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第182話 腹を割って話そう
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「はぁ~~~~~~~~~~……」
話を聞いた元一は、長い長いため息をついた。
そして誠司の肩に手を置くと、力強く握りしめた。
「どうやら、ワシは……お前を誤解していたようじゃの……。お前は、一人で戦っておったんじゃな。誰に頼ることもできない因果と……」
「そうだな。いまならワシらに相談すればよかったじゃろうと言いたくもなるが、ちょっと前のワシらなら、聞いても意味がわからんかったじゃろうからな」
同じく、うなずいてやる六段。
アルテマが来てくれる前までは、変わり者ではあったが、普通の年寄と半端者集団たっだ蹄沢集落のメンバー。そんなときに古の龍やら怨霊の呪いやら話されてもきっと頭がおかしくなったのだろうと追い返していただろう。
誰に頼るどころか、相談すらできない状態で、それでもずっと母を護ってきた誠司の苦労は簡単に想像できるものではない。
「いえ……私はもう、そういってもらえるだけで……じゅ……です」
元一の手から力強いぬくもりを感じた誠司は、こみ上げてくるもので言葉をつまらせてしまった。ぬか娘たちも、知らなかったこととはいえ、いままで冷たくあたってきたことに少なからず負い目を感じて、気まずそうに見つめ合った。
その雰囲気を感じ取った誠司はズッと鼻を鳴らして顔をあげる。
「いえ、みなさんにしてみれば大切な自然を壊されるところだったのですから、怒られるのは当然だと思います。すべては……木戸家――――いえ、私のわがままでやらかしたことですから」
「……まあ、そりゃそうやな。こっちも事情を知らんかったわけやから、悪かったって言うのも変な話やし……。どうやろうか? ここは一つ、仕切り直しってことで、お互い腹を割って話し合ってみいひんか……ヒック」
みなの気持ちの間を取るように、飲兵衛がまとめてきた。
その提案に異議を唱えるものは、当然ながら誰一人いなかった。
「異世界……ラゼルハイジャン。……サアトル帝国の暗黒騎士……ですか」
とても信じられないといった目で、可愛らしく佇《たたず》むアルテマを見つめる誠司。
アルテマの正体と異世界の存在。
そして開門揖盗《デモン・ザ・ホール》を使っての取引やら、ここ一ヶ月ほどの出来事をすべて説明した元一たち。
正直言うと、まだ完全に誠司のことを信用したわけではなかった。
それでもこれまでの話を聞いて、迂闊《うかつ》な騒ぎだけは起こさないだろうと確信しての暴露だった。
「うむ。いまは帝国外交官の役職も併任しているアルテマ・ザウザーだ。説明の通り、異世界からこの世界へと渡ってきた渡航者で、いまは元一の家に匿《かくま》われている。事情があったこととはいえ、村の代表であるあなたに挨拶ができなかったこと、ここに深くお詫び申し上げる」
ぶかぶかシャツに短パンといったラフな格好だが、片膝をつき胸に手を当て頭を下げる様《さま》はまさに騎士そのもの。誠司は慌てふためき正座をし、
「あいや、え……と……そのこ、こ、こ、こ、これはご丁寧に……ええ~~……と」
どう対応したらいいかわからないようす。
偽島から多少聞いていたとはいえ、あらためて本人から自己紹介されると、未知との遭遇ではないが、心臓がバクバクして汗がどっと吹き出してくる。
しかし同時に、この顔……どこかで見たような……。
デジャブに似た感覚がほんのわずかだが、感じられた。
「……ちょっと? いやらしい目で見ないでくれます? アルテマちゃんは私のなんですからね!?」
「いや、断じて違うが!? いやらしいのはお前だろ!? どこ触っている!??」
そんな誠司のコウフンと視線を誤解したぬか娘が、アルテマを抱き寄せ、ついでに色んなところを触り揉む。
「……まぁ、そういうわけでな。大っぴらにできない事情もあり、いまのところはワシらだけで異世界と交流をしている。ゆくゆくは折を見て、徐々に情報開示していくつもりじゃったが……それはまだまだ先の話と考えておる。なにか意見はあるか?」
元一が問う。
集落長として村長への伺《うかが》いである。
しかし誠司は汗まみれになりながら、小刻みに首を横に振った。
「いや……いやいや……これは……ぼ、僕みたいな立場の人間が扱い切れる話ではありません……。ゲ、ゲンさんが向こう方の皇帝様と懇意になさっているのであれば、それはそのままお任せします。……とても手に負える話ではないですから……」
滝のような冷や汗ですべてを放棄する誠司。
元一は、わかったとうなずき話を元に戻した。
「それで難陀《なんだ》のことじゃが……。実はワシらもアレに困らされておっての……」
難陀《なんだ》が塞ぐ龍脈と、開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の不具合。異世界側の戦況のことなど、一連の問題を説明する。
「向こうの門も閉じかけておるらしいからの。……そうなる前に、なんとしてでも龍脈を開放し、帝国を援助してやらねばならない。他にも問題は残っているが、直面しているのがこれだ」
「つまり……元さんたちも難陀《なんだ》と戦う理由があると……?」
「ああ、だが……手立てがなかった。しかしその知恵はお前が持っている。そうなんじゃろ?」
