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第121話 第3ラウンド①

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「うぅぅ……恥ずかしいよう、恥ずかしいよう……」
「はて、デジャヴかな?」

 聞き覚えのあるぬか娘の呻きを横目に、ヨウツベが首を傾げる。
 今日の集荷当番はぬか娘、アニオタ、ヨウツベの三人である。
 運転する軽トラは二人乗りなのでアニオタには荷台に乗ってもらっている(道交法違反)。

「いやあ、昨日のクロードたちは傑作だったねぇ。全員煙で涙まみれ鼻水まみれになりながらプレハブの残骸に押しつぶされてミミズみたいに藻掻いてたからね、良いカットが撮れたよ、ほくほく」

 鉄柵をかぶせられ、殺虫煙で燻されまくったクロードは怒り狂ってラグエルの魔法を連射していた。そのせいでプレハブが半壊し、落ちてきた天井の残骸に潰されていたというわけだ。

「しかも帰り際のセリフ『おぼえてろよっ!! この借りはすぐに返してやるからな!!』のポイントも高いね~~。いまはなかなか、こういう王道の捨て台詞は聞けないから……やっぱりまず、わかり易さが大事だよ。偽島誠といい彼らはそのへんの基本をしっかりわかっているよ」

 もちろん彼らにそんなつもりはないのだが、結果的にそうなってしまいヨウツベはご満悦に笑う。

 ぬか娘は昨日のビキニアーマーのままである。
 呪いのせいでどうやっても脱げないし、何かを羽織って隠すこともできない。
 さすがにこんな半裸な状態で荷物を運ばせるのも鬼なので、集荷作業は男二人で担当し、彼女には車窓カーテンを付けた車の中で大人しくしてもらっていた。
 それでも運送屋や郵便局の人にチラチラ見られて泣いていたが、そこはもう我慢してもらうしかない。

 今日のぬか娘には何より大事な役割があるからだ。


 さつまいもの苗を満載した軽トラは、のどかな田舎道をのんきに進む。
 アルテマから『帝国は甘いものが少ないから、さつまいもなんかは特にみんな喜ぶだろう』と教えられたので今日はそれだけを運んできた。

「ところで……ぬか娘その鎧、寒くないのかい?」

 これを鎧と表現して良いものかどうか……しかしカガミというよりはまだしっくりくるのでそう表現するヨウツベ。

「……寒くない。夏布団も着られないから朝は寒いかな~~って思ってたけど、なんだか不思議な膜みたいなものが肌の上に薄くあって、いい感じに保温してくれてるみたい……」
「へぇ~~それは便利だな。異世界の魔法具か……よかったじゃないか望みが叶って、その調子だと冬でも快適に過ごせそうじゃないか」
「冬までには脱ぐわ!! こんな痴女のまま年は越せない!!」
「お、お、お、お、お風呂とかはど、ど、ど、どうしているでござるか!? い、い、いやこれはスケベ心ではなくじゅじゅじゅ純真なる疑問でござるに!!!!」

 一ミリも説得力のない言い訳を添えて、荷台からアニオタが聞いてきた。

「……脱げないからそのまま入ったよ」
「へぇ、そんなことして錆びないのかい?」
「錆びたら錆びたでいいよ……そのほうが早く脱げるかもしれないし……」
「と、と、と、トイレはどうやってしてるでござるかっ!!!!」
「そこの部分は柔らかくなっているから……こうめくってね、ってなに言わせるんじゃい!!!!」

 ガタガタと揺れるトラック。
 いつのまにか人気のない山間の細道に入っていた。

「……ふむ、そろそろ出てきそうな雰囲気だね。アニオタ、索敵よろしく。ぬか娘は臨戦態勢で」
「う~~~~……」
「ま、ま、ま、まかせるでござるぅ!!」

 ヨウツベの指示にしぶしぶ盾(鏡)を構えるぬか娘に、なにやらゴツゴツとした望遠鏡を取りだすアニオタ。

「こ、こ、こ、これは僕がその昔、全財産をはたいて買ったサーマルスコープでござる。人の熱を感知し望遠画像に重ねて見ることができるでござる!! 夜間の監視のみならず昼間でも物陰の熱源を見つけるのに大活躍するでござる!!」
「へぇ~~……で、なんであんたがそんな物持っているの? アニメとは関係ないんじゃないの?」

 ジト目でぬか娘が尋ねると、

「ど、ど、ど、動物観察に使っていたでござる。田舎の夜は鹿や猪が出放題でござるからな、そ、そ、その愛くるしい姿を愛でていたのでござる!! けっして海沿いに止まっている夜のカップル車に照準を当てていたわけではござらぬよ!!」

 キリッ!! 
 男らしく眉毛を太らし、全てを白状するアニオタ。
 まぁ……べつにいいや……と無表情で前を向くぬか娘。
 そうこうしていると、

「むむむむ、は、は、は、発見したかもござらぬ!!」

 サーマルスコープを覗いていたアニオタがさっそく反応した。

「ぜ、ぜ、ぜ、前方1時の方向、距離200メートル、人型、ひいふうみい……10数体くらいでござる!!」
「おう、それはビンゴ。クロードたちだね」

 アクセルをゆるめて徐行する軽トラ。
 肘でハンドルを押さえながらカメラを構えるヨウツベ。
 ぬか娘も腹をくくっていつでも飛び出せるようドアハンドルに手をかけ準備する。
 やはり宣言通り、仕返しにきて〝くれた〟ようだ。

「来るのがわかっていれば対処なんてちょろいからね。さて、今日も良いシーンをいただきますか
「一人が大げさな素振りでポーズを作っているでござる!!」
「クロードだね。呪文を撃つ気だ」

 距離50メールを切ったあたりで車を止める。
 それと同時、思った通りに。
 脇にある山斜面の茂みから一人の賑やかな男クロードが長い金髪をなびかせ飛び出してきた。
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