上 下
140 / 272

第139話 役に立たないやつ。

しおりを挟む
 アルテマが嫌がった理由。それはもちろん。

「……ほう、これがその龍穴の祠というやつか。思っていたよりも質素なものだったな――――ところでアルテマ、貴様たちはなぜそんな離れたところから見ているのだ?」

 案内された祠の前に立ち、クロードは不思議そうにアルテマへと振り返った。
 アルテマと元一は少し離れた木の陰から隠れるようにこちらを覗き込んでいる。

「い、いや、気にするな……それよりどうだ? どこか気になるところは見つかったか?」
「……いや、とくになにも……これといって普通などこにでもある石造りの祠に見えるが……。そういえば貴様、来るとき危険があって近寄れないとか言っていたが、あれは何だったのだ?」
「……うむ、実はな……」
「そういえばさっきから魔素が減っているように感じているのだが……? はて、この光は何だ、どうして祠に吸い込まれていっている??」

 アルテマはこの祠がどういうものか説明した。




「おぉぉっっぉぉぉおおぉぃっ!! ふ、ふ、ふざけるなよ貴様!!!!」

 祠が龍脈につながっていること。
 その流れが変わって気(魔素)を吸い込むようになっていること。
 そして吸われすぎると最悪死ぬ、と聞いたところで――――、
 全力で逃げてきたクロードが汗だくでアルテマを締め上げた。

「ぐえ……お、お前が勝手に近寄ったんだろうが、私は知らんぞ……苦しい……離せ……!!」
「3秒以内に離せ、さもなくば3,2,1」

 ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!

「ワシの銃が火を吹くことになるぞ」

 猟銃を構えた元一が目を座らせる。
 辺りにはキラキラと舞う金色の髪の毛と、それを焦がした嫌なニオイが広がった。

「う……撃ってからいうな貴様!!」
「言っておくが、ワシはまだお前を認めたわけではない。いまは協力していても、いずれはまた敵になるのじゃろう? ならばいっそここで葬ってしまっても……」
「おぉ、やるかこの年寄が!! そんな銃など俺のラグエルで一瞬にして――――」
「わかった、わかったから、いいからやめろ二人ともゴホッゴホンッ!!」

 締められた首をさすりながらアルテマは元一を後ろに下がらせた。

「……ともかく、そういうわけでな。私もできることなら隅々まで調べてみたいのだが近寄れんのだ。だからこの問題はいったん置いといて、後々状況が変わってくるようならその時に調べてみようと思っていたのだ」
「……ずいぶんと悠長なことを」
「仕方がないだろう? まさか異世界側であんな変化があるとは思ってもいなかったからな」
「しかしこうなってしまっては調べないわけにもいかないだろう」
「うむ、だからお前が男気をみせてカラダをはっているのを影で見守っていたのだ」
「貴様……ものは言いようだな……」




「ほお、お前は東京に転移したのか? 元一、東京とはここから遠いのか?」

 とりあえず祠を遠巻きに見ながら調べる手段を模索する三人。
 祠を中心にウロウロと周りを歩き回り、そのうちクロードが転移した状況はどうだったのだとアルテマが尋ねた。

「……遠いな。400キロくらいじゃろうか?」
「歩きで10日くらいか……」
「ああ、奥多摩あたりの山奥にいきなり子供姿で放り出されてな。着るものもないし……あのときはわりと真剣に泣きそうになったぞ」

 その後、警察に保護され色々調べ尽くされたあげく役所をたらい回しにされて施設に預けられた。その間、実際に泣いた回数は十数回にのぼったが、それは絶対に言わないクロード。

「で、その時の状況はどうだったのじゃ? アレに似た祠はそこになかったのか?」

 元一が聞くがクロードは、

「あったかな……あったかもしれんが……どうだろうか? ……なにせ15年も前の記憶だからな……よく思い返せない」

 頭を押さえて渋い顔をみせた。

「おい、ここは大事なところだぞ? 同じ状況ならば、やはり祠が転移の核になっていると考えていいのだからな」
「わかっている。しかしアルテマよ、あのときの俺は子供だったのだぞ。そんな冷静にまわりを観察などできはしなかったのだ」
「頭は大人だったんだろうが!?」
「そうだがあの場面は大人でも充分怖いぞ。貴様もそうだったんだろうが」
「いや、私は目覚める前に元一に拾われていたからな。案外冷静だったぞ」
「お前……この俺は素っ裸で山道を転げ落ちていた言うのに……」

 おまけにクロードはアルテマが使うような探索系魔法《フェアリーズ》は持ち合わせていない。
 そんな状況で冷静に行動できなかったのは、仕方のないことかもしれない。

「では場所はどこなんだ? 奥多摩の山奥と言ったが何山のどのあたりだ?」
「いや、だから……知らん。とにかく二、三日山を這いずり回ってようやく人里を見つけたからな。……その頃は俺も必死で」
「わかった。もういい……」

 子供の足とはいえ二日以上歩いたのならばその範囲は相当なもの。
 連なる山々からその場所を見つけ出すのはもはや不可能……とまでは言わないが労力が惜しすぎる。
 結局なんにも役立つ情報を持っていないポンコツに、アルテマは頭を押さえて頭痛を我慢した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...