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第119話 身代わりとビキニアーマー
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その日の正午。
クロードは少し離れた森の中からプレハブ小屋を覗いていた。
手紙に書いたとおりだと、そろそろ降参したアルテマが一人でやってくるはずである。いちおう仲間を連れてきていないか確認するため、草に隠れてようすを見ているのだ。
「いや……その、九郎さん。さすがにあの手紙ではやってこないと思いますが……」
至極真っ当な意見を言うのは、クロードと同じく陰に隠れている偽島誠。
「何を言うか、この栄えある聖王国騎士であるクロード・ハンネマン直々の挑戦状を受け取って、暗黒騎士であるあの女が応えないはずはない。やつはきっとやってくる!! そして俺はクロード、だ!!」
「そ、そういうものなのですか……?」
あれが挑戦状だと……??
首を傾げる偽島だが、ここにきてはもう、細かいことは気にしないでおく。
異世界時代、たしかにクロードは何度もアルテマに挑戦状を送りつけた。
しかしそのことごとくを無視し続けられたことはすでにクロードの記憶の中にはなかった。
彼は己のメンタルを維持するために、常人ならざる自由忘却力を生まれながらに身に着けていた。ショックなこと、都合の悪いことは自分の意志で自由に忘れることができる現代サラリーマン垂涎のスーパースキルである。
なのでアルテマがやってこないなど微塵も考えることなく自信満々で待ち伏せしているのだ。
すでに部下の舎弟(作業員)たちも周囲に潜ませてある。
指示通り、アルテマが一人で現れたら全員で囲って飛びかかってやろうという作戦である。
「……作戦……というか、無勢に多勢でゴリ押ししているだけではないですか?」
アルテマのことを未だに大人だと信じきれていない偽島は、いくら異世界人の魔法使いであろうと子供相手に集団で襲いかかるのはちょっと……な表情だが、
「べつに貴様の手を汚せといっているわけじゃない。やつは俺の獲物だ、貴様はここで俺の勇姿を目に焼き付け、次のボーナスの査定でも考えておけばいい」
ちなみにクロードの身分はバイトである。ボーナスなどない。
そんなことは考えもせずクロードは双眼鏡をかまえると周囲を見回しはじめる。
「……もうじき正午だな、そろそろ現れてもいいはずだが――ん? あれは??」
レンズをプレハブの中に合わせると、そこに小さな黒髪の頭がぴょっこり見えた。
さらによく見ると巫女服らしきものも着ているようだ。
「おっと……なんだやつめ、もうすでに来ていたのか? ……ははぁん、どうやら手紙の内容がよほど恐ろしかったとみえるな。集落を封鎖されては生活どころか食うものにも困ってしまうからな。とうてい敵わぬとみて機嫌取りにでてきたな……情けないやつめ。ふふふははははははは!! よしお前たち作戦開始だ、建屋を囲んで一気に取り押さえろ!!」
「うお~~~~~~~~ぃ」
号令を受けて一斉に飛び出す特攻服姿の舎弟たち。
彼らとクロードは全力でプレハブへ小屋へ突入すると、中にいるアルテマへ一斉に飛びかかった。
――――どたんばたん、痛ててててて!! 誰だ俺のケツ揉んでるやつは!? 俺じゃねえ、お前こそどこ触ってんだ馬鹿野郎!??
