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第227話 代打ワタシ
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「――――というわけで、モジョが作ってくれた電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》なるもので通信を試みたわけです……ご理解いただけたでしょうか師匠……?」
一方通行の通信の中、異世界との連絡が途絶えてから今日まで、あった出来事をかいつまんで説明したアルテマ。
ジルは最初、どこからともなく響いてくるアルテマの声を幽霊か何かだと勘違いして必死に除霊魔法を唱えまくっていたが、説明が進むにつれ違うことに気づき、天井を見上げながら大人しく話を聞いていた。
最後まで説明を聞き終わったジルはしばらく放心していたが、やがて――――ハッと我に返ると、口をパクパク動かして何かを喋り始める。
「……申し訳ありません師匠。諸事情がありまして……そちらの声はこちらには届かないのです。なので――――」
そういうアルテマに対して画面の中のジルはポンと手を打ち、旗を持ち出すと、妙な踊りをはじめた。
「……? いきなりどうしたんだジルさん。……寝起きでボケてるのか??」
「いや、いくら師匠でも起きながら妙なポーズはとらない。これは……軍の信号旗だ」
そう聞いて「おお」と理解を示すモジョ。
信号旗。つまり自衛隊とかでも使っている手信号のこと。
「……そうか、その手があったか。……考えてみれば音がなくても筆談やジェスチャーなど、意思疎通の手段はいくらでもあるな」
さすがジル――――というよりも、こんな簡単なことに気づかなかった自分のほうが問題か……。
わたしもデジタルバカになりつつあるかな……?
踊るジルを見ながらモジョは密かにそう反省した。
「……で、ジルさんはなんて言ってるんだ? そもそも言葉がわからんから、信号を見せられてもどうにもならない」
「……師匠は、私たちの無事をまずは喜んでくれている。そしてお前の発明に深く感嘆しておられる」
頬を赤らめ、嬉しそうに興奮しつつ踊るジル。
手旗信号と言うよりかは……阿波踊りのような気がしないでもないが……まぁそこはそれ、文化の違いなのだろう。
「そして『魔法は繋がったのですか?』とも……」
聞かれてアルテマは暗い顔をする。
いちおう手をかざして「――――アモン」と唱えてみるが、やはり発動してくれる気配はない。
それを伝えると、ジルはしばらく考えたあと『下がっていなさい』と信号を送ってくる。
そして画面の向こうでなにやら呪文を唱えはじめた。
ジルの手がパリパリと小さな稲妻に包まれる。
そのまま天井(アルテマ)に向かって『――――っ!!!!』なにかを叫びながらその手を突き上げた。
「ぬおっ!?」
同時に、画面から強烈な光が放たれた。
おどろいて思わず携帯から手を離し、ひっくり返ってしまうアルテマ。
モジョも同じくひっくり返り、
「……あいたたたた……いきなりビックリするじゃないか……なんなんだいまのは……?」
「いまのは師匠お得意のライトニングネットだ。聖なる稲妻の槍を広範囲に走らせ、まるで魚を捕らえる網のごとく敵集団を一網打尽にする攻撃魔法だな」
「れ……冷静に言うな!! そんな物騒なもの、なんで撃ったんだっ!??」
「それは――――」
転がった携帯を見ると、ジルが踊りで『どうですか、ゴーレムちゃんは?』と尋ねてきた。
「……ゴーレム?」
「熱っつい!!??」
なにげに携帯に繋がっていたケーブルに触れていたモジョが飛び上がる。それは火傷するほどに熱く、その熱はゴーレムを通じて電柱の本線までも煙を上げさせていた。
「……こ、これは……?」
モジョが唖然と周囲を見回す。
同時に近くの民家から、
「ノ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~セーブが!! セーブデーターがぁ~~~~~~~~~~~~~5時間も記録してないのに~~~~~~~~~~~~!!!!」
という青年の絶叫と、
「おおいブレーカーブレーカー!! いきなりTVが消えちまったぞっ!?」
というオジサンの怒鳴り声。
その向かいの家からも、
「ちょっとお~~~~いまリモートワークしてるんだから!! 電子レンジ使わないで!!」
という女性の声が聞こえてきた。
遠くにある小さな交差点には信号機があるが、そこのランプも消えていた。
つまり、この一帯は停電していた。
「……こ、これは……まさか……?」
期待に興奮し、モジョはその焦げた電線を見上げた。
アルテマは「はい、はい」と熱心にジルと会話している。
そしてモジョに状況を教えてくれた。
「ゴーレムを通じて師匠が魔法を使ってくれた。電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の構造を聞いて、もしかしたらと思ったらしい」
「そ……そうか……。そもそもゴーレムだけはこっちのネット回線と融合して異世界と繋がっていたんだからな。もしかして……それを逆流させたのか……?」
「そう。さすがモジョ、飲み込みが早いな。しかし師匠が言うには〝信仰〟までは繋がらないらしい。……だから私の魔法が復活するわけではないが……。それでも精霊《ゴーレム》を通じて師匠の魔法〝だけ〟が、こっちの世界へと運ばれる。なにせゴーレムの主人は師匠だからな!!」
「こ……細かいことはわからないが……つまり」
「これからは師匠が代わりに魔法を使ってくれるということだ!!」
誇らしげに、そしてこれ以上ないほど頼もしげに、アルテマは顔をほころばせた。
一方通行の通信の中、異世界との連絡が途絶えてから今日まで、あった出来事をかいつまんで説明したアルテマ。
ジルは最初、どこからともなく響いてくるアルテマの声を幽霊か何かだと勘違いして必死に除霊魔法を唱えまくっていたが、説明が進むにつれ違うことに気づき、天井を見上げながら大人しく話を聞いていた。
最後まで説明を聞き終わったジルはしばらく放心していたが、やがて――――ハッと我に返ると、口をパクパク動かして何かを喋り始める。
「……申し訳ありません師匠。諸事情がありまして……そちらの声はこちらには届かないのです。なので――――」
そういうアルテマに対して画面の中のジルはポンと手を打ち、旗を持ち出すと、妙な踊りをはじめた。
「……? いきなりどうしたんだジルさん。……寝起きでボケてるのか??」
「いや、いくら師匠でも起きながら妙なポーズはとらない。これは……軍の信号旗だ」
そう聞いて「おお」と理解を示すモジョ。
信号旗。つまり自衛隊とかでも使っている手信号のこと。
「……そうか、その手があったか。……考えてみれば音がなくても筆談やジェスチャーなど、意思疎通の手段はいくらでもあるな」
さすがジル――――というよりも、こんな簡単なことに気づかなかった自分のほうが問題か……。
わたしもデジタルバカになりつつあるかな……?
