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第63話 偽島組⑤

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「な、なんじゃなんじゃ、どうしたというのじゃ!???」

 ただならぬ爆発音に、元一は家を飛び出し表に出た。
 アルテマもそれに続く。
 見ると、蹄沢《ここ》と隣の集落をつなぐ唯一の道路、木々に囲まれたその奥からモクモクと土煙が上がっていた。

「な……なにが起こったんじゃ!?」

 充分に注意し、元一は道路を奥へと進んで行く。
 アルテマはこの先には行かないようにと申し付けられていたので、律儀にそれを守り集落との境界線を越えようとはしない。
 しかしそこからでも何が起こったのか見ることはできた。

「ぬぅ……」

 元一が低くうなる。
 山と崖に挟まれた細いその道は、先の方で途切れ、通れなくなっていた。

「……土砂崩れ……か?」

 途切れた道路は長さにして10メートルほど。
 ずれ落ち、崖に流れていた。

「なんじゃ……雨も降っとりゃせんのに……いきなり土砂崩れとは……?」

 崩れ落ちた土砂は乾燥していた。
 地震でも起こらなければ崩れることなどないはずなのに……。
 そう首を傾げる元一の鼻に、火薬の匂いがツンとした。

「これは……発破《はっぱ》か?」

 崩れた道路跡を観察すると、自然に崩れたにしてはどうにも不自然なところが多々見える。
 変に切れ込みを入れられたアスファルトや、飛び散った破片など。
 これは……どうにも誰かが意図的に起こした災害に見える。

「……誰が一体こんな事を……」

 元一が呆然とつぶやいたとき、
 ガァンガァンガァン――――……と遠くの方で何やら鉄骨を叩く音が聞こえた。
 それはぬか娘たちの住む『鉄の結束荘』の方向から聞こえてきた。




 鉄の結束荘。
 そう名付けられた旧小学校の校舎裏は、小さな林を挟んで川が流れている。
 蹄沢をぐるりと回るように流れるその川は西山川と言う。
 川幅はわりと広いが普段はそれほどの水量はなく、幅の半分ほどが砂利で出来た河川敷になっていた。
 そこにドカリと、長く巨大な鉄骨の支柱が渡され、それに乗っかるように分厚い鉄板が敷かれていた。

 川を横断するそれは工事車両用に作られた簡易的な鉄橋だった。

 ガァンガァンガァンと、鉄板を繋げる工事の音が鳴り響く。
 鉄板は、もうほとんど川を渡りきる所まで張り進められていた。
 その光景を見ながら、ぬか娘はじめ鉄の結束団のメンバーは呆然と川辺に立ちすくんでいた。

「ちょ……なんなの? 一体なんの工事これ?」

 土のうを積まれ、部分的にせき止められる西山川を見ながら、ぬか娘があんぐりと口を開ける。

「……なにもクソも……橋だろ。……奴らなんでこんな所に勝手に橋など渡しているんだ」

 偽島組とプリントされたショベルカーのアームを睨み、つぶやくモジョ。
 安眠を邪魔されて苛ついているようす。
 と、橋の途中に昨日の現場監督が立っているのが見える。

「あい、あんた!! これはどういうことですか!? どうしてこんな所に勝手に橋なんか作っているんですか!?」

 ヨウツベが監督に向かって叫んだ。
 すると監督は面倒くさそうにこっちを視線を向けると、

「ここしか通れる道がなくなったんだからしょうがねぇだろ。……許可ならここの村長に貰ってるよ、詳しく知りたいんならそっちで聞いてくれ」

 相手している暇はねぇんだと、くわえていたタバコを川に投げ捨てた。

「な!? 道がないって……どういうことです!??」

 言っている意味が解らなくて困惑するヨウツベに、

「奴ら……蹄沢《ここ》の玄関口を爆破しよったわ」

 そう答えたのは元一だった。

「ゲンさん!?」

 みんながその声に振り返る。
 そこには静かな怒りを蓄え込んだ元一と、同じく怒りのオーラをにじませた巫女姿のアルテマが立っていた。

「ば、ば、ば、爆破されたって、どどど、どういうことなんだな??」

 汗を撒き散らしながらアニオタが狼狽える。
 そんな彼にアルテマは、

「そのままの意味だ。村内に繋がる唯一の道は爆裂系魔法で一部崩され、とても人が通れる状態じゃなくなった」
 と説明し、
「いや、魔法じゃない火薬だ」
 と元一が修正する。

「火薬!? じゃあさっきの爆発音って……。え? どうしてそんなことするの!??」

 意味がわからないと、ぬか娘は偽島組の連中をにらむが、

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ? そっちの道がどうかしたって? そんなもん俺たちとは関係ねぇよ」

 現場監督はすっとぼけてきた。

「ふざけないでもらおう。あんな爆発なんぞ、だたの素人が起こせるわけがないじゃろう。……貴様ら……ワシらを閉じ込めておいて兵糧攻めにでもするつもりか?」

 あそこの道を壊されてしまっては、この集落に出入りするのがかなり不便になる。
 山を越えてぐるりと回り込むか、それとも川を渡るかの二択だが、山は急で道が細い上に熊が頻繁に出没する。川は流れこそ穏やかだが、深く、荷物などを持ってはとても渡れない。安全に生活するためにはどちらも使えないルートである。

「だからぁ、知らねえって言ってんだろ? 俺たちもあそこが通れなくなって困ってるんだ、だから急いで橋を作ってるんじゃねぇか」

 白々しく肩をすくめてみせる現場監督。
 しかしその顔はあきらかに笑っていて『自分たちがやりました』と自白しているようなものだ。
 ぬか娘は、

「だったら橋が出来たら私たちもそこを通らせてもらおうよ」

 と、ムクレて提案するが、

「おいおい、そりゃねえって。これは俺たちが工事用に作っている専用橋だ、お前たちを通すつもりはねぇよ」

 当然そう断ってくる。

「なんでよ!! 困ってるんだから使わせてくれたっていいじゃないケチ!!」
「なんだと、この三つ編み田舎味噌娘」
「誰が田舎味噌よ!! 私はぬか娘よ!!」
「変わらんだろうが馬鹿かお前!?」
 
 川をはさんでにらみ合う現場監督とぬか娘。
 モジョらも加勢にと並んで睨みつけてやるが、その視線の奥に近づいてくる一人のスーツ姿を見つけた。
 それは偽島と名乗った昨日の営業マンだった。

「あ……昨日の七三眼鏡……」
「やあどうも、昨日はお世話様でしたね。ところで、この橋を利用したいと言いましたか? ……でしたら」

 鉄橋の端まで歩みを進めると、彼は勝ち誇ったように嫌味な薄笑いを浮かべる。

「通行料をいただきましょうかねぇ――――……。一人片道1万円ほど」

 くくくくく……と嫌らしく笑った。
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