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第175話 警戒態勢
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集落から川を挟んで向こう岸。
崩れたプレハブ小屋のそばに、数台のパトカーが止まっていた。
電話で話した『木津村・集団失踪事件』についての聞き込みに、地元の警官が早速《さっそく》やってきたのだ。
警官たちの相手は集落長の元一がしてくれている。
面子《めんつ》は刑事が二人と制服警官が三人。あとは鑑識らしき者たちが五人ほど。
聞き込みというよりも、現場検証といったほうがいいかもしれない。
崩れた仮設橋梁やプレハブ。
修理した橋渡しボートなどが先に調べられ、なんだか物々しい感じである。
「……な……なにこれ……? まるで私たちが犯人みたいな扱い受けてるっぽいんだけど……」
ボートの隅々まで、ゴミ一つ残さず回収している警官たちを見て、ぬか娘が不安げに振り向いた。
「……まるで……じゃなくて、あからさまに疑ってるよな……これは……」
面倒くさそうにモジョがつぶやく。
結束荘のメンバーは、ひとまず二階の教室に避難して下を眺めていた。
「なんで? どうして私らが疑われなきゃイケナイの??」
「……そりゃ怪しいからに決まっているからだろうが」
当然のことを聞くな。と、やる気なさげに答えるモジョ。
「どこがよ!?? 私たち、とっても人畜無害なはずじゃない!??」
「怪しげなお祓いを商売にしてる年寄り連中に、妙な荷物を大量に、そして定期的に運び入れている無職の若者集団が市政に逆らって建設屋と喧嘩したあげくに通路を崩して籠城しているのが世間的にどう見えるか……」
「うぅぅぅ……怪しいことこのうえない……」
「……そのうえ、消えた女性たちがこの集落に向かっていったとなれば……」
「うぅぅぅ……怪しいことこのうえない……」
なにも反論できずに、うなだれるしかないぬか娘。
ヨウツベもあきらめた顔をして、みなに言う。
「ともかく、アルテマさんだけは見つからないよう匿《かくま》って……僕たちはできるだけ怪しまれないように普通にしていよう」
「では、失踪した女性たちについて、あなたはなにも知らないということですね」
「……はい」
「ここには共同で生活されているんですか?」
「……はい」
「ご職業は?」
「……無職です」
「普段はどんな活動を?」
「…………漬物を漬けたり、可愛いものを集めたり……」
「その服装は?」
「……正義の味《み》か――――趣味のコスプレです」
もう何度聞かれたことだろうか?
疲れ果てた顔をして、ぬか娘は何度も繰り返される質問に答えて続けていた。
こいつらはなにか? 情報を共有するってことを知らんのか?
代わる代わるやってくる警官が、みな同じ質問をしてくる。
その度に、無職であることをふくめ、説明しづらい現状を話すのにもうそろそろ疲れてきた……。
心も惨めにやつれてきた。
少し離れたところで同じ質問をされているモジョの目も殺気で座ってきている。
アニオタにいたっては、なぜかパトカーの中にまで引っ張っていかれて尋問まがいの質問攻めに合っていた。
……このまま関係ない罪で連れて行かれたりしないだろうか。
心配でならない。
「あの……もしかして私たちのこと疑ってます?」
もう面倒くさいのでハッキリと聞いてみる。
いろいろあるけども自分たちは無罪なのだ、とくに恐れることもない。
「ああいえいえ……これも形式的な質問でしてね、とくにそんなつもりはないんですよ? ……お気に触ったのなら申し訳ないです」
どこぞの刑事ドラマのような返事をしてくる警察官。
そのわりには建物の隅から隅まで調べているようだけれども?
