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第180話 木戸誠司①

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 集落の一同は、村長の木戸誠司もふくめて全員が鉄の結束荘に集まっていた。
 急な取り調べで疲れていたので、夕飯は簡素に即席麺やレトルトですましている。
 途中、アニオタの器が真っ二つになるという謎のハプニングもあったが、心労もあってみな深く考えず食事を続けた。

 事件はあきらかに難陀《なんだ》の仕業だった。

 カメラの映像を見て、それを確信した。
 女性たちはみな、なにか不思議な力で操られ、誘い込まれているようにしか見えなかったからだ。
 彼女らがどこへ向かったかまでは映っていなかったが、方向から、裏山へ行っただろうことは推測できる。
 彼女らは生贄として……どうされたか、までは想像したくなかった。

 問題は。
 これをどうやって解決するか。

 警察に本当のことを言うわけにもいかず、かといって、犠牲者が出ているのに放っておくわけにもいかない。
 アルテマが「やはりここは私が出向いてヤツと話をしてこよう」と提言してくれたが、怨霊季里姫を一撃で消滅させたあの超級悪魔の前に、ひとり向かわせようなどとメンバーの誰も了解しなかった。

 とくに元一と節子は頑として許さなかった。

 かわりにクロードに行かせればいいのでは? と名案が出たが、あいつひとりを向かわせても話が斜め後ろに反転するだけだと、これも却下された。

 さて、ではどうすればいいのか。
 みなが頭を悩ませていたところで、誠司が気まずそうに手を上げた。

「……あのう……」
「なんじゃ? 礼はもう充分じゃし、ワシらのことを黙っているというのならもう帰っていいぞ」

 まだいたのか、と面倒くさそうに元一が睨みをきかせる。
 怨霊騒ぎという共通の秘密は持ったが、パネル工事という敵対関係もまだ続いている。おいそれと心は開いてやらんぞと、集落長としての一線である。

「あいや、違うんだゲンさん。えっと……その違うってこともないんだけど……」

 しどろもどろ、言いづらそうに言葉を選んでいる誠司。
 額は冷や汗でいっぱい。

「まあまあゲンさん。そない睨んだら言いたいことも言えへんで? なんや、話があるんか? ワシは他のジジババと違ってそこまで喧嘩っ早くはないからな、よければ話してみい……悪いようにはせえへんで、ヒック」

 ほがらかな赤ら顔でヘラヘラ笑いつつ、誠司にコップを渡すと、飲兵衛は気安く一升瓶を傾けた。

「ほら、まずは飲め飲めってな。酒は人と人とのイザコザを洗い流してくれる有り難いもんなんやで。なにはともあれ一杯あけて、勢いでもなんでもええさかい言うてみんかい……カカカカ」

 ここに来たときからの誠司の表情に、どうにも含んだものを感じていた飲兵衛。
 お礼というのも本心だろうが、本題は別にあると思っていた。

「なんじゃと? お前こそ酒がなくなったら――――」
「おう、そうだとも。空瓶投げつけられたときのこと、いまでも覚えとるぞ!!」
「ヤクザまがいの闇医者が……わたしはなんでもお見通しなんじゃぞ?」

 乱暴者扱いされた年寄り三人が、文句たらたら、言い返している。
 その脇で、注がれた酒をぐいっと飲み干す誠司。
 そんなにすぐに酔いが回るわけないが、こういうのは気持ちの問題。
 飲んで勢いがついた誠司は、飲兵衛だけではなく、ここにいる全員を見回す。
 そして両手を床につき、深く頭を下げた。そして、

「おいおい、だから礼はもういいって」

 六段の言葉を遮るように、

「申し訳ありませんでしたっ!!」

 謝罪の言葉とともに頭を床に擦り付けた。

「「???」」

 ありがとう、ではなく、申し訳ない?
 みなはその言葉にハテナ顔。
 もしかして工事のことを言っているのか?
 しかしいまさら謝られても、取り止めになるとは思えないが?

「実は、今回のソーラーパネル工事。木戸家の……いや、私の身勝手な都合で進めていたものでした!!」

 思い詰めた顔で白状する誠司。
 一同はなにを言われているのかわからない。
 顔を見合わせ、眉をひそめる。

「……詳しく聞こうやないか? ……ヒック」

 その話、酒の肴になりそうや。
 飲兵衛はニヤリと笑う。
 そしてもう一杯、誠司のコップに酒を注いでやった。




 誠司が話した都合とは、難陀《なんだ》との呪われた因果の話だった。

 一方的に惚れられ、目をつけられた初代。
 そこから幾代《いくだい》も、子孫は難陀《なんだ》との関係に苦しめられてきた。
 初代が召喚した怨霊季里姫のおかげで命だけは救われてきた一族だが、しかしその見返りに身体のどこかしこを不自由にされてきた。
 身代わりに他の家の娘を犠牲にしてきた負い目も積まれている。

 こんなことがあと何代続くのか……。
 なにもしなければ、きっと永遠と続くのだろう。
 幼い頃に母の光が失われ、つらい思いをしてきた誠司。
 この一方的な悪夢をどう断ち切るか。誠司は若い時間をすべて使って難陀《なんだ》について独自に研究を進めていた。

 どうにかして、自分の代で、難陀《なんだ》という存在を処分したかったのだ。

 木戸家の秘密を世間に知られるのが怖くて、大学で、などというような大っぴらな行動はできなかったが、それでも誠司は個人レベルでコツコツ根気よく研究を進めていた。

 おかげでかなり時間がかかってしまった。
 自分も中年。母もずいぶん年老いた。
 それでも。
 いや、子供ができた今だからこそ、あきらめるわけにはいかなかった。

 そして二年前、誠司はとうとう難陀《なんだ》を倒すことができるかもしれない、ある方法――――秘術を見つけたのだという。
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