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第74話 アニオタの乱⑥
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――――ビシッ!!!!
きれいに放たれた矢が、アニオタの足元に突き刺さった。
それに足を引っ掛け、前のめりに倒れ込む。
よし、狙い通り!!
すぐさま弓を背中にしまい、かわりに狩猟網を引っ張り出す。
ゴロゴロと地面に転がるアニオタに向かって、
「観念せい、これで終わりじゃ痴れ者よ!!」
叫び、枝の上から飛び掛かっていく元一。
――――バッ!!
と、広がった網がアニオタにかぶさった。
「む!? こ、こ、これはギャルの網タイツ!??」
頑丈な網を被せられ、動きが封じられるアニオタ。
絡みを解こうともがくが、しかし暴れれば暴れるほど網は絡まり、ますます拘束を強めていく。
「ふん、他愛もない」
歳を感じさせない軽い身のこなしで地面に着地した元一は、そのまま素早く網の端を束ねると、アニオタの動きを完全に止めてしまった。
「むおっ!?? は、離すでござる!! な、な、何者の仕業か知らぬが、こんなことをしても拙者の嫁は誰にも渡さないでござる!! ぐるるるるるるるっ!!!!」
網の中でパンツを抱きしめながら唸り、牙をむき出しにするアニオタ。
「だれがそんなモノ欲しがるが!! と、いうか貴様、ワシがわからんのか!?」
「ぐるるるるるるる……」
だがアニオタは返事を返さず唸るばかり。
言葉が届いていないようである。
なるほど……。
占いさんの忠告どおり、これはたしかに妖魔の類に犯されているのかも知れんな。
少なくともワシがわからんほどには正気を失っている。
そう元一は思ったが、ただ普段の言動が言動だけに、その確証がいまいち薄い。
血走った目と、いつものアニオタではありえない運動能力を考えれば異常と言えなくもないが……だがこの男。萌が絡んだら素でもこのくらいやりそうだ。
などと扱いに困っている所に、
「元一、でかしたぞっ!!」
泥だらけ小枝だらけになったアルテマが茂みから飛び出してきた。
「おお、アルテマ来たか。無事だったか」
「六段がダメージ(精神的に)を負ったみたいだが、たぶん平気だろう。それよりもそやつに除霊の魔法をかける、下がっていてくれ!!」
「お、おうわかった」
転がり出るなり魔法の構えをとるアルテマ。
元一がその場から離れると同時に、
「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――呪縛《スパウス》!!」
アルテマの両手から紫の波動が放たれた。
――――ドンッ!! ……ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴ。
「うっ、な、何をするでござる!! こ、こ、これは!? ……ううがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!??」
その波動が、網に絡まっているアニオタに命中すると彼の身体は激しい振動とともに宙に浮き上がった。そして苦しそうな悶絶とともに彼の全身から白いモヤのようなものが生まれる。
それは彼の頭の上で一つにまとまり始めると、やがて一体の霊の形を作り出した。
「……な、なんだこの……女は……??」
現れたその霊は、純白の着物をみだらにはだけ、長い黒髪をあやしく咥えた和服美人。それを見た元一はその妖艶な怪しさに、思わず一歩たじろいてしまう。
『毛倡妓《けじょうろう》。日本の妖怪。ちょっとエッチな低級悪魔だよ』
続けて唱えた婬眼《フェアリーズ》によって明かされたその女霊の正体は、この世界、この国に古くから巣食う俗妖怪。
「やはり憑いておったか低級悪魔め!!」
さらに続けてアルテマは、腰に挿す竹刀に魔呪浸刀《レリクス》の加護をかける。
赤黒く光るその竹刀を抜き放つと、
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
上段に振りかぶり、毛倡妓《けじょうろう》に斬りかかっていった!!
『――――っ!!??』
敵を迎え撃つべく、一応は身構えた毛倡妓《けじょうろう》だが、
――――ザザッシュッ!!!!
高位魔法の加護の前に、為す術もなく袈裟斬りにされる!!
『ふあぁぁっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~……!!』
――ザッシュ!! ザッザッシュ!! ザザザンッジュッ!!
