上 下
207 / 272

第206話 最後の想い

しおりを挟む
 あれ……ここはどこだろう?
 朦朧《もうろう》とした意識。
 見慣れない山道を、かすんだ目で眺めながら偽島真子はまどろんでいた。

 私……部屋で眠っていたはずだけど……?
 体は――――動かない。
 いや、動いているのだけれど……自分の意志で動かしてはいなかった。

 ああ……これはきっと夢なんだ。
 自然にそう考える。

 ズルズルと足を引きずりながら、ぎこちなく山道を登っていく。
 靴は履いていたけど、片方が脱げていた。
 夢とはいえ……私、いったいなにやってるんだろ。
 
 こんな真っ暗な夜中に。
 一人で山登り。
 まるで家出でもしているみたい。

 そういえばこの間、パパにUSJの約束すっぽかされて泣いたんだっけ。
 でもあれは本当に悲しかったし、なんならいまでも怒ってる。
 仕事が忙しいのはわかってるんだけど……。
 でも、久しぶりにパパと思いっきり遊べるんだって。
 ずっと楽しみにしていた約束。
 行けないって言われたら、もう良い子でいられなくなった。
 だからこうして、夢の中でも拗《す》ねて家出をしているのだ。

 どんどん道がせまくなってきた。
 坂も急に、地面もデコボコが大きくなって息があがってきた。
 夢だから苦しくはないけど……。
 でも本当だったら……こんな夜中の山道なんて、怖くて一人でなんてとても歩けない。

 パパ、ママ……私がいなくなってどう思うかな?
 夢の中でも悲しんでくれるかな?
 そうしたら今度こそ連れて行ってくれるかな?

 最近、クロードさんって人を雇ったみたい。
 住み込みで働いてる。

 とっても美形な外国人さん。
 どこの国の人か、事務のお姉さんや社員さんに聞いてもよくわからないって。
 なにか事情があるのかな?

 わからないケド、よくパパと喧嘩しているのを見かける。
 現場監督さんが言っていた「アイツは強い」って。
 そうすると……パパの〝怖い方〟の友達なのかもしれない。
 でも「バカ」とも言われてたし……どうなんだろう?
 チラチラ見ていたら、おせっかいな事務員さんに「好きなの?」って聞かれた。
 そんなわけじゃないって返事したんだけど、赤くなっちゃって……きっと誤解している。

 私はパパと一緒にいたいだけ。
 なのにパパは会社で私を見かけても、あの人ところに行っちゃうから……。

 道が本当に険しくなってきた。
 辺りは木々が生い茂って、街の明かりも見えなくなった。
 私は急に寂しくなって家に帰りたくなったけど、体が言うことを聞いてくれない。
 ズルズルと、言うことを聞かず、おぼつかない足取りで登っていく私の体。

 なんだか……幽霊みたい……。
 そんな風に考えると、先に見える暗闇がなんだかとても恐ろしいモノに見えてきて……涙が滲んできた。

 パパ……ママ……やだよう。……こわいよう。

 これ以上進むと、もう二度と返ってこれなくなるような気がして、とても怖い。
 夢だとわかっていても……パパやママと永遠に会えなくなるなんて……絶対いや。
 
 小さな石祠が見えてきた。
 その上にとても大きな……漫画で見るような龍が浮かんでいた。
 
 私は泣きながらその龍を見上げると、龍は言った。

『ヌシに想い人はいるのか』って。

 どう答えたらいいかわからないし口も動かせなかったけど、龍は勝手にうなずいて、

『……ほう? 強い想いがあるようだな。んふふ……それはいい。我は色と想いをなにより好む。ヌシはとてもうまそうだ』

 そう言うと、大きな口を開けてきた。
 
(パパ――――助けて……)
 
 飲み込まれるとき。
 私は最後にそう想って……そして暗くなった。




「……そろそろ着くな」

 先頭を行く元一が、猟銃を構えてつぶやいた。
 難陀《なんだ》が巣食う龍脈の祠まで、あと少しのところまできていた。

「魔神アルハラムに命ずる。汝、その御力の欠片を刃とし万物を滅する威を示せ――――魔呪浸刀《レリクス》」

 元一の目配せをうけ、アルテマは銃に悪魔の加護をかけてやる。
 堕天の弓も一応背中に背負ってはいるが、暴走してしまったこともあり、元一の中では二軍落ちしてしまった。
 代わりに加護を受けた猟銃デビルライフルを昇格させている。

「偽島よ、お前にも一応かけてやろう」

 偽島は会社から持ってきた拳銃を握っていた。
 当然、許される物ではなかったが、無敵の神龍などという非現実的なバケモノ相手に社会のルールを持ち込む者など誰もいない。
 元一たち昭和初期育ちはもちろん。
 ヨウツベら平成生まれ組も、そこは〝見ていない方向で〟理解した。

「……ああ、すまんな」

 ついさっきまで宿敵だったアルテマの魔法を受け、バツの悪そうな顔をする。
 やがて難陀《なんだ》の気配が強まってくると、アルテマも竹刀(予備)を抜いて加護をかける。

 そして見えてきた。
 目的地である、龍脈の石祠が。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ
ファンタジー
魔界に召喚されてしまった彼女とシマシマな彼の日常ストーリー 2022年6月9日に完結いたしました。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

処理中です...