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第142話 味噌は二番目
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「なんだあの龍《トカゲ》は!! 俺がいったい何をした!? いきなり吹き飛ばすなど無礼であろうが!!!!」
翌日、クロードが元気ピンピンな姿で訪ねてきて、喚き散らした。
ここは鉄の結束荘1階、リビングという名の職員室である。
「……あの攻撃をもって『吹き飛ばす』とは、お前ますます堅くなってるんじゃないか」
あちこちに絆創膏を貼っただけ、ほぼ無傷な姿を見てあきれるアルテマ。
魔法云々言うよりも、この頑丈さが最大の驚異である。
「当然だ、俺もこの世界でずいぶん鍛えられたからな。小学校の頃からなにかと同級生にちょっかいをかけられ、それに愛想笑いで応えていると段々とそれがエスカテートしてきて気がつけばクラスの大半の者が俺に暴力を振るうようになってきてな、それでも俺は耐えて耐えて……いつしかそんじゃそこらのゲンコツではびくともしない屈強な身体と精神を――――」
「わかったわかった聞きたくない聞きたくない、聞いてられない、そういう問題じゃないわかった黙れ」
痛々しい思い出話に耳をふさぐアルテマと若者の面々。
みなそれぞれ過去にトラウマをもっているようだが、ここはまぁ、あまり深掘りしないでおく。
「はぁはぁ……で、その難陀《なんだ》とかいう龍の正体はわかったのか……?」
気を取り直し、モジョがアルテマに聞いた。
「いま占いさんに調べてもらっている。……心当たりがあるようだったが、いま隣町まで行っている」
「なんで僕らにも声をかけてくれなかったんです!? 古《いにしえ》の祠から出現した謎の龍だなんて絵的にめちゃくちゃおいしいじゃないですか」
ヨウツベはカメラを握りしめてギリギリと悔しがっている。
それにアニオタが、
「ど、ど、どうせ撮ってもCGとか特撮だって思われるだけでござるよ。そんなものよりやはり異世界美少女のルナちゅわんやジル殿を映したほうが回数を稼げるでござるに」
「もちろんそれも押さえるさ。でも男子にとっては龍だって負けず劣らず人気コンテンツなんだよ」
言ってる二人をシラケ目で見ながらモジョは、
「……ともかく、その龍が言った言葉……気にかかるな」
ココアシガレットをはじかみ、考え込む。
――――私は難陀《なんだ》……人の姿を捨てしもの。永久に待つもの。喰らい続けるもの。……我の贄はこやつではない……。
「……贄とは……生贄のことだろう? こやつとはコレだ」
「おいモジョとやら、人を指差すな失礼だろうが」
文句を言うクロード。
「そしてアルテマにも気になることを言っていたな? ……たしか」
「『ヌシは……違ったな……』と、言っていた」
モジョと同じく考え込みながらアルテマ。
「違ったな……とは? まるで……一度会ったことがあるような言い方だな」
「そ、そ、そ、その前の言葉も気になるでござるよ。人の姿を捨てしもの。永久に待つもの。喰らい続けるもの……」
「しかし……私は知らないぞ? あんな龍になど会ったことがない。あるとすれば異世界だろうが……」
「うむ。俺様も知らんな、あんな光る龍《トカゲ》など」
「……どのみち占いさんが帰ってくるまでわからないな」
モジョがつぶやくと、みんなはうなずき、大人しく待つことにした。
そして数時間後。
「うむ。やはりカップ麺は豚キムチにかぎる」
「そうかい? 僕はトムヤムクンのほうが好きだけど」
麺をすするクロードとヨウツベ。
すっかり昼飯タイムになった。
「いや、や、や、や、やはりマヨビーム焼きそばが最強でござるぞ」
「なにいってんのアニオタ。最強は今も昔も変わらないチキンローメンに決まってるでしょ、ね、アルテマちゃん」
「うむ、それはわかる。しかも鍋で1分ではなく、丼で3分ほうを私は押すな。玉子は入れない方向で」
「……私は……きつねうどんが~~……」
ぬか娘、アルテマ、モジョも思い思いに好きな麺を食べている。
そんなところに、
「バカ者共が、一番はハコダテ一番塩ラーメンじゃ。それ以外は認めん!!」
職員室の窓越に、山姥《やまんば》の影がヌッと現れた。
帰ってきた占いさんだった。
「わあ、びっくりした!!」
「お帰りなさい。おそかったですね」
「うむ」
「で、わかったのか? 龍の正体」
出迎える若者たち。
車を出してあげていた元一も六段とともに後からやってくる。
「……ああ、わかった。しかしなんとも……信じがたい話しだったがな」
六段が答えると、占いさんは黙ったまま部屋に上がり込み、元一も難しい顔をしてついてきた。
「……あとここにいないのは飲兵衛と節子か?」
みなを見渡し確認すると、残りの二人も呼んでから話をしようと、占いさんはボロボロのソファーにゆっくり腰掛けた。
「それまでにわたしも昼食をとることにしようかの。ハコダテ一番の塩はあるんじゃろうな?」
「……ごめん。それいまは切らしてる。かわりに味噌じゃだめかなぁ……」
