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第61話 偽島組③
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突如の炎に包まれた校庭の資材置き場。
その騒動に気づいた偽島が、血相を変えて走り戻ってきた。
燃え盛る騒動の前で小躍りしているアルテマらを睨みつけると、
「な……なんだ!? 何が起こったこれは!??? ……貴様ら一体何をしたんだ!??」
青筋を立てて怒鳴り散らしてきた。
「……知らんな。貴様らがあまりに慇懃無礼《いんぎんぶれい》だから村神の逆鱗にでも触れたのではないか?」
アルテマは得意満面、笑顔をわざとらしく見せつけ、しかし何も知らないぞとばかりにすっとぼけてやる。
「な!? む……村神だとぉ……ふざけるなっ!!」
ツバを飛ばしてさらにイキリ立つ偽島だが、こうしているうちにも炎はどんどん大きくなってくる。
このままではせっかく準備した資材が台無しになってしまう。
「くそ、警察……いや消防車を!!」
「……ふん。これしきの事でもう救援要請か? こちらの世界の蛮族も大したことはないな」
携帯を取り出し、どこかへ連絡しようとする偽島。
その小者っぷりにアルテマは侮蔑の半笑いを浮かべると、パチンっと指を鳴らして見せる。
――――シュゥオッ!!
すると今まで勢いよく燃え盛っていた黒い炎が、風に流される霧のように一瞬にして宙に溶け、掻き消えていった。
作業員たちの体にまとわり付いていた炎も消え、ヘナヘナとみな地面に座り込む。
それぞれに火傷は負っているが、命に触るほどではなさそうだ。
そのアルテマの振る舞いを一部始終見ていた偽島。
一連の騒ぎはこの巫女が起こしたのだと確信する。
これは……妖術? 魔法? いや、まさかそんな馬鹿な話しが……しかし今この巫女が炎を操る姿を確かに見た。
これは……一体どういうことだ……?
「ぎ……偽島さん」
現場監督が呼んでいる。
彼は火傷を負ったクレーン運転手をかかえて青ざめていた。
「こいつ、早く病院に連れてかねぇと……火傷が酷え」
「どこだ!? どこが負傷した、顔か!? 腕か!? 全身か!?」
「いや、顔も体も大丈夫ですが……ケツが燃えて真っ赤に張れてます……」
見ると、作業ズボンのお尻だけが丸く燃えてそこから顔を出した肌が赤く腫れ上がりおサルのようになっていた。
トラック運転手の方は髪の毛だけがキレイに燃えてつるっパゲに。
他の作業員たちは服を脱ぎ捨てたおかげで無事だったが、そろって縦縞パンツ姿で呆然とたたずんでいた。
「あらやだ」
それを見て、目を覆うフリをするぬか娘。
資材のほとんどは丸焦げで、車両や鉄筋などは熱で変形して使い物になりそうにない。しかし人間はみな一様に、屈辱的ではあるが大した火傷は負っていなかった。
まるで意図して手加減したかのような不思議な燃え方に、やはり……これは操られた不思議な力か……と、しばし辺りを見回し唖然とする偽島だが、そんな彼にアルテマが意味深な笑みを浮かべて近づいてくる。
「……優しい村神様で助かったな蛮族の大将よ? これに懲りたらもう二度と脅し紛いな無礼は控えることだな……でなければ、次はもっと酷い祟りが降って下りるかも知れんぞ?」
挑発的に見上げてくるアルテマに、偽島は肩をプルプル震わせて、
「こ……この……得体の知れない村巫女が……!! いいだろう。……妙な力を使うようだが所詮は一人。我々天下の『偽島組』に喧嘩を売ったその無謀をすぐにでも後悔させてやるからな!!」
逆上し、指を突きつけてくる。
そんな彼に向かってアルテマは半笑いで言い返す。
「いい大人が子供相手に何をムキになっているんだ? はっははは、どうやらこっちの蛮族は女子供にも本気を出すらしい。世が変わり悪は変わらねど程度は変わるらしいな?」
「こ……こここ、この……っ!?」
……蛮族だの何だのと、どこまで人を馬鹿にするつもりだこのガキは!?