アルテマの怒涛の攻撃ラッシュ。
言葉にならない叫びとともに夜空に溶け消えていく毛倡妓《けじょうろう》。
元一はその圧倒的光景を茫然と見ていた。
「よし、仕留めたぞ……。まったく、手間をかせさせてくれるわ」
なおも光り続ける竹刀を下げ、息を吐くアルテマ。
地面に触れた剣先が、ジジジと土を焦がし分解していく。
「な、なんたる……」
圧倒的な強さだと、元一はアルテマの小さな背中を眺めてそう思った。
アミュレットのおかげで充分な魔素を蓄積できるようになったアルテマは、日を重ねるごとに強くなっている。
いや、元の強さに戻っているのか?
しかしいまだ幼子の身。
これで元の大人に姿に戻ったとしたらいったいどれほどの猛者になるのだろうと想像し、元一は冷や汗を流すと同時に寂しくも思った。
「さて、これで正気を取り戻したはずだが……。アニオタよ、私がわかるか?」
網に巻かれて芋虫のように横たわっているアニオタを見下ろし、問う。
「う……あぁぁぁ?? ……あ、あれ……アルテマさん……? こ、ここは……? ぼ、ぼぼぼ、僕は一体何を……???」
「うむ、目を覚ましたか」
唖然とまわりを見渡し、正気を取り戻すアニオタ。
やれやれ、これで一件落着だなと肩を下げるアルテマだが、
「あ……あ……ああぁ……アニメ……アニメが観れないでござる……ホトリちゃんにミコトちゃん……アスナちゃんソニア……小咲、桜……あ……ああぁぁぁ!!!!」
辛い現実を思い出したか、またすぐにおかしくなる。
「ぬっ……お、おい……ちょっと待て。そっちの件は後でまたなんとか……」
そして走る悪寒。
見上げると、彼の頭上にはさっきの毛倡妓《けじょうろう》とはまた別の悪魔たちが現れ、舞を舞っていた。
『けけけけけ、空いた空いた、体が空いたぞ~~では次は私の番じゃ~~♪』
順番が回ってきたと嬉しそうにアニオタを見下ろす。
そしてなにやら相談すると、悔しがる仲間の悪魔を尻目に、一体が彼の体内にするりと入り込んだ。
と――――、
「ご……おがあわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
――――びりびりびりびりっ!!
意識は再び乗っ取られ、凶暴化する。
そして頑強な網を蜘蛛の巣のごとく簡単に引きちぎり、拘束から抜け出した。
きれいに放たれた矢が、アニオタの足元に突き刺さった。
それに足を引っ掛け、前のめりに倒れ込む。
よし、狙い通り!!
すぐさま弓を背中にしまい、かわりに狩猟網を引っ張り出す。
ゴロゴロと地面に転がるアニオタに向かって、
「観念せい、これで終わりじゃ痴れ者よ!!」
叫び、枝の上から飛び掛かっていく元一。
――――バッ!!
と、広がった網がアニオタにかぶさった。
「む!? こ、こ、これはギャルの網タイツ!??」
頑丈な網を被せられ、動きが封じられるアニオタ。
絡みを解こうともがくが、しかし暴れれば暴れるほど網は絡まり、ますます拘束を強めていく。
「ふん、他愛もない」
歳を感じさせない軽い身のこなしで地面に着地した元一は、そのまま素早く網の端を束ねると、アニオタの動きを完全に止めてしまった。
「むおっ!?? は、離すでござる!! な、な、何者の仕業か知らぬが、こんなことをしても拙者の嫁は誰にも渡さないでござる!! ぐるるるるるるるっ!!!!」
網の中でパンツを抱きしめながら唸り、牙をむき出しにするアニオタ。
「だれがそんなモノ欲しがるが!! と、いうか貴様、ワシがわからんのか!?」
「ぐるるるるるるる……」
だがアニオタは返事を返さず唸るばかり。
言葉が届いていないようである。
なるほど……。
占いさんの忠告どおり、これはたしかに妖魔の類に犯されているのかも知れんな。
少なくともワシがわからんほどには正気を失っている。
そう元一は思ったが、ただ普段の言動が言動だけに、その確証がいまいち薄い。
血走った目と、いつものアニオタではありえない運動能力を考えれば異常と言えなくもないが……だがこの男。萌が絡んだら素でもこのくらいやりそうだ。
などと扱いに困っている所に、
「元一、でかしたぞっ!!」
泥だらけ小枝だらけになったアルテマが茂みから飛び出してきた。
「おお、アルテマ来たか。無事だったか」
「六段がダメージ(精神的に)を負ったみたいだが、たぶん平気だろう。それよりもそやつに除霊の魔法をかける、下がっていてくれ!!」
「お、おうわかった」
転がり出るなり魔法の構えをとるアルテマ。
元一がその場から離れると同時に、
