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第140話 祠の神様

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「よし。じゃまあ、そういうことで帰るかアルテマ」
「そうだな。このままここにいてもしょうがない」

 あきらめて帰ろうとする二人にクロードが待ったをかける。

「まてまて~~い!! それだと俺の故郷凱旋はどうなるんだ!?」
「……あきらめろ。仕事なら隣町の工場を紹介してやる。そこなら住み込みで雇ってもらえるだろう」
「バカ言うな!! なぜ聖騎士の俺様がライン工などせねばならんのだ!?」
「いままで運送屋でやってきたんじゃろうか」
「鉄の馬はカッコいいから好きでやっていたのだ!!」
「ならまたやればいいじゃろう?」
「帰りたいんだよ俺は!!」
「しかしその方法がわからんし、唯一の手がかりであろうそこの祠は近づくのに命がけじゃ。どうにもならんじゃろう」
「だがあれを見てみろ!! 何か刻んであるんじゃないのか!?」

 クロードは祠の中に置かれている丸い石を指差して言った。

「御神体のことか? そりゃ祠なんじゃからなにかしら記してあるじゃろう」
「きっと、転移のことについて書いてある気がする!!」
「……そんな都合のいい話があるか、あれは祀ってある神様のことを記してあるんじゃ。よく見てみい……龍の絵が掘ってあるじゃろう」

 元一に言われ、見てみようとするが、ここからだと遠くてよく見えない。
 クロードは恐る恐る歩いて、見えるところまで近づいてみる。
 と、そこで、

「わっ!!」

 アルテマが大声を出した。

「むおぉぉっ!??」

 びっくりしたクロードは飛び上がり前のめりに転がってしまう。
 一気に距離が縮まって、体中から魔素の光が浮き上がってきた。

「ぎやぁぁぁぁぁぁっ!! き、貴様なにをするかーーーーーーーーっ!!」

 シャカシャカとヤモリのような動きで戻ってくるクロード。
 そんな無様な姿にアルテマは腹を抱えて転がっている。

「わはははははははは、げほげほ、く、くくくくひぃひぃ……く、苦しい……」
「ええい、笑うな!! 子供みたいな悪戯をしおって、貴様ほんとにあのアルテマかーーーーーーーーっ!!」

 前々から薄々思っていたが、アルテマは以前とはずいぶん違う性格をしていた。
 異世界にいた頃はもっとこう……いかにも暗黒騎士らしく無慈悲で冷酷な魔戦士といった感じだったが、いまのアルテマは年相応クソ生意気な小娘といった感じ。
 もちろんその外見も相まっているのだろうが、それでもこんな子供だましな悪戯で笑うような性格ではなかったはず。
 それとも戦場以外ではこうだったのだろうか。
 そんな話は聞いたことがなかったが?

「すまんすまん。お前があまりにへっぴり腰だったものでなつい……。なに、多少なら近寄っても死にはせん、そのままダッシュで見てきたらどうだ?」
「そ、そうか? ……本当だろうな?」

 まあ、さっきは堂々と目の前で仁王立ちしていたのだから大丈夫か。
 クロードは言われた通りダッシュで祠に近づく。
 そして石壁の中に鎮座している御神体とやらを急いで調べると、確かにそこには龍の絵が掘られていた。

「た、確かに龍だな……しかしこれが一体何だというのだ?」
「知らんわ、お前が気になるといったんじゃろう。……この祠は昔からここにあって猟をしていたワシはよく目にしておったというだけじゃ。それ以上のことは何も知らん」
「元一は昔からこの山で仕事していたのか?」

 アルテマが尋ねる。

「ああそうじゃ。ここだけじゃない、この辺りの山は全部ワシの狩猟場だったよ」
「なら、ここにもよく立ち寄ったのか」
「ああ、ちょうどいい広場だったからな。休憩場の一つにはしていた」
「だ、大丈夫だったのか?」
「ワシがウロウロしていた頃はこんなおかしなことになってなかったからな」

 そういえば占いさんが言っていた。龍脈の流れが変わったのはここ数年の話だと。

「すると元一はしばらく猟をしていなかったということか?」
「いや……猟場を変えていただけじゃ」
「それはどうして」

 アルテマが事情を聞こうとしたとき、

「た、た、た……助けてくれ……」

 蚊の鳴くような声でクロードが助けを求めてきた。
 見ると彼《バカ》は祠に顔を突っ込んだまま力尽きたようにぐったりとしていた。

「……なにをやっているんだお前は」

 またおかしな行動を……と、アルテマがあきれる。

「……いや、その……神体を持って……帰ろうと、も、持ち上げたら……きゅ、急激に力が抜けて……」
「御神体を動かしたじゃと!?」 
「バカな、そんなことをしたら祀ってある神の祟が――――」

 起こっても知らんぞ、と言おうとしたアルテマの言葉が止まった。
 そして代わりにゆっくりと背中の竹刀に手をかける。
 クロードからは魔素の光が大量に浮き出ていて、それは祠に吸収されず、なぜか空に集まっていった。

「……り、龍……か?」

 流れる冷や汗とともにアルテマがつぶやく。
 それはやがて長くうねり、塒《とぐろ》を巻く一匹の和龍の形に変わっていった。
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