偽島は顔を真っ赤にして現場監督のケツを蹴り上げた。
「痛って!!」
「ボケっとしてないで帰りますよ!! 怪我人は私の社用車に乗せて病院に連れていきなさい。それからお前たち!!」
偽島はヨウツベらを睨みつけて、
「今回の事は、会社と村の間での問題にさせてもらいますからね。場合によっては弁護士も入ってもらう事になるかも知れなせん……覚悟しておいて下さいね!!」
捨て台詞を吐き、監督らと同じワゴン車に乗って走って行った。
「覚悟してだってさ……どうする」
絵に書いたような捨て台詞を吐いて去っていく車を眺めつつ、ぬか娘はヨウツベらに今後の対応について聞いてみる。
「どうもこうも、べつに問題ないと思うよ?」
ヨウツベは校舎の玄関に設置している防犯カメラ(私物)を指さしてお気楽に笑ってみせた。
その日の夕方、村長の木戸がおっかなびっくり元一宅を訪ねてきた。
「……なんじゃ木戸よ。お前まだ懲りとらんのか?」
ギロリと威圧的な目を向けてそれを出迎える元一。
鉄の結束荘のグラウンドを勝手に資材置き場にしていた件で、六段とともに散々怒鳴りつけ、ちょっとばかし昭和的制裁を食らわしてやった。
木戸の顔には少しばかりのアザができてしまっている。
「違うんだよ……い、いや……違わないが、違うんだよ!!」
「……あん?」
青ざめて狼狽《うろたえ》えてる木戸を訝《いぶか》しげに見下ろす元一。
「まあいい……話を聞こうか、入るが良い」
何が言いたいのか大体の察しは付いた元一は、黙って木戸を家に招き入れた。
「暴力はマズイよゲンさん~~。私にはいいけど、いや私にもダメだけど!! でも、建設会社の人たちに手ぇ出しちゃダメですって!!」
客間に通された木戸村長は出されたお茶にも手を付けず、早速本題に入ってきた。
大体の話はヨウツベから聞いている。
アルテマが作業員相手に魔法を炸裂させて追い返したとか。
「……ふむ、何がマズイというのじゃ?」
「何もかもだよ!! 確かに話のすれ違いや連絡ミスはあったかも知れないけど、向こうの人達だってキチンとした契約に沿って動いていたんです。それをこっちが気に入らないからって暴力を……しかも怪我までさせて……。偽島組の所長から連絡があったよ。この件は警察を交えて刑事事件にしてやってもいいと」
「何をそんな大げさな」
「大げさなもんかい!! いいですか、どんな理由があろうと先に手を出したこちらが全て悪いんです!! 示談で済ましてもらうにしても……相手は……」
そこまで言って木戸の声が一音低くなる。
「……おおきな声じゃ言えませんが……偽島組は暴力団を母体に持っていると噂されている組織なんですよ。そんな連中相手にトラブルどころか怪我を負わせたとあっては……一体いくらのお金を積まされるか……。お金どころじゃない、工事やその後の権利も、これを理由にいろいろ吹っかけられるかも知れません」
脅すように言ってくる木戸だが、元一は少しも動じることなく。
「そんな連中だと知っていながら関わるとは……お前も同罪じゃな。かまわんよ、警察だろうが裁判所だろうが何でも持ってくるがいい。その前に奴らにコレを見せてやれ」
言って一枚のSDカードを木戸に投げつける。
その中にはヨウツベから託された、今朝の騒動の一部始終を記録した映像が入っていた。
その騒動に気づいた偽島が、血相を変えて走り戻ってきた。
燃え盛る騒動の前で小躍りしているアルテマらを睨みつけると、
「な……なんだ!? 何が起こったこれは!??? ……貴様ら一体何をしたんだ!??」
青筋を立てて怒鳴り散らしてきた。
「……知らんな。貴様らがあまりに慇懃無礼《いんぎんぶれい》だから村神の逆鱗にでも触れたのではないか?」
アルテマは得意満面、笑顔をわざとらしく見せつけ、しかし何も知らないぞとばかりにすっとぼけてやる。
「な!? む……村神だとぉ……ふざけるなっ!!」
ツバを飛ばしてさらにイキリ立つ偽島だが、こうしているうちにも炎はどんどん大きくなってくる。
このままではせっかく準備した資材が台無しになってしまう。
「くそ、警察……いや消防車を!!」
「……ふん。これしきの事でもう救援要請か? こちらの世界の蛮族も大したことはないな」
携帯を取り出し、どこかへ連絡しようとする偽島。
その小者っぷりにアルテマは侮蔑の半笑いを浮かべると、パチンっと指を鳴らして見せる。
――――シュゥオッ!!
すると今まで勢いよく燃え盛っていた黒い炎が、風に流される霧のように一瞬にして宙に溶け、掻き消えていった。
作業員たちの体にまとわり付いていた炎も消え、ヘナヘナとみな地面に座り込む。
それぞれに火傷は負っているが、命に触るほどではなさそうだ。
そのアルテマの振る舞いを一部始終見ていた偽島。
一連の騒ぎはこの巫女が起こしたのだと確信する。
これは……妖術? 魔法? いや、まさかそんな馬鹿な話しが……しかし今この巫女が炎を操る姿を確かに見た。
これは……一体どういうことだ……?