ドタバタと、くんつほぐれつ、全員で押さえにかかる。
アルテマは無抵抗で、されるがままにされていた。
そこにクロードが入ってきて、
「ふははははは!! とうとう捕らえたぞ暗黒騎士アルテマよ!! やはり貴様など、俺様の足元にもおよばぬ。さあ、観念してその首を聖王国に捧げるが良い!!」
天に掲げるその手には、ロンギヌスの加護をかけた勇者の剣(通販・6580円)が握られていた。
「おうやってるか――――ってなんじゃあお前、その格好は??」
「やだ、ちょちょちょっと見ないで!! ゲンさん、六段さ~~ん!!」
元一、六段、占いさんが帰ってくると、なぜかビキニアーマーに身を包んだぬか娘が顔を真赤にして校庭の隅にしゃがみ込んでいた。
それをヨウツベは動画に収め、アニオタは網膜に収めて悦に浸っている。
そんな連中をあきれた顔で見る元一は、
「おう……アルテマよ一体何があったんじゃ? なぜあいつは下着姿で剣と盾をもっているんじゃ??」
「え? あぁ……っとその……」
『……申し訳ありません……ちょっと私の説明不足で……』
「おお、ジルさんか、こんにちは。はて、説明不足とは?」
『はい……実はかくかくしかじかでございまして……』
このおかしな事態をジルとアルテマは協力して、三人に伝えた。
「ほお……つまりこの下着のように見える甲冑(?)もふくめて『逆神《ぎゃくしん》の鏡』じゃということか?」
『はい……本体はあくまで盾部分ですが……反射に使う魔法陣の維持のために魔力を溜めておく部位が必要なのです。それがその鎧(?)でありまして』
「で、なんでわざわざこんな恥ずかしいデザインなのよ~~~~!!??」
『それは私にはわかりませんが……おそらくはできるだけ小さく、かつ極力重みを感じないように体に密着させようとその設計になっているのかと……知りませんケド』
「知りませんじゃないよ~~!! なんなのよ~~~~!!」
「で、じゃあこの剣はなんなのじゃ?」
『それは魔素を吸収するトリモチ的な物です。これを振れば振るだけ大気中の魔素を吸収し、甲冑部分に溜まっていくという仕組みです』
「そうだ、逆神《ぎゃくしん》の鏡は盾だけで機能しない。剣と鎧が合わさって初めて対聖魔法装備として完成するのだ!!」
じゃじゃ~~ん。
誇らしげに、痴女と化したぬか娘を三人に見せつけるアルテマ。
その顔には少しだけ罪悪感が混ざっていた。
クロードは少し離れた森の中からプレハブ小屋を覗いていた。
手紙に書いたとおりだと、そろそろ降参したアルテマが一人でやってくるはずである。いちおう仲間を連れてきていないか確認するため、草に隠れてようすを見ているのだ。
「いや……その、九郎さん。さすがにあの手紙ではやってこないと思いますが……」
至極真っ当な意見を言うのは、クロードと同じく陰に隠れている偽島誠。
「何を言うか、この栄えある聖王国騎士であるクロード・ハンネマン直々の挑戦状を受け取って、暗黒騎士であるあの女が応えないはずはない。やつはきっとやってくる!! そして俺はクロード、だ!!」
「そ、そういうものなのですか……?」
あれが挑戦状だと……??
首を傾げる偽島だが、ここにきてはもう、細かいことは気にしないでおく。
異世界時代、たしかにクロードは何度もアルテマに挑戦状を送りつけた。
しかしそのことごとくを無視し続けられたことはすでにクロードの記憶の中にはなかった。
彼は己のメンタルを維持するために、常人ならざる自由忘却力を生まれながらに身に着けていた。ショックなこと、都合の悪いことは自分の意志で自由に忘れることができる現代サラリーマン垂涎のスーパースキルである。
なのでアルテマがやってこないなど微塵も考えることなく自信満々で待ち伏せしているのだ。
すでに部下の舎弟(作業員)たちも周囲に潜ませてある。
指示通り、アルテマが一人で現れたら全員で囲って飛びかかってやろうという作戦である。
「……作戦……というか、無勢に多勢でゴリ押ししているだけではないですか?」
