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第106話 話が違う
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翌朝――――。
ラジオ体操の音楽に重なって、ぐぉぉぉぉぉんとディーゼルエンジンの音が響いてきた。
「……来、た、か、?」
やや眠たそうに『つぎは足を戻して両足飛びね♪』をやりながらアルテマは音のした方に耳をピクつかせる。
六段も気がついて片眉を上げて言った。
「み、たい、だの。や、つら、張り、切って、朝一、から、やる、つ、も、り、だ、な、っと」
『手足の運動~~♪』
「どう、する? 動、くか、?」
「まあ、まて。もうすぐ、終わりだ。体、操を、やり、きって、からに、しよう」
そして清々しく体をほぐすこと数分後。
『のびの~~び深呼吸~~♪』
「す~~~~は~~~~」
「す~~~~は~~~~」
『お疲れ様でした~~♪ 本日は〇〇市✕✕小学校のグランドからお送りいたしました~~~~♪』
「うむ、気持ちよかった」
「そうだな。では行くかアルテマ」
「おう、良い準備運動準になった」
清々しい汗を拭き拭き、アルテマと六段の二人は不敵に笑う。
そしてガチャガチャと作業の音がする裏手の川へと向かうのであった。
「オーライオーライ。……たく、どうやったらこんな頑丈なモンぶっ壊せるんだよ」
クレーン車のフックを誘導しながら現場監督はぼやく。
ゆうべいきなり偽島から連絡があり、工事再開の指示を受けたのだ。
別の現場があったので昨日の一騒動には参加できなかったが、どうやらうまく集落の連中の弱みを握れたようである。
自分にもあの巫女娘の正体や異世界のことなど一通り説明されたが、そういう類の不思議話しにとんと疎い監督は、とにもかくにも工事再開との指示だけ理解すると、今日この朝一からさっそく動き始めたのである。
まずは対岸の集落へと資材を運び入れることから始めなければならない。
そのためには作りかけの橋を完成させなければならないのだが、途中まで通っていた橋は土台からすっかり崩れ落ち、半分以上川に沈んでしまっている。
これも昨日の魔法戦(?)での被害らしいが、いったい何をどうやったら生身の人間にこういう芸当ができるのか、理解できない。
しかし妙な炎を使う子供巫女や、先日の不思議な『動くケーブル』の件もある。
クロードの件も含め信じ難いことばかりだが、とにかく現実の光景を信じるしかない。
「オーケイそのあたりだ、おろせ~~~~!!」
沈んだ橋の先端あたりに誘導し終えると、フックを下げるように合図を送る。
さて、とりあえず吊り上げたらあとは下に土嚢でもかませて仮土台を作ろう。手抜きだが納期まで時間がない。一秒でも早くパネル設置に取り掛からないと。
――――と、思ったところで。
「アモン!!」
どこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「は?」
対岸を見ると、そこには例の子供巫女が。
そして――――ぼんっ!!
背後から強風と熱が吹いてきた。
振り向くと、まるで地下から突き上げられたように吹き上がる黒い炎。
その中で揺れるクレーン車。
「んなっ!??」
「ぐわあああっっちっちい!!!!」
もがき叫びながら飛び出るオペレーター。そのまま川にダイブ。
さらにその後ろには作業員が乗った送迎用ワンボックスと資材を積んだトラックが。
「アモン!! アモン!!」
――――ぼん、ぼごんっ!!
それらもクレーン車と同じく炎に包まれる。
一瞬にして火炎地獄と化した川辺の広場。
現場監督はその光景を唖然と見つめて、
「……もう邪魔は入らないんじゃなかったのかよ?」
と、くわえていたタバコを落っことした。
そこに響き渡るアルテマの勝ち誇った笑い声。
「はーーっはっはっはっはーーーー!! 無駄じゃ無駄じゃ!! 貴様らなど何度来てもこの私が黒焦げに焼いてやる。次はショベルかブルドーザーか? いかに異世界の兵器が優秀だろうが中身はしょせん人間よ。この私が立ち塞がるかぎり貴様らには足の指一本踏み込ませんぞ!!!! アモンっ!!!!」
「げっ!?」
最後に残った監督。その足元から――ゴッとアモンの熱が吹き上がる。
例によって極力怪我はさせないように、しかし苦痛は最大限感じるように絶妙に温度調整した魔法の炎。具体的に言うと70度くらいの熱。
「ぐわったらちゃっちゃ~~~~っ!!」
股間を押さえ飛び上がる現場監督。
ワンボックスから蜂の巣を突いたように飛び出してくる作業員たち。
全員が大騒ぎしながら一斉に川へと飛び込んだ。
「ふあぁぁぁぁぁぁ……。おぉ……やってるやってる」
そんな騒動を、穴だらけの二階教室から覗き見る男がひとり。
とっておきの一眼レフを動画撮影モードで回している彼の名はヨウツベ。
昨日、寝ずに編集に没頭し、終わったのが明け方。
ほんの二時間程度くらいしか寝られなかったので吐き気がするが、しかしアルテマの元気な高笑いを聞くと、そんな苦労も報われた気がする。
遠くから猛スピードでワゴン車が疾走してきた。
偽島組とプリントされたその車は偽島誠が愛用している社用車だろう。
「はいはい、お出ましお出まし。役者が揃いましたよっと」
