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第52話 金目の天秤
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「それで師匠、今日、陛下はお見えにならないのですか?」
最初に繋がったときの舞台である、ジルの法具部屋を見回しアルテマは訪ねた。
薬の件についてはカイギネス皇帝も最重要視しているだろうから、てっきり今回も皇帝自ら応答していただけるものだと構えていたのだが……。
「陛下はまた前線にて指揮を取っておられます。薬の件に関しては私とアルテマに一任するとのことでした」
「そうですか……。戦況を伺ってもよろしいですか?」
『もちろん構いません』
「皇帝陛下……カイギネスさん自らが戦っているの? それってけっこうマズイ状況ってことなんじゃ……」
うなずくジルに、ぬか娘が不安げに首をかしげた。
そんな彼女に、やや困った顔をしてアルテマがこたえる。
「いや、カイギネス皇帝はかなりの武闘派で、戦況の有利不利に関わらず自らが先陣に立って指揮をしなければ気が済まないお方なのだ。……我々近衛騎士からしてみれば勘弁してもらいたい話ではあるがな……」
『あの時も、前に出すぎた皇帝部隊をかばってあなたが犠牲になったのですよね』
「ええ、あのときは本気で死ぬかと思いましたよ……。実際、異世界へ落ちたのですから無事とは言いがたい状況かもしれませんが……」
『陛下もアルテマが身代わりになったと聞いてさすがに落ち込んでいましたよ。あれ以来、以前ほどの強行突撃はしなくなりました』
「……皇帝自らが突撃とか……どんな無茶苦茶な人なの……」
ぬか娘があきれて汗を伝わすが、それに六段が異を唱える。
「いや、日本の武将もかつては同じようなものだったぞ? 武田信玄や上杉謙信なんかはその代表格やな。兵士を置き去りに自らが単騎突撃とか、ふふふ、男のロマンがわかる御人のようだの?」
「ワシは立花宗茂が好きじゃな」
と元一。
「ほんならワシは黒田官兵衛やな……ヒック」
これは飲兵衛。
「おや、勘兵衛は知将で猛将じゃないでしょう。ここはやはり島津義弘に一票いれたいですね」
ヨウツベがそう言うと、
「ぼぼぼ、僕は甲斐姫を押しますぞ。かかか、勝ち気な女性は好みでござるから」
アニオタも鼻息を荒くする。
「……わたしは伊達政宗一択だ。ミーハーと呼ばれてもこれは譲れない」
モジョも参戦したところで、
「……なるほど、異世界でも近衛の者たちは苦労人が多そうだな」
と、アルテマは大きく苦笑いした。
ジルの説明で、帝国軍と聖王国の戦いは依然劣勢ではあるものの、先の戦勝とアルテマ生存の一報が国に広まったおかげで指揮は劇的に回復したようである。
それに伴い、戦線も徐々に押し返しているとのことだった。
「なら、これで使い方はわかってくれたやろか? ……ヒック」
映像越しに、薬の用法用量を一通り説明し終えた飲兵衛。
『はい、ありがとう御座います。解毒剤に加えて浄化剤まで……本当になんとお礼を申したらいいのか……』
感謝に目を潤ませて感激するジル。
これで水門の街の住人が助かると思うと自然に涙が溢れてくる。
「……まだ実際に効果があるかはわからへんで? お礼はそれを確認してからでええよ。ほならアルテマ、さっそくこれを異世界へ移してやってくれや」
透き通るような超絶美人に感謝され、年甲斐もなくテレながら薬の入った大袋をアルテマに渡す。
「了解だ。では師匠、そちらも不変の黄鉄《おうてつ》をお願いします」
『わかりました。ここに……あります……んぐぐぐ……』
等価交換の代金になる金塊をガニ股になって持ち上げるジル。
そんなに重いなら弟子の誰かに持たせれば良いのでは?