アルテマのことを未だに大人だと信じきれていない偽島は、いくら異世界人の魔法使いであろうと子供相手に集団で襲いかかるのはちょっと……な表情だが、
「べつに貴様の手を汚せといっているわけじゃない。やつは俺の獲物だ、貴様はここで俺の勇姿を目に焼き付け、次のボーナスの査定でも考えておけばいい」
ちなみにクロードの身分はバイトである。ボーナスなどない。
そんなことは考えもせずクロードは双眼鏡をかまえると周囲を見回しはじめる。
「……もうじき正午だな、そろそろ現れてもいいはずだが――ん? あれは??」
レンズをプレハブの中に合わせると、そこに小さな黒髪の頭がぴょっこり見えた。
さらによく見ると巫女服らしきものも着ているようだ。
「おっと……なんだやつめ、もうすでに来ていたのか? ……ははぁん、どうやら手紙の内容がよほど恐ろしかったとみえるな。集落を封鎖されては生活どころか食うものにも困ってしまうからな。とうてい敵わぬとみて機嫌取りにでてきたな……情けないやつめ。ふふふははははははは!! よしお前たち作戦開始だ、建屋を囲んで一気に取り押さえろ!!」
「うお~~~~~~~~ぃ」
号令を受けて一斉に飛び出す特攻服姿の舎弟たち。
彼らとクロードは全力でプレハブへ小屋へ突入すると、中にいるアルテマへ一斉に飛びかかった。
――――どたんばたん、痛ててててて!! 誰だ俺のケツ揉んでるやつは!? 俺じゃねえ、お前こそどこ触ってんだ馬鹿野郎!??
ドタバタと、くんつほぐれつ、全員で押さえにかかる。
アルテマは無抵抗で、されるがままにされていた。
そこにクロードが入ってきて、
「ふははははは!! とうとう捕らえたぞ暗黒騎士アルテマよ!! やはり貴様など、俺様の足元にもおよばぬ。さあ、観念してその首を聖王国に捧げるが良い!!」
天に掲げるその手には、ロンギヌスの加護をかけた勇者の剣(通販・6580円)が握られていた。
「おうやってるか――――ってなんじゃあお前、その格好は??」
「やだ、ちょちょちょっと見ないで!! ゲンさん、六段さ~~ん!!」
元一、六段、占いさんが帰ってくると、なぜかビキニアーマーに身を包んだぬか娘が顔を真赤にして校庭の隅にしゃがみ込んでいた。
それをヨウツベは動画に収め、アニオタは網膜に収めて悦に浸っている。
そんな連中をあきれた顔で見る元一は、
「おう……アルテマよ一体何があったんじゃ? なぜあいつは下着姿で剣と盾をもっているんじゃ??」
「え? あぁ……っとその……」
『……申し訳ありません……ちょっと私の説明不足で……』
「おお、ジルさんか、こんにちは。はて、説明不足とは?」
『はい……実はかくかくしかじかでございまして……』
このおかしな事態をジルとアルテマは協力して、三人に伝えた。
「ほお……つまりこの下着のように見える甲冑(?)もふくめて『逆神《ぎゃくしん》の鏡』じゃということか?」
『はい……本体はあくまで盾部分ですが……反射に使う魔法陣の維持のために魔力を溜めておく部位が必要なのです。それがその鎧(?)でありまして』
「で、なんでわざわざこんな恥ずかしいデザインなのよ~~~~!!??」
『それは私にはわかりませんが……おそらくはできるだけ小さく、かつ極力重みを感じないように体に密着させようとその設計になっているのかと……知りませんケド』
「知りませんじゃないよ~~!! なんなのよ~~~~!!」
「で、じゃあこの剣はなんなのじゃ?」
『それは魔素を吸収するトリモチ的な物です。これを振れば振るだけ大気中の魔素を吸収し、甲冑部分に溜まっていくという仕組みです』
「そうだ、逆神《ぎゃくしん》の鏡は盾だけで機能しない。剣と鎧が合わさって初めて対聖魔法装備として完成するのだ!!」
じゃじゃ~~ん。
誇らしげに、痴女と化したぬか娘を三人に見せつけるアルテマ。
その顔には少しだけ罪悪感が混ざっていた。
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