――――がらがらがっしゃん……。
となりの教室から、何かをひっくり返したような大きな音が響いてきた。
「あの……となりの部屋のガラク――――お宝。私のモノなんですけど……手荒に扱わないでくれますか? あと、下に置いてある漬物桶も乱暴に開けないでください……」
「はい。それでですね、ホニャララハニャララヘニャララホリャララ――――」
こっちの文句は一切受け付けず、警官たちは淡々と質問を続けてくる。
(アルテマちゃん大丈夫かなぁ……。大丈夫よね。……絶対見つからない場所に隠れてもらったからね。うんきっと大丈夫)
こっちも適当に返事をしながらぬか娘は、じっとこの騒ぎが去るのを待っていた。
警官たちが帰ったのは夕飯時になってからだった。
事件に関係あることやないこと。そんなことまで聞くんかい? と騒ぎたくなるほどのプライベートな話まで、たっぷり四時間ほど答えさせられ、調べつくされ、元一はじめ集落のメンバーはもうみんなクタクタになっていた。
なかでも一番辛かったのはアルテマだろう。
戸籍が無いうえ、ツノがある彼女の存在はバレてしまったらとっても面倒。
なので絶対見つからないと、ぬか娘が提案した秘密の場所に隠れてもらったのだが……。
「し……死ぬ……み、水を……水をくれ……」
汗の水たまりを作り、瀕死の状態で元一に抱き抱えられているアルテマ。
「だ、大丈夫か!? ど、どうしてこんなことになったのじゃ!? いったいどこに匿ったんじゃお前ら!?」
そんなアルテマに、冷えた水を染み込ませ、若者たちを怒鳴り散らす。
怒られたぬか娘は、両方の人差し指をちょんちょん合わせながら、誤魔化すような笑顔を浮かべた。
「いやその……ちょっと等身大ペロちゃん人形の中に……ね」
それは昔、とあるお菓子メーカーが販促用に駄菓子屋に置いて回っていたというビニール製の等身大人形。
中は空洞で、子供なら入れないことはないが……夏場は地獄である。
「いや、そのアルテマちゃんなら魔法で何とか耐えられるんじゃないかと思って、えへへ……」
「た、耐えられるかぁ~~……。し……しかもアイツら……た、ただのガラクタだと思って……ら、乱暴に転がしおって……アイタタタ……」
悶絶するアルテマの頭には、大きなタンコブが膨らんでいた。
崩れたプレハブ小屋のそばに、数台のパトカーが止まっていた。
電話で話した『木津村・集団失踪事件』についての聞き込みに、地元の警官が早速《さっそく》やってきたのだ。
警官たちの相手は集落長の元一がしてくれている。
面子《めんつ》は刑事が二人と制服警官が三人。あとは鑑識らしき者たちが五人ほど。
聞き込みというよりも、現場検証といったほうがいいかもしれない。
崩れた仮設橋梁やプレハブ。
修理した橋渡しボートなどが先に調べられ、なんだか物々しい感じである。
「……な……なにこれ……? まるで私たちが犯人みたいな扱い受けてるっぽいんだけど……」
ボートの隅々まで、ゴミ一つ残さず回収している警官たちを見て、ぬか娘が不安げに振り向いた。
「……まるで……じゃなくて、あからさまに疑ってるよな……これは……」
面倒くさそうにモジョがつぶやく。
結束荘のメンバーは、ひとまず二階の教室に避難して下を眺めていた。
「なんで? どうして私らが疑われなきゃイケナイの??」
「……そりゃ怪しいからに決まっているからだろうが」
当然のことを聞くな。と、やる気なさげに答えるモジョ。
「どこがよ!?? 私たち、とっても人畜無害なはずじゃない!??」
「怪しげなお祓いを商売にしてる年寄り連中に、妙な荷物を大量に、そして定期的に運び入れている無職の若者集団が市政に逆らって建設屋と喧嘩したあげくに通路を崩して籠城しているのが世間的にどう見えるか……」
「うぅぅぅ……怪しいことこのうえない……」
「……そのうえ、消えた女性たちがこの集落に向かっていったとなれば……」
「うぅぅぅ……怪しいことこのうえない……」
なにも反論できずに、うなだれるしかないぬか娘。
ヨウツベもあきらめた顔をして、みなに言う。
「ともかく、アルテマさんだけは見つからないよう匿《かくま》って……僕たちはできるだけ怪しまれないように普通にしていよう」
「では、失踪した女性たちについて、あなたはなにも知らないということですね」
「……はい」
「ここには共同で生活されているんですか?」
「……はい」
「ご職業は?」
「……無職です」
「普段はどんな活動を?」
「…………漬物を漬けたり、可愛いものを集めたり……」
「その服装は?」
「……正義の味《み》か――――趣味のコスプレです」
もう何度聞かれたことだろうか?
