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第102話 川沿いの攻防④

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 が、
 そのセリフを言い終わった直後、高笑いの最中。

「馬鹿が、燃えろ!! ――――アモンッ!!」

 アルテマが怒りの呪文を唱る!!
 ――――んぼっ!!!!
 瞬間、黒い炎がクロードの足元に出現した。

「ん? あ、あっちぃっ!?? あちあちあちあっちいっ!???」

 調子に乗って油断していたクロードは全身を焼かれ、転がりまわる。
 その隙にアルテマは竹刀を抜き、魔法の加護をかけ、クロードの元へと途切れた橋を飛び越え走っていく。

「ぐあぁぁぁぁ、あっつ……あっつ……く、くそう……!??」

 何とか炎から逃れ、服に燃え移った火を叩き消したクロードは迫りくるアルテマに気づき、

「馬鹿め、そんな小さな身体でこの俺に剣技を挑むとは!! いいだろうその一騎打ち受けてやろうではないか!!」

 勇み笑うと、焦げて巻いてしまった髪の毛もそのままに、プレハブの屋上から飛び降りアルテマを迎え撃つ。
 そして立て掛けてあった熊手を手に取ると、

「聖なる加護よ、その御魂を我に――――ロンギヌス!!」
 声高に聖魔法を唱えた。

 するとその柄に白くまばゆい聖光が宿った。
 アルテマの付与魔法『レリクス』に対をなす聖魔法『ロンギヌス』。
 その加護を受けた武器はいかなる鈍《なまく》らであろうとも、鉄を穿ち、龍の鱗を切り裂き、悪魔の闇をも消し去る聖剣へと昇華する。

 聖王国でも使えるものは屈指とされるクロードの奥義である。

 ――――ダダ、ダッダッダッ!!

 橋の鉄板を蹴り、ジグザクに蛇行しながらアルテマが突っ込んでくる。
 手には赤黒く光るレリクスの竹刀。

 クロードが体勢を低くして迎え撃つ。
 手にはロンギヌスの熊手。

「聖騎士クロードーーーーーーーーっ!!」
「暗黒騎士アルテマーーーーーーーーっ!!」

 次元の壁を超えた二人の魔法剣士の戦いがいま、この日本の片田舎で繰り広げられようとしていた。

 そして勝負は、

 ――――ざしゅん!!
 一瞬でついた。

「――――くっ……!?」

 くるくるくるくる――――ザンッ!!

 交錯する二人の剣士。
 切断された切っ先が宙を舞い、地面に突き刺さった。
 残った加護の光はすぐに弱まり、その赤黒い色が消えていく。
 折られたのは――――アルテマの竹刀だった。

「な、なに、まさか……!?」

 短くなった竹刀を見つめて、信じられないと目を見開くアルテマ。
 クロードは振り返り、演技がかった大げさな動きで熊手を回す。

「……久しく会わぬうちに腕が落ちたようだなアルテマ。それとも歳でモウロクでもしたか……くっくくく……」

 勝ち誇ったように笑った。
 そして改めて熊手を構え直すと、それを勝利の神剣に見立てて天に掲げる。

「我が祖国ファスナの王よ、我が祖国ファスナの民よ。我、聖騎士クロードは今日この日、永きにわたる宿敵との争いに終止符を打ち、ここに勝利の剣を捧げよう。憎き帝国アルテマの首を抱え15年にもわたる旅を終え、再び祖国へと舞い戻らんぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!????」
「敵から目をそらして何を勝ち誇っている。世界を超えても、その間抜けさと独りよがりの先走りは相変わらずか、この馬鹿が!! そして誰がモウロクしとるんじゃ無礼者め!!」

 長々と自分の世界に酔いしれる阿呆。
 そんな間抜けにアモンの炎をぶちかまし憤慨するアルテマ。

 レリクスが破られたのはショックだったが、それはこの幼女体での話。
 かつての大人な自分ならば、こんな青二才に魔力で劣ることなど決してない。
 それをちょっと押したからといって調子にのりおって!!

「ぬぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあっちい、あっちい!!」

 またも転がり回り、必死に炎を消すクロード。
 殺虫剤をかけられたGのように地面を這いずり、プレハブ小屋の野外洗面所にかぶりつく。
 そして頭から水をかぶった。

 しゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。

「……く……お、おのれおのれ……一度ならず二度までも……」

 びちょびちょと雫を滴らせ怒りに震えるクロード。
 クルクルに巻いた髪を掻き上げると聖剣(熊手)を構え直す。
 アルテマは接近戦は不利と理解し、さらに距離をとった。

「はん、臆したかアルテマ!! ならば魔法でケリをつけてやろう!!」

 叫ぶとクロードは片手にラグエル、片手にザキエルの渦を浮かべた。
 そして水しぶきを散らしながら「くらえ」の気合とともにザキエルを先に放つ。

 ――――ごっ!! ぶぅわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

 アルテマの足元を中心に竜巻の渦が現れた。
 しかしその呪文を熟知していたアルテマは、巻き込まれる前にその中心から転がり逃れる。
 そしてカウンターばりにアモンを放とうとするが、

 ――――ぐ、ざざっ!!
 足が何か強い力で引っ張られたかのように滑った。

「――っ!?」

 同時に体も引かれ、体勢を崩される。
 これは――風の力か!?
 躱したつもりだったが、しかし六段の体を浮かすほどの竜巻。
 多少離れたとて、アルテマの小さく軽い体はその暴風から逃れられなかった。
 クロードの高笑いが響く。

「はーーーーはっはっは、今度こそもらったぞアルテマ!! 豪風に飲み込まれ身動きが取れなくなったところをラグエルで丸裸にしてやろう!! そして無防備になった貴様を――――むぐぉぉぉっ!??」

 笑うクロードの足元に、
 ――――どすっ!!
 と、黒い魔法の矢が一本突き刺さった。

「なが!? あ!??」

 突然の不意打ちに、驚き慌てて振り返るクロード。
 そこには。

 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご。

 マジギレして洒落にならないほど怒りのオーラを燃やした元一が、堕天の弓を構えてこちらを狙っていた。
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