踊るジルを見ながらモジョは密かにそう反省した。
「……で、ジルさんはなんて言ってるんだ? そもそも言葉がわからんから、信号を見せられてもどうにもならない」
「……師匠は、私たちの無事をまずは喜んでくれている。そしてお前の発明に深く感嘆しておられる」
頬を赤らめ、嬉しそうに興奮しつつ踊るジル。
手旗信号と言うよりかは……阿波踊りのような気がしないでもないが……まぁそこはそれ、文化の違いなのだろう。
「そして『魔法は繋がったのですか?』とも……」
聞かれてアルテマは暗い顔をする。
いちおう手をかざして「――――アモン」と唱えてみるが、やはり発動してくれる気配はない。
それを伝えると、ジルはしばらく考えたあと『下がっていなさい』と信号を送ってくる。
そして画面の向こうでなにやら呪文を唱えはじめた。
ジルの手がパリパリと小さな稲妻に包まれる。
そのまま天井(アルテマ)に向かって『――――っ!!!!』なにかを叫びながらその手を突き上げた。
「ぬおっ!?」
同時に、画面から強烈な光が放たれた。
おどろいて思わず携帯から手を離し、ひっくり返ってしまうアルテマ。
モジョも同じくひっくり返り、
「……あいたたたた……いきなりビックリするじゃないか……なんなんだいまのは……?」
「いまのは師匠お得意のライトニングネットだ。聖なる稲妻の槍を広範囲に走らせ、まるで魚を捕らえる網のごとく敵集団を一網打尽にする攻撃魔法だな」
「れ……冷静に言うな!! そんな物騒なもの、なんで撃ったんだっ!??」
「それは――――」
転がった携帯を見ると、ジルが踊りで『どうですか、ゴーレムちゃんは?』と尋ねてきた。
「……ゴーレム?」
「熱っつい!!??」
なにげに携帯に繋がっていたケーブルに触れていたモジョが飛び上がる。それは火傷するほどに熱く、その熱はゴーレムを通じて電柱の本線までも煙を上げさせていた。
「……こ、これは……?」
モジョが唖然と周囲を見回す。
同時に近くの民家から、
「ノ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~セーブが!! セーブデーターがぁ~~~~~~~~~~~~~5時間も記録してないのに~~~~~~~~~~~~!!!!」
という青年の絶叫と、
「おおいブレーカーブレーカー!! いきなりTVが消えちまったぞっ!?」
というオジサンの怒鳴り声。
その向かいの家からも、
「ちょっとお~~~~いまリモートワークしてるんだから!! 電子レンジ使わないで!!」
という女性の声が聞こえてきた。
遠くにある小さな交差点には信号機があるが、そこのランプも消えていた。
つまり、この一帯は停電していた。
「……こ、これは……まさか……?」
期待に興奮し、モジョはその焦げた電線を見上げた。
アルテマは「はい、はい」と熱心にジルと会話している。
そしてモジョに状況を教えてくれた。
「ゴーレムを通じて師匠が魔法を使ってくれた。電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の構造を聞いて、もしかしたらと思ったらしい」
「そ……そうか……。そもそもゴーレムだけはこっちのネット回線と融合して異世界と繋がっていたんだからな。もしかして……それを逆流させたのか……?」
「そう。さすがモジョ、飲み込みが早いな。しかし師匠が言うには〝信仰〟までは繋がらないらしい。……だから私の魔法が復活するわけではないが……。それでも精霊《ゴーレム》を通じて師匠の魔法〝だけ〟が、こっちの世界へと運ばれる。なにせゴーレムの主人は師匠だからな!!」
「こ……細かいことはわからないが……つまり」
「これからは師匠が代わりに魔法を使ってくれるということだ!!」
誇らしげに、そしてこれ以上ないほど頼もしげに、アルテマは顔をほころばせた。
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