暗黒騎士様の町おこし ~魔族娘の異世界交易~

盛り塩

文字の大きさ
上 下
71 / 299

第70話 アニオタの乱②

しおりを挟む
「あ……あんな物で……まさかあの馬鹿アニオタをおびき寄せるつもりじゃないだろうな……?」

 呆れきった六段が、苦い表情で聞いてくる。
 ぬか娘はリールをゆっくりと巻き、ときおり竿をピクつかせ絶妙な振動をパンツに与えつつ、

「その通りで~~す。アニメの女の子しか興味ないアニオタにとって、この異世界おパンツは夢の2・5次元パンツだからね、きっと釣れると思うの」
「いや……そんなことせんでも二、三発どついて正気に戻せばいいだろうが」

 腕をまくりながらゲンコツを握りしめる六段だが、そんな爺にチッチッチと舌を鳴らすぬか娘。

「甘いよ六段さん。あの状態になったアニオタに不用意に近づくと……二次元美少女に勘違いされて思いっきり抱きつかれたあげく顔中舐め回されて吸い付かれるんだから。……それでもいいって言うんなら止めないけど?」
「……いや、遠慮しとく」

 その光景を想像して吐きそうになる六段。

 実は昨日の晩、暴走を止めようと不用意に近づいてしまったぬか娘はその餌食になっていた。
 唇だけは死守し膝蹴りと肘鉄を駆使して何とか脱出したが、モジョが餌食になるといけないと、階段にバリケードを設置し自分は体育倉庫で一晩を明かしたとのこと。

 六段の影に隠れつつ、同じく廊下の様子を見ているアルテマ。
 さっき見たヨウツベの顔に出来たキスマーク……あれはそういう意味だったのかと顔を見合わせ血の気を引かせる。
 再び廊下の闇に消えていったヨウツベの背中に成仏せよと念を送る。

「……で、釣ってその後はどうするのだ?」
「パンツの尊さで目を覚ましてくれたらそれで良しだけど、ダメならそのまま引っ張って、あそこに作っておいた落とし穴に落っことすわ」

 言って校庭の真ん中を指差すぬか娘。
 よく見てみるとその辺りに不自然に枯れ草を集めた箇所が……。
 ちゃっかりあんな物まで準備しているとは……昨日はよほど怖い目にあったのだなと二人は彼女に同情の視線を向けた。

「しかし穴に落としたところで……」
「お腹が減って動けなくなるまで待って、それから水をかけるなり、棒で突くなりしてどうにかこうにか正気に戻すといいと思うの。とにかくいまはアニオタの動きを止めることが先決だと思う」
「……まるで猛獣でも狩るみたいだな……」

 アルテマが苦笑いすると、

「うぐるるるるるるる……」

 その猛獣の唸りが廊下の奥から聞こえてきた。

「ぬ……現れたぞ」

 緊張した面持ちでそれを出迎える六段。
 闇から四つん這いで現れたアニオタは、さっきまでの奇声は上げておらず代わりにに野太い唸り声を上げている。その口からはヨダレがボタボタと滴り、目は真っ赤に血走っていた。
 彼は唸りながらゆっくりとこちらに這いずって来ると、

 ――――くんかくんか……くんかくんか。

 鼻をせわしなく動かし、何かを探しているようだった。
 何かとは、言うに及ばず。

「よ~~しよしよし……よ~~しよしよしこいこいこいこい!!」

 ぬか娘は小刻みに竿を震わすと、異世界渡来の美少女パンツをまるで生きているかのように挑発的に操りだした。

「うぐるるるるる……ん……?」

 動きが増したパンツから、そのかぐわしい香りが溢れ出し、そよそよとアニオタの鼻孔を刺激する。
 途端に彼の意識が少しだけ戻ってきた。

「ぐぅぅぅぅぅんが……ん……ん!? んん?? こ、こ、こ、ここここのかほりは……!? ま、ま、ま、まさか……!???」

 香りがそよぐその方向へカッと視線を向けてみると、そこには宙をひょこひょこと、おいでおいでをするように踊る一枚のおぱんてい。
 それを見たアニオタは、

「猫耳美少女の脱ぎたてパンツーーーーーーーーっ!!??」

 瞬時にそれを見極めると、閃光のごとく速さで飛びついてきた!!

「かかったっ!!」

 食いつくと同時に竿を思いっきり引っ張り上げるぬか娘。
 いや、やっぱり釣り上げる意味はあるのかと、アルテマは思ってしまったが、その場のノリと言うものもある。
 ともかく、これで正気を戻してくれればいいが……?

「ぬお~~~~ぃ!! こ、これは……どこかで熟成されたでござるか!? 甘酸っぱくもしょっぱい香りがより濃く濃厚に、しかし決してクドくなく鼻通りマイルドに仕上がって絶品なおぱんていになっておるでござる!!」

 捕まえた異世界パンツを抱きしめ頬ずり、くんかくんかしまくるアニオタ。

「アニオタ、正気に戻ったのね!? よかった!! お願い、私たちの話を聞いて!!」

 竿を引っ張り続けながら会話を試みるぬか娘。

 ――――正気とは????

 とてもそうには思えない台詞を聞いたばかりのアルテマだが、しかしそれがアニオタの平常運転なのだとしたらパンツ効果はあったということだろう。

 し、しかし……なんなんだこの馬鹿馬鹿しい展開は……? 
 深く呆れながら額を抑えるアルテマ。

 まあ、なんでもいいや。
 とにかく早く薬を手配出来さえすれば……と割り切り、しばしの悶絶の後、頑張って気を取り直した。
 しかし、正気に戻ったかと思われたアニオタだが、

「むおーーーーーーーーーーっ!! 引っ張るなでござる!! こ、こ、こ、このおぱんていは誰にも渡さんでござる!! ぼ、ぼ、ぼ、僕のお嫁はもう僕のモノでござる!! 異世界ダイブ、ビバ猫耳美少女でござるーーーーーーーーっ!!」

 絶叫すると、針に結ばれた極太釣り糸を噛みちぎる。
 そして嫁指定パンツを頭にかぶると、

「どり~~む、おんざ、どり~~む。僕はいま世界最強の存在へと昇華し申した!! 今宵さらなる同化を求め、妾は旅立つ!! ではおさらばでござる!! 神秘の香りと酒池肉林の宴~~~~♪」

 謎の言葉を残し。
 ――――ガシャンッ!!

 と、廊下の窓を突き破って外へ出てしまう。

 どすどすどすどす。
 そしてそのまま肥満体の肉を揺らしてどこかへ消えてしまった。

 しばし呆然とそれを見送る三人。
 やがてアルテマがハッと目を覚まし、

「ば、馬鹿者!! 早く追いかけるぞ!!」

 二人の尻を引っ叩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...