とアルテマは思ったが、こう見えてジルは案外天然なところがある。
この程度のことで、いちいちツッコんでいては時間がいくらあっても足りない。
「では、いきます。――――開門揖盗《デモン・ザ・ホール》っ!!」
『……はい、ぐぐ……――――開門揖盗《デモン・ザ・ホール》っ!!』
同時に結びの力言葉を唱える二人。
これで、二つの物は世界を飛び越え、入れ替わるはず。
しかし――――、
し~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
出てくるはずの銀色の光柱は出て来ない。
物も、入れ替わった様子はなかった。
「……あれ? なんか……失敗したっぽい?」
つつつ……と汗を流し固まっている二人を見て、ぬか娘がつぶやく。
「おいアルテマどうした、なぜ転移せんのじゃ?」
元一も、いまだにこっちの世界にある買い物袋を持ち上げ不思議に首をかしげた。
「は……」
「は?」
「は……弾かれた~~~~……」
そう言ってガックシと膝を折り、地面に突っ伏すアルテマ。
「弾かれた? 弾かれたとはどういうことじゃ??」
言ってる意味がわからず困る元一に、
『これでは交換出来ないと言うことです……』
ジルがアルテマの代わりにこたえた。
彼女も同じくショックを受けているようすである。
「交換できない!? なんでや? 前回はいけたやないかい??」
『……『金目《かなめ》の天秤』が釣り合っていないようです……』
「金目の天秤って……。え? でも、そっちの金塊の方がよっぽど価値がありそうなんですけど? それでなんでダメなの??」
「価値の解釈が違うということだな」
不思議そうに聞いてくるぬか娘に、アルテマが悔しそうにこたえた。
「価値の解釈ってなんや? 金額の問題やないってことかいな……ヒック」
『はい、まさしくそうです。金目の天秤とは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》のなかにおいて、文字通り等価を測る天秤。そしてその針はその時々の人の思いで傾きを決めるのです』
「人の……思いやて??」
『はい、前回はこちらの水を欲する気持ちと、そちらの不変の黄鉄《おうてつ》に対する興味がちょうど釣り合って成功したのでしょう。しかし……今回はそれが釣り合っていない……つまり、何か他の対価を用意しなければならないと言うことです』
最初に繋がったときの舞台である、ジルの法具部屋を見回しアルテマは訪ねた。
薬の件についてはカイギネス皇帝も最重要視しているだろうから、てっきり今回も皇帝自ら応答していただけるものだと構えていたのだが……。
「陛下はまた前線にて指揮を取っておられます。薬の件に関しては私とアルテマに一任するとのことでした」
「そうですか……。戦況を伺ってもよろしいですか?」
『もちろん構いません』
「皇帝陛下……カイギネスさん自らが戦っているの? それってけっこうマズイ状況ってことなんじゃ……」
うなずくジルに、ぬか娘が不安げに首をかしげた。
そんな彼女に、やや困った顔をしてアルテマがこたえる。
「いや、カイギネス皇帝はかなりの武闘派で、戦況の有利不利に関わらず自らが先陣に立って指揮をしなければ気が済まないお方なのだ。……我々近衛騎士からしてみれば勘弁してもらいたい話ではあるがな……」
『あの時も、前に出すぎた皇帝部隊をかばってあなたが犠牲になったのですよね』
「ええ、あのときは本気で死ぬかと思いましたよ……。実際、異世界へ落ちたのですから無事とは言いがたい状況かもしれませんが……」
『陛下もアルテマが身代わりになったと聞いてさすがに落ち込んでいましたよ。あれ以来、以前ほどの強行突撃はしなくなりました』
「……皇帝自らが突撃とか……どんな無茶苦茶な人なの……」
ぬか娘があきれて汗を伝わすが、それに六段が異を唱える。
「いや、日本の武将もかつては同じようなものだったぞ? 武田信玄や上杉謙信なんかはその代表格やな。兵士を置き去りに自らが単騎突撃とか、ふふふ、男のロマンがわかる御人のようだの?」
「ワシは立花宗茂が好きじゃな」
と元一。
「ほんならワシは黒田官兵衛やな……ヒック」
これは飲兵衛。