「ぎ……偽島さん」
現場監督が呼んでいる。
彼は火傷を負ったクレーン運転手をかかえて青ざめていた。
「こいつ、早く病院に連れてかねぇと……火傷が酷え」
「どこだ!? どこが負傷した、顔か!? 腕か!? 全身か!?」
「いや、顔も体も大丈夫ですが……ケツが燃えて真っ赤に張れてます……」
見ると、作業ズボンのお尻だけが丸く燃えてそこから顔を出した肌が赤く腫れ上がりおサルのようになっていた。
トラック運転手の方は髪の毛だけがキレイに燃えてつるっパゲに。
他の作業員たちは服を脱ぎ捨てたおかげで無事だったが、そろって縦縞パンツ姿で呆然とたたずんでいた。
「あらやだ」
それを見て、目を覆うフリをするぬか娘。
資材のほとんどは丸焦げで、車両や鉄筋などは熱で変形して使い物になりそうにない。しかし人間はみな一様に、屈辱的ではあるが大した火傷は負っていなかった。
まるで意図して手加減したかのような不思議な燃え方に、やはり……これは操られた不思議な力か……と、しばし辺りを見回し唖然とする偽島だが、そんな彼にアルテマが意味深な笑みを浮かべて近づいてくる。
「……優しい村神様で助かったな蛮族の大将よ? これに懲りたらもう二度と脅し紛いな無礼は控えることだな……でなければ、次はもっと酷い祟りが降って下りるかも知れんぞ?」
挑発的に見上げてくるアルテマに、偽島は肩をプルプル震わせて、
「こ……この……得体の知れない村巫女が……!! いいだろう。……妙な力を使うようだが所詮は一人。我々天下の『偽島組』に喧嘩を売ったその無謀をすぐにでも後悔させてやるからな!!」
逆上し、指を突きつけてくる。
そんな彼に向かってアルテマは半笑いで言い返す。
「いい大人が子供相手に何をムキになっているんだ? はっははは、どうやらこっちの蛮族は女子供にも本気を出すらしい。世が変わり悪は変わらねど程度は変わるらしいな?」
「こ……こここ、この……っ!?」
……蛮族だの何だのと、どこまで人を馬鹿にするつもりだこのガキは!?
偽島は顔を真っ赤にして現場監督のケツを蹴り上げた。
「痛って!!」
「ボケっとしてないで帰りますよ!! 怪我人は私の社用車に乗せて病院に連れていきなさい。それからお前たち!!」
偽島はヨウツベらを睨みつけて、
「今回の事は、会社と村の間での問題にさせてもらいますからね。場合によっては弁護士も入ってもらう事になるかも知れなせん……覚悟しておいて下さいね!!」
捨て台詞を吐き、監督らと同じワゴン車に乗って走って行った。
「覚悟してだってさ……どうする」
絵に書いたような捨て台詞を吐いて去っていく車を眺めつつ、ぬか娘はヨウツベらに今後の対応について聞いてみる。
「どうもこうも、べつに問題ないと思うよ?」
ヨウツベは校舎の玄関に設置している防犯カメラ(私物)を指さしてお気楽に笑ってみせた。
その日の夕方、村長の木戸がおっかなびっくり元一宅を訪ねてきた。
「……なんじゃ木戸よ。お前まだ懲りとらんのか?」
ギロリと威圧的な目を向けてそれを出迎える元一。
鉄の結束荘のグラウンドを勝手に資材置き場にしていた件で、六段とともに散々怒鳴りつけ、ちょっとばかし昭和的制裁を食らわしてやった。
木戸の顔には少しばかりのアザができてしまっている。
「違うんだよ……い、いや……違わないが、違うんだよ!!」
「……あん?」
青ざめて狼狽《うろたえ》えてる木戸を訝《いぶか》しげに見下ろす元一。
「まあいい……話を聞こうか、入るが良い」
何が言いたいのか大体の察しは付いた元一は、黙って木戸を家に招き入れた。
「暴力はマズイよゲンさん~~。私にはいいけど、いや私にもダメだけど!! でも、建設会社の人たちに手ぇ出しちゃダメですって!!」
客間に通された木戸村長は出されたお茶にも手を付けず、早速本題に入ってきた。
大体の話はヨウツベから聞いている。
アルテマが作業員相手に魔法を炸裂させて追い返したとか。
「……ふむ、何がマズイというのじゃ?」
「何もかもだよ!! 確かに話のすれ違いや連絡ミスはあったかも知れないけど、向こうの人達だってキチンとした契約に沿って動いていたんです。それをこっちが気に入らないからって暴力を……しかも怪我までさせて……。偽島組の所長から連絡があったよ。この件は警察を交えて刑事事件にしてやってもいいと」
「何をそんな大げさな」
「大げさなもんかい!! いいですか、どんな理由があろうと先に手を出したこちらが全て悪いんです!! 示談で済ましてもらうにしても……相手は……」
そこまで言って木戸の声が一音低くなる。
「……おおきな声じゃ言えませんが……偽島組は暴力団を母体に持っていると噂されている組織なんですよ。そんな連中相手にトラブルどころか怪我を負わせたとあっては……一体いくらのお金を積まされるか……。お金どころじゃない、工事やその後の権利も、これを理由にいろいろ吹っかけられるかも知れません」
脅すように言ってくる木戸だが、元一は少しも動じることなく。
「そんな連中だと知っていながら関わるとは……お前も同罪じゃな。かまわんよ、警察だろうが裁判所だろうが何でも持ってくるがいい。その前に奴らにコレを見せてやれ」
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