疲れ果てた顔をして、ぬか娘は何度も繰り返される質問に答えて続けていた。
こいつらはなにか? 情報を共有するってことを知らんのか?
代わる代わるやってくる警官が、みな同じ質問をしてくる。
その度に、無職であることをふくめ、説明しづらい現状を話すのにもうそろそろ疲れてきた……。
心も惨めにやつれてきた。
少し離れたところで同じ質問をされているモジョの目も殺気で座ってきている。
アニオタにいたっては、なぜかパトカーの中にまで引っ張っていかれて尋問まがいの質問攻めに合っていた。
……このまま関係ない罪で連れて行かれたりしないだろうか。
心配でならない。
「あの……もしかして私たちのこと疑ってます?」
もう面倒くさいのでハッキリと聞いてみる。
いろいろあるけども自分たちは無罪なのだ、とくに恐れることもない。
「ああいえいえ……これも形式的な質問でしてね、とくにそんなつもりはないんですよ? ……お気に触ったのなら申し訳ないです」
どこぞの刑事ドラマのような返事をしてくる警察官。
そのわりには建物の隅から隅まで調べているようだけれども?
――――がらがらがっしゃん……。
となりの教室から、何かをひっくり返したような大きな音が響いてきた。
「あの……となりの部屋のガラク――――お宝。私のモノなんですけど……手荒に扱わないでくれますか? あと、下に置いてある漬物桶も乱暴に開けないでください……」
「はい。それでですね、ホニャララハニャララヘニャララホリャララ――――」
こっちの文句は一切受け付けず、警官たちは淡々と質問を続けてくる。
(アルテマちゃん大丈夫かなぁ……。大丈夫よね。……絶対見つからない場所に隠れてもらったからね。うんきっと大丈夫)
こっちも適当に返事をしながらぬか娘は、じっとこの騒ぎが去るのを待っていた。
警官たちが帰ったのは夕飯時になってからだった。
事件に関係あることやないこと。そんなことまで聞くんかい? と騒ぎたくなるほどのプライベートな話まで、たっぷり四時間ほど答えさせられ、調べつくされ、元一はじめ集落のメンバーはもうみんなクタクタになっていた。
なかでも一番辛かったのはアルテマだろう。
戸籍が無いうえ、ツノがある彼女の存在はバレてしまったらとっても面倒。
なので絶対見つからないと、ぬか娘が提案した秘密の場所に隠れてもらったのだが……。
「し……死ぬ……み、水を……水をくれ……」
汗の水たまりを作り、瀕死の状態で元一に抱き抱えられているアルテマ。
「だ、大丈夫か!? ど、どうしてこんなことになったのじゃ!? いったいどこに匿ったんじゃお前ら!?」
そんなアルテマに、冷えた水を染み込ませ、若者たちを怒鳴り散らす。
怒られたぬか娘は、両方の人差し指をちょんちょん合わせながら、誤魔化すような笑顔を浮かべた。
「いやその……ちょっと等身大ペロちゃん人形の中に……ね」
それは昔、とあるお菓子メーカーが販促用に駄菓子屋に置いて回っていたというビニール製の等身大人形。
中は空洞で、子供なら入れないことはないが……夏場は地獄である。
「いや、そのアルテマちゃんなら魔法で何とか耐えられるんじゃないかと思って、えへへ……」
「た、耐えられるかぁ~~……。し……しかもアイツら……た、ただのガラクタだと思って……ら、乱暴に転がしおって……アイタタタ……」
悶絶するアルテマの頭には、大きなタンコブが膨らんでいた。
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