「おや、勘兵衛は知将で猛将じゃないでしょう。ここはやはり島津義弘に一票いれたいですね」
ヨウツベがそう言うと、
「ぼぼぼ、僕は甲斐姫を押しますぞ。かかか、勝ち気な女性は好みでござるから」
アニオタも鼻息を荒くする。
「……わたしは伊達政宗一択だ。ミーハーと呼ばれてもこれは譲れない」
モジョも参戦したところで、
「……なるほど、異世界でも近衛の者たちは苦労人が多そうだな」
と、アルテマは大きく苦笑いした。
ジルの説明で、帝国軍と聖王国の戦いは依然劣勢ではあるものの、先の戦勝とアルテマ生存の一報が国に広まったおかげで指揮は劇的に回復したようである。
それに伴い、戦線も徐々に押し返しているとのことだった。
「なら、これで使い方はわかってくれたやろか? ……ヒック」
映像越しに、薬の用法用量を一通り説明し終えた飲兵衛。
『はい、ありがとう御座います。解毒剤に加えて浄化剤まで……本当になんとお礼を申したらいいのか……』
感謝に目を潤ませて感激するジル。
これで水門の街の住人が助かると思うと自然に涙が溢れてくる。
「……まだ実際に効果があるかはわからへんで? お礼はそれを確認してからでええよ。ほならアルテマ、さっそくこれを異世界へ移してやってくれや」
透き通るような超絶美人に感謝され、年甲斐もなくテレながら薬の入った大袋をアルテマに渡す。
「了解だ。では師匠、そちらも不変の黄鉄《おうてつ》をお願いします」
『わかりました。ここに……あります……んぐぐぐ……』
等価交換の代金になる金塊をガニ股になって持ち上げるジル。
そんなに重いなら弟子の誰かに持たせれば良いのでは?
とアルテマは思ったが、こう見えてジルは案外天然なところがある。
この程度のことで、いちいちツッコんでいては時間がいくらあっても足りない。
「では、いきます。――――開門揖盗《デモン・ザ・ホール》っ!!」
『……はい、ぐぐ……――――開門揖盗《デモン・ザ・ホール》っ!!』
同時に結びの力言葉を唱える二人。
これで、二つの物は世界を飛び越え、入れ替わるはず。
しかし――――、
し~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
出てくるはずの銀色の光柱は出て来ない。
物も、入れ替わった様子はなかった。
「……あれ? なんか……失敗したっぽい?」
つつつ……と汗を流し固まっている二人を見て、ぬか娘がつぶやく。
「おいアルテマどうした、なぜ転移せんのじゃ?」
元一も、いまだにこっちの世界にある買い物袋を持ち上げ不思議に首をかしげた。
「は……」
「は?」
「は……弾かれた~~~~……」
そう言ってガックシと膝を折り、地面に突っ伏すアルテマ。
「弾かれた? 弾かれたとはどういうことじゃ??」
言ってる意味がわからず困る元一に、
『これでは交換出来ないと言うことです……』
ジルがアルテマの代わりにこたえた。
彼女も同じくショックを受けているようすである。
「交換できない!? なんでや? 前回はいけたやないかい??」
『……『金目《かなめ》の天秤』が釣り合っていないようです……』
「金目の天秤って……。え? でも、そっちの金塊の方がよっぽど価値がありそうなんですけど? それでなんでダメなの??」
「価値の解釈が違うということだな」
不思議そうに聞いてくるぬか娘に、アルテマが悔しそうにこたえた。
「価値の解釈ってなんや? 金額の問題やないってことかいな……ヒック」
『はい、まさしくそうです。金目の天秤とは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》のなかにおいて、文字通り等価を測る天秤。そしてその針はその時々の人の思いで傾きを決めるのです』
「人の……思いやて??」
『はい、前回はこちらの水を欲する気持ちと、そちらの不変の黄鉄《おうてつ》に対する興味がちょうど釣り合って成功したのでしょう。しかし……今回はそれが釣り合っていない……つまり、何か他の対価を用意しなければならないと言うことです』
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