その登場をズームでバッチリとらえながら、ヨウツベはニヤリと片頬を上げた。
ラジオ体操の音楽に重なって、ぐぉぉぉぉぉんとディーゼルエンジンの音が響いてきた。
「……来、た、か、?」
やや眠たそうに『つぎは足を戻して両足飛びね♪』をやりながらアルテマは音のした方に耳をピクつかせる。
六段も気がついて片眉を上げて言った。
「み、たい、だの。や、つら、張り、切って、朝一、から、やる、つ、も、り、だ、な、っと」
『手足の運動~~♪』
「どう、する? 動、くか、?」
「まあ、まて。もうすぐ、終わりだ。体、操を、やり、きって、からに、しよう」
そして清々しく体をほぐすこと数分後。
『のびの~~び深呼吸~~♪』
「す~~~~は~~~~」
「す~~~~は~~~~」
『お疲れ様でした~~♪ 本日は〇〇市✕✕小学校のグランドからお送りいたしました~~~~♪』
「うむ、気持ちよかった」
「そうだな。では行くかアルテマ」
「おう、良い準備運動準になった」
清々しい汗を拭き拭き、アルテマと六段の二人は不敵に笑う。
そしてガチャガチャと作業の音がする裏手の川へと向かうのであった。
「オーライオーライ。……たく、どうやったらこんな頑丈なモンぶっ壊せるんだよ」
クレーン車のフックを誘導しながら現場監督はぼやく。
ゆうべいきなり偽島から連絡があり、工事再開の指示を受けたのだ。
別の現場があったので昨日の一騒動には参加できなかったが、どうやらうまく集落の連中の弱みを握れたようである。
自分にもあの巫女娘の正体や異世界のことなど一通り説明されたが、そういう類の不思議話しにとんと疎い監督は、とにもかくにも工事再開との指示だけ理解すると、今日この朝一からさっそく動き始めたのである。
まずは対岸の集落へと資材を運び入れることから始めなければならない。
そのためには作りかけの橋を完成させなければならないのだが、途中まで通っていた橋は土台からすっかり崩れ落ち、半分以上川に沈んでしまっている。
これも昨日の魔法戦(?)での被害らしいが、いったい何をどうやったら生身の人間にこういう芸当ができるのか、理解できない。
しかし妙な炎を使う子供巫女や、先日の不思議な『動くケーブル』の件もある。
クロードの件も含め信じ難いことばかりだが、とにかく現実の光景を信じるしかない。
「オーケイそのあたりだ、おろせ~~~~!!」
沈んだ橋の先端あたりに誘導し終えると、フックを下げるように合図を送る。
さて、とりあえず吊り上げたらあとは下に土嚢でもかませて仮土台を作ろう。手抜きだが納期まで時間がない。一秒でも早くパネル設置に取り掛からないと。
――――と、思ったところで。
「アモン!!」
どこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「は?」
対岸を見ると、そこには例の子供巫女が。
そして――――ぼんっ!!
背後から強風と熱が吹いてきた。
振り向くと、まるで地下から突き上げられたように吹き上がる黒い炎。
その中で揺れるクレーン車。
「んなっ!??」
「ぐわあああっっちっちい!!!!」
もがき叫びながら飛び出るオペレーター。そのまま川にダイブ。
さらにその後ろには作業員が乗った送迎用ワンボックスと資材を積んだトラックが。
「アモン!! アモン!!」
――――ぼん、ぼごんっ!!
それらもクレーン車と同じく炎に包まれる。
一瞬にして火炎地獄と化した川辺の広場。
現場監督はその光景を唖然と見つめて、
「……もう邪魔は入らないんじゃなかったのかよ?」
と、くわえていたタバコを落っことした。
そこに響き渡るアルテマの勝ち誇った笑い声。
「はーーっはっはっはっはーーーー!! 無駄じゃ無駄じゃ!! 貴様らなど何度来てもこの私が黒焦げに焼いてやる。次はショベルかブルドーザーか? いかに異世界の兵器が優秀だろうが中身はしょせん人間よ。この私が立ち塞がるかぎり貴様らには足の指一本踏み込ませんぞ!!!! アモンっ!!!!」
「げっ!?」
最後に残った監督。その足元から――ゴッとアモンの熱が吹き上がる。
例によって極力怪我はさせないように、しかし苦痛は最大限感じるように絶妙に温度調整した魔法の炎。具体的に言うと70度くらいの熱。
「ぐわったらちゃっちゃ~~~~っ!!」
股間を押さえ飛び上がる現場監督。
ワンボックスから蜂の巣を突いたように飛び出してくる作業員たち。
全員が大騒ぎしながら一斉に川へと飛び込んだ。
「ふあぁぁぁぁぁぁ……。おぉ……やってるやってる」
そんな騒動を、穴だらけの二階教室から覗き見る男がひとり。
とっておきの一眼レフを動画撮影モードで回している彼の名はヨウツベ。
昨日、寝ずに編集に没頭し、終わったのが明け方。
ほんの二時間程度くらいしか寝られなかったので吐き気がするが、しかしアルテマの元気な高笑いを聞くと、そんな苦労も報われた気がする。
遠くから猛スピードでワゴン車が疾走してきた。
偽島組とプリントされたその車は偽島誠が愛用している社用車だろう。
「はいはい、お出ましお出まし。役者が揃いましたよっと」
その登場をズームでバッチリとらえながら、ヨウツベはニヤリと片頬を上げた。
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