元一の目に応えるよう、誠司は静かにうなずいた。
話を聞いた元一は、長い長いため息をついた。
そして誠司の肩に手を置くと、力強く握りしめた。
「どうやら、ワシは……お前を誤解していたようじゃの……。お前は、一人で戦っておったんじゃな。誰に頼ることもできない因果と……」
「そうだな。いまならワシらに相談すればよかったじゃろうと言いたくもなるが、ちょっと前のワシらなら、聞いても意味がわからんかったじゃろうからな」
同じく、うなずいてやる六段。
アルテマが来てくれる前までは、変わり者ではあったが、普通の年寄と半端者集団たっだ蹄沢集落のメンバー。そんなときに古の龍やら怨霊の呪いやら話されてもきっと頭がおかしくなったのだろうと追い返していただろう。
誰に頼るどころか、相談すらできない状態で、それでもずっと母を護ってきた誠司の苦労は簡単に想像できるものではない。
「いえ……私はもう、そういってもらえるだけで……じゅ……です」
元一の手から力強いぬくもりを感じた誠司は、こみ上げてくるもので言葉をつまらせてしまった。ぬか娘たちも、知らなかったこととはいえ、いままで冷たくあたってきたことに少なからず負い目を感じて、気まずそうに見つめ合った。
その雰囲気を感じ取った誠司はズッと鼻を鳴らして顔をあげる。
「いえ、みなさんにしてみれば大切な自然を壊されるところだったのですから、怒られるのは当然だと思います。すべては……木戸家――――いえ、私のわがままでやらかしたことですから」
「……まあ、そりゃそうやな。こっちも事情を知らんかったわけやから、悪かったって言うのも変な話やし……。どうやろうか? ここは一つ、仕切り直しってことで、お互い腹を割って話し合ってみいひんか……ヒック」
みなの気持ちの間を取るように、飲兵衛がまとめてきた。
その提案に異議を唱えるものは、当然ながら誰一人いなかった。
「異世界……ラゼルハイジャン。……サアトル帝国の暗黒騎士……ですか」
とても信じられないといった目で、可愛らしく佇《たたず》むアルテマを見つめる誠司。
アルテマの正体と異世界の存在。
そして開門揖盗《デモン・ザ・ホール》を使っての取引やら、ここ一ヶ月ほどの出来事をすべて説明した元一たち。
正直言うと、まだ完全に誠司のことを信用したわけではなかった。
それでもこれまでの話を聞いて、迂闊《うかつ》な騒ぎだけは起こさないだろうと確信しての暴露だった。
「うむ。いまは帝国外交官の役職も併任しているアルテマ・ザウザーだ。説明の通り、異世界からこの世界へと渡ってきた渡航者で、いまは元一の家に匿《かくま》われている。事情があったこととはいえ、村の代表であるあなたに挨拶ができなかったこと、ここに深くお詫び申し上げる」
ぶかぶかシャツに短パンといったラフな格好だが、片膝をつき胸に手を当て頭を下げる様《さま》はまさに騎士そのもの。誠司は慌てふためき正座をし、
「あいや、え……と……そのこ、こ、こ、こ、これはご丁寧に……ええ~~……と」
どう対応したらいいかわからないようす。
偽島から多少聞いていたとはいえ、あらためて本人から自己紹介されると、未知との遭遇ではないが、心臓がバクバクして汗がどっと吹き出してくる。
しかし同時に、この顔……どこかで見たような……。
デジャブに似た感覚がほんのわずかだが、感じられた。
「……ちょっと? いやらしい目で見ないでくれます? アルテマちゃんは私のなんですからね!?」
「いや、断じて違うが!? いやらしいのはお前だろ!? どこ触っている!??」
そんな誠司のコウフンと視線を誤解したぬか娘が、アルテマを抱き寄せ、ついでに色んなところを触り揉む。
「……まぁ、そういうわけでな。大っぴらにできない事情もあり、いまのところはワシらだけで異世界と交流をしている。ゆくゆくは折を見て、徐々に情報開示していくつもりじゃったが……それはまだまだ先の話と考えておる。なにか意見はあるか?」
元一が問う。
集落長として村長への伺《うかが》いである。
しかし誠司は汗まみれになりながら、小刻みに首を横に振った。
「いや……いやいや……これは……ぼ、僕みたいな立場の人間が扱い切れる話ではありません……。ゲ、ゲンさんが向こう方の皇帝様と懇意になさっているのであれば、それはそのままお任せします。……とても手に負える話ではないですから……」
滝のような冷や汗ですべてを放棄する誠司。
元一は、わかったとうなずき話を元に戻した。
「それで難陀《なんだ》のことじゃが……。実はワシらもアレに困らされておっての……」
難陀《なんだ》が塞ぐ龍脈と、開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の不具合。異世界側の戦況のことなど、一連の問題を説明する。
「向こうの門も閉じかけておるらしいからの。……そうなる前に、なんとしてでも龍脈を開放し、帝国を援助してやらねばならない。他にも問題は残っているが、直面しているのがこれだ」
「つまり……元さんたちも難陀《なんだ》と戦う理由があると……?」
「ああ、だが……手立てがなかった。しかしその知恵はお前が持っている。そうなんじゃろ?」
元一の目に応えるよう、誠司は静かにうなずいた。
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