「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――呪縛《スパウス》!!」
アルテマの両手から紫の波動が放たれた。
――――ドンッ!! ……ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴ。
「うっ、な、何をするでござる!! こ、こ、これは!? ……ううがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!??」
その波動が、網に絡まっているアニオタに命中すると彼の身体は激しい振動とともに宙に浮き上がった。そして苦しそうな悶絶とともに彼の全身から白いモヤのようなものが生まれる。
それは彼の頭の上で一つにまとまり始めると、やがて一体の霊の形を作り出した。
「……な、なんだこの……女は……??」
現れたその霊は、純白の着物をみだらにはだけ、長い黒髪をあやしく咥えた和服美人。それを見た元一はその妖艶な怪しさに、思わず一歩たじろいてしまう。
『毛倡妓《けじょうろう》。日本の妖怪。ちょっとエッチな低級悪魔だよ』
続けて唱えた婬眼《フェアリーズ》によって明かされたその女霊の正体は、この世界、この国に古くから巣食う俗妖怪。
「やはり憑いておったか低級悪魔め!!」
さらに続けてアルテマは、腰に挿す竹刀に魔呪浸刀《レリクス》の加護をかける。
赤黒く光るその竹刀を抜き放つと、
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
上段に振りかぶり、毛倡妓《けじょうろう》に斬りかかっていった!!
『――――っ!!??』
敵を迎え撃つべく、一応は身構えた毛倡妓《けじょうろう》だが、
――――ザザッシュッ!!!!
高位魔法の加護の前に、為す術もなく袈裟斬りにされる!!
『ふあぁぁっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~……!!』
――ザッシュ!! ザッザッシュ!! ザザザンッジュッ!!
アルテマの怒涛の攻撃ラッシュ。
言葉にならない叫びとともに夜空に溶け消えていく毛倡妓《けじょうろう》。
元一はその圧倒的光景を茫然と見ていた。
「よし、仕留めたぞ……。まったく、手間をかせさせてくれるわ」
なおも光り続ける竹刀を下げ、息を吐くアルテマ。
地面に触れた剣先が、ジジジと土を焦がし分解していく。
「な、なんたる……」
圧倒的な強さだと、元一はアルテマの小さな背中を眺めてそう思った。
アミュレットのおかげで充分な魔素を蓄積できるようになったアルテマは、日を重ねるごとに強くなっている。
いや、元の強さに戻っているのか?
しかしいまだ幼子の身。
これで元の大人に姿に戻ったとしたらいったいどれほどの猛者になるのだろうと想像し、元一は冷や汗を流すと同時に寂しくも思った。
「さて、これで正気を取り戻したはずだが……。アニオタよ、私がわかるか?」
網に巻かれて芋虫のように横たわっているアニオタを見下ろし、問う。
「う……あぁぁぁ?? ……あ、あれ……アルテマさん……? こ、ここは……? ぼ、ぼぼぼ、僕は一体何を……???」
「うむ、目を覚ましたか」
唖然とまわりを見渡し、正気を取り戻すアニオタ。
やれやれ、これで一件落着だなと肩を下げるアルテマだが、
「あ……あ……ああぁ……アニメ……アニメが観れないでござる……ホトリちゃんにミコトちゃん……アスナちゃんソニア……小咲、桜……あ……ああぁぁぁ!!!!」
辛い現実を思い出したか、またすぐにおかしくなる。
「ぬっ……お、おい……ちょっと待て。そっちの件は後でまたなんとか……」
そして走る悪寒。
見上げると、彼の頭上にはさっきの毛倡妓《けじょうろう》とはまた別の悪魔たちが現れ、舞を舞っていた。
『けけけけけ、空いた空いた、体が空いたぞ~~では次は私の番じゃ~~♪』
順番が回ってきたと嬉しそうにアニオタを見下ろす。
そしてなにやら相談すると、悔しがる仲間の悪魔を尻目に、一体が彼の体内にするりと入り込んだ。
と――――、
「ご……おがあわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
――――びりびりびりびりっ!!
意識は再び乗っ取られ、凶暴化する。
そして頑強な網を蜘蛛の巣のごとく簡単に引きちぎり、拘束から抜け出した。
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