
カラカラカラ……。
すべてのチューブを外されて、綺麗に身なりを整えられた元一が、冷えた部屋に運ばれてくる。部屋の奥には簡易的な仏壇が備えられて、二本の蝋燭《ろうそく》が寂しげに揺れていた。
運んでくれた看護師が神妙にお辞儀をし、安置室から出ていった。
それに代わるように、
「う……うぅぅ……うああぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
元一の胸に顔を埋め、節子が泣き崩れた。
それを見守る六段も、ヨウツベも、突然起こった現実に言葉をなくし呆然としていた。
「なにを……なにをやっとるんだお前は……。こんな……こんなところで死んでどうする? ……これからだろう? 三人で……時間を取り戻すのは……これからだと……お前、言っとっただろうが……」
拳を握りしめ、ワナワナと肩をふるわす六段。
「ゲンさん……まさか…………こんなあっけなく。そんな……」
人の命が消えるとは、こんなにあっけないものなのか?
ほんとにあっさり、ぷっつりと。
あっというまに、命の鼓動は止まってしまった。
医者は言った。
それでもよく耐えていてくれたと。
年老いた身体には酷《こく》すぎる重傷。
しかし、強い生への執着がここまで息を繋げていたと。
「やれやれ……結局間に合わなかったかアルテマよ。貴様の悪運もコッチの世界では通用せんらしいな……無様なものよ」
まるで他人事のように、クロードがため息をついた。
それを殺気のこもった目で睨む六段。
「……なんだと? お前いよいよ……殺されたいのか?」
「仏の前で使う言葉じゃないな?」
その返しに、胸ぐらを捻りあげる。
一触即発の気配に、たまらずヨウツベが割って入る。
「やめてください。……いまは喧嘩をしていい時じゃありません。二人に……失礼すぎます……」
そう言われ、投げ捨てるように手をはなす六段。
クロードは無言で襟を直すと、首に下げた金色のペンダントを外した。
細い鎖の先には、天使の羽をかたどったアクセサリーがついていた。
「……これは我が聖王国騎士に与えられる騎証『オラクル』……こいつは騎士である証の他に、ある強力なマジックアイテムでもあってな……」
「……なにを言っている?」
六段に構わず、元一の元へと近づいていくクロード。
そして節子の肩に手を添える。
「……騎士が戦いで死んだとき、悪魔に身体を乗っ取られないよう、燃やすか、安全な場所に遺体を隔離する必要がある。それまでは一時的にこのオラクルを胸に刺して魔除けとする」
「……魔除……け……?」
ボロボロの泣き顔。
それでもなにか希望の気配を感じ、それを見上げる節子。
クロードは元一の胸にオラクルを立てると、ズブズブとそれを押し込んでいった。
「お……おい!! お前なにをしている!?」
「……魔除けとはものの言いようでな。実際は死者の魂を僅かな時間、肉体へと留めておくだけの封印だ。そうすることによって悪魔の侵入を難《むずか》しくし、憑依させないようにしている」
根元まで埋め終わる。
と、元一の身体が神秘的に青白く光った。
「……この光があるうちは、ゲンイチの魂は肉体の中にいる」
「ゲンさんの……魂が……」
「……あなた……?」
ヨウツベと節子が、その光を、まるで命の炎を見るよう神妙にながめた。
「それで……どうするというんだ?」
考えがわからず、睨みつける六段。
クロードは節子から手を離すと、
「さてな? 魔法も使えない俺ができるのはここまでだ。後はアルテマ次第よ」
言ってキザったらしく髪を掻き上げる。
「伝えてやるんだな『リミットはせいぜい数刻』あの裏切り者でも引っ張り出せれば……なんとかなるかもしれん、とな」
残された携帯に出て、そのことをあらためて聞かされたモジョ。
これをアルテマが知ったら、きっと怒りのままに無茶な行動をしかねない。
そう心配した節子が、しばらく事実を隠すようアニオタに伝言を頼んだのだったが、運悪く、電話に出たのはモジョではなくアルテマ本人。
モジョはすぐさまぬか娘を叩き起こしてアルテマの後を追った。
「うえぇぇ……うえぇぇぇ~~ん……」
「泣くな、ぬか娘!! 走れ!!」
モジョは校庭に出ると、小さな背中を探した。
出て行ってからまだそんなに時間は経っていない。
一分も差はなかったはず。
ならば幼子の足。そうそうまだ遠くには行っていない……。
しかしぐるり一周見回しても、姿は見つけられなかった。