「もちろんかまわんぞ。 先日やったキャベツと一緒に煮込んでくれ」
「三人分な」
六段の指に「へいへい」と返事をして湯を沸かしに行くぬか娘だった。
翌日、クロードが元気ピンピンな姿で訪ねてきて、喚き散らした。
ここは鉄の結束荘1階、リビングという名の職員室である。
「……あの攻撃をもって『吹き飛ばす』とは、お前ますます堅くなってるんじゃないか」
あちこちに絆創膏を貼っただけ、ほぼ無傷な姿を見てあきれるアルテマ。
魔法云々言うよりも、この頑丈さが最大の驚異である。
「当然だ、俺もこの世界でずいぶん鍛えられたからな。小学校の頃からなにかと同級生にちょっかいをかけられ、それに愛想笑いで応えていると段々とそれがエスカテートしてきて気がつけばクラスの大半の者が俺に暴力を振るうようになってきてな、それでも俺は耐えて耐えて……いつしかそんじゃそこらのゲンコツではびくともしない屈強な身体と精神を――――」
「わかったわかった聞きたくない聞きたくない、聞いてられない、そういう問題じゃないわかった黙れ」
痛々しい思い出話に耳をふさぐアルテマと若者の面々。
みなそれぞれ過去にトラウマをもっているようだが、ここはまぁ、あまり深掘りしないでおく。
「はぁはぁ……で、その難陀《なんだ》とかいう龍の正体はわかったのか……?」
気を取り直し、モジョがアルテマに聞いた。
「いま占いさんに調べてもらっている。……心当たりがあるようだったが、いま隣町まで行っている」
「なんで僕らにも声をかけてくれなかったんです!? 古《いにしえ》の祠から出現した謎の龍だなんて絵的にめちゃくちゃおいしいじゃないですか」
ヨウツベはカメラを握りしめてギリギリと悔しがっている。
それにアニオタが、
「ど、ど、どうせ撮ってもCGとか特撮だって思われるだけでござるよ。そんなものよりやはり異世界美少女のルナちゅわんやジル殿を映したほうが回数を稼げるでござるに」
「もちろんそれも押さえるさ。でも男子にとっては龍だって負けず劣らず人気コンテンツなんだよ」
言ってる二人をシラケ目で見ながらモジョは、
「……ともかく、その龍が言った言葉……気にかかるな」
ココアシガレットをはじかみ、考え込む。
――――私は難陀《なんだ》……人の姿を捨てしもの。永久に待つもの。喰らい続けるもの。……我の贄はこやつではない……。
「……贄とは……生贄のことだろう? こやつとはコレだ」
「おいモジョとやら、人を指差すな失礼だろうが」
文句を言うクロード。
「そしてアルテマにも気になることを言っていたな? ……たしか」
「『ヌシは……違ったな……』と、言っていた」
モジョと同じく考え込みながらアルテマ。
「違ったな……とは? まるで……一度会ったことがあるような言い方だな」
「そ、そ、そ、その前の言葉も気になるでござるよ。人の姿を捨てしもの。永久に待つもの。喰らい続けるもの……」
「しかし……私は知らないぞ? あんな龍になど会ったことがない。あるとすれば異世界だろうが……」
「うむ。俺様も知らんな、あんな光る龍《トカゲ》など」
「……どのみち占いさんが帰ってくるまでわからないな」
モジョがつぶやくと、みんなはうなずき、大人しく待つことにした。
そして数時間後。
「うむ。やはりカップ麺は豚キムチにかぎる」
「そうかい? 僕はトムヤムクンのほうが好きだけど」
麺をすするクロードとヨウツベ。
すっかり昼飯タイムになった。
「いや、や、や、や、やはりマヨビーム焼きそばが最強でござるぞ」
「なにいってんのアニオタ。最強は今も昔も変わらないチキンローメンに決まってるでしょ、ね、アルテマちゃん」
「うむ、それはわかる。しかも鍋で1分ではなく、丼で3分ほうを私は押すな。玉子は入れない方向で」
「……私は……きつねうどんが~~……」
ぬか娘、アルテマ、モジョも思い思いに好きな麺を食べている。
そんなところに、
「バカ者共が、一番はハコダテ一番塩ラーメンじゃ。それ以外は認めん!!」
職員室の窓越に、山姥《やまんば》の影がヌッと現れた。
帰ってきた占いさんだった。
「わあ、びっくりした!!」
「お帰りなさい。おそかったですね」
「うむ」
「で、わかったのか? 龍の正体」
出迎える若者たち。
車を出してあげていた元一も六段とともに後からやってくる。
「……ああ、わかった。しかしなんとも……信じがたい話しだったがな」
六段が答えると、占いさんは黙ったまま部屋に上がり込み、元一も難しい顔をしてついてきた。
「……あとここにいないのは飲兵衛と節子か?」
みなを見渡し確認すると、残りの二人も呼んでから話をしようと、占いさんはボロボロのソファーにゆっくり腰掛けた。
「それまでにわたしも昼食をとることにしようかの。ハコダテ一番の塩はあるんじゃろうな?」
「……ごめん。それいまは切らしてる。かわりに味噌じゃだめかなぁ……」
「もちろんかまわんぞ。 先日やったキャベツと一緒に煮込んでくれ」
「三人分な」
六段の指に「へいへい」と返事をして湯を沸かしに行くぬか娘だった。
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