「ぬか娘!! アルテマだ、アルテマを探せ!!」
「……だ、だって……ゲンさんが……ゲンさんが……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~ん……」
ボロボロと泣き崩れるぬか娘の頬をギュッとつまんで怒鳴る。
「いまのアルテマはどんな無茶をするかわからん!! わたしは難陀《なんだ》の所に行く、そこに向かった可能性が一番高いからな!! お前は病院に向かえ、そっちに行った可能性もある!!」
怒鳴られたぬか娘はハッとして、
「そ、そうだ……ア……アルテマちゃん……アルテマちゃ~~~~~~~~んっ!!!!」
事態に気づいて青ざめると、モジョの話を聞かず裏山へと走り出した。
カラカラカラ……。
すべてのチューブを外されて、綺麗に身なりを整えられた元一が、冷えた部屋に運ばれてくる。部屋の奥には簡易的な仏壇が備えられて、二本の蝋燭《ろうそく》が寂しげに揺れていた。
運んでくれた看護師が神妙にお辞儀をし、安置室から出ていった。
それに代わるように、
「う……うぅぅ……うああぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
元一の胸に顔を埋め、節子が泣き崩れた。
それを見守る六段も、ヨウツベも、突然起こった現実に言葉をなくし呆然としていた。
「なにを……なにをやっとるんだお前は……。こんな……こんなところで死んでどうする? ……これからだろう? 三人で……時間を取り戻すのは……これからだと……お前、言っとっただろうが……」
拳を握りしめ、ワナワナと肩をふるわす六段。
「ゲンさん……まさか…………こんなあっけなく。そんな……」
人の命が消えるとは、こんなにあっけないものなのか?
ほんとにあっさり、ぷっつりと。
あっというまに、命の鼓動は止まってしまった。
医者は言った。
それでもよく耐えていてくれたと。
年老いた身体には酷《こく》すぎる重傷。
しかし、強い生への執着がここまで息を繋げていたと。
「やれやれ……結局間に合わなかったかアルテマよ。貴様の悪運もコッチの世界では通用せんらしいな……無様なものよ」
まるで他人事のように、クロードがため息をついた。
それを殺気のこもった目で睨む六段。
「……なんだと? お前いよいよ……殺されたいのか?」
「仏の前で使う言葉じゃないな?」
その返しに、胸ぐらを捻りあげる。
一触即発の気配に、たまらずヨウツベが割って入る。
「やめてください。……いまは喧嘩をしていい時じゃありません。二人に……失礼すぎます……」
そう言われ、投げ捨てるように手をはなす六段。
クロードは無言で襟を直すと、首に下げた金色のペンダントを外した。
細い鎖の先には、天使の羽をかたどったアクセサリーがついていた。
「……これは我が聖王国騎士に与えられる騎証『オラクル』……こいつは騎士である証の他に、ある強力なマジックアイテムでもあってな……」
「……なにを言っている?」
六段に構わず、元一の元へと近づいていくクロード。
そして節子の肩に手を添える。
「……騎士が戦いで死んだとき、悪魔に身体を乗っ取られないよう、燃やすか、安全な場所に遺体を隔離する必要がある。それまでは一時的にこのオラクルを胸に刺して魔除けとする」
「……魔除……け……?」
ボロボロの泣き顔。
それでもなにか希望の気配を感じ、それを見上げる節子。
クロードは元一の胸にオラクルを立てると、ズブズブとそれを押し込んでいった。
「お……おい!! お前なにをしている!?」
「……魔除けとはものの言いようでな。実際は死者の魂を僅かな時間、肉体へと留めておくだけの封印だ。そうすることによって悪魔の侵入を難《むずか》しくし、憑依させないようにしている」
根元まで埋め終わる。
と、元一の身体が神秘的に青白く光った。
「……この光があるうちは、ゲンイチの魂は肉体の中にいる」
「ゲンさんの……魂が……」
「……あなた……?」
ヨウツベと節子が、その光を、まるで命の炎を見るよう神妙にながめた。
「それで……どうするというんだ?」
考えがわからず、睨みつける六段。
クロードは節子から手を離すと、
「さてな? 魔法も使えない俺ができるのはここまでだ。後はアルテマ次第よ」
言ってキザったらしく髪を掻き上げる。
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