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第33話 暗黒神官長ジル・ザウザー④
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『おまたせ致しました……では転送の術を――――って、どうかされましたか?』
別室から戻ってきたジルは、なにやら萎えて地面に転がっているキモ男二人に首をかしげ尋ねてくる。
「い、いや、これは何でもありません!! おいっ、こらお前たち起きろ、失礼ではないかっ!??」
――――げしげしっ!!
二人の尻を蹴り飛ばし、場を取り繕うアルテマ。
のろのろと身を起こした二人は再びジルを眺めて、
「ああ……それでも…………やはり美人だ……!! いいじゃないか、年の差なんて……気にするな、パッションパッション!!」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕はもう、今日からおばあちゃん子として人生を歩み直しまするぅぅぅぅぅぅ……ばぶぅぅぅぅ」
理性と欲望と羨望と倫理が爆発して変になってしまう。
『あ……あの……?』
「……気にするな。……こいつらはこちらの世界でも底辺に位置する愚物……。六爺、処分を頼む」
困惑するジルに、モジョが六段に後始末を願う。
願われた六段は、まかせろとばかりに指関節を鳴らすと、
「うぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「どぅおうりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
二人を順番にジャイアントスイングし、退場させる。
「……おう、膝が治ってから、ますます脳筋っぷりに拍車がかかってきたようや、いや結構結構……ヒック」
『あ……あのぅ……??』
「気にしないで下され。で、その後ろに立っている少年は誰ですかな?」
なおも戸惑っているジルの後ろには、一人の少年が立っていた。
年の頃なら5、6歳程度のその少年は、綺麗な白装束に身を包み、祈るように手を合わせ静かに佇んでいる。
どうやら部屋を出たのはこの少年を連れてくる為だったようだが……?
『はい、この少年は我が皇帝陛下に使える修行僧で御座います。……此度はこの者を対価として、そちらの貴水を分けてもらおうかとご用意しました。では、さっそく良いですかアルテマ? ――――開門揖盗《デモン・ザ・ホール》!!』
「だめじゃだめじゃっ!!」
「やめんかっ!!」
「いや、師匠待って下さい!?」
「……むごい……」
「きゃーーーーーーーーっ!!」
「そんな酷いことはしないでちょうだいっ!!」
「――――ひっく、ヒックっ!??」
四方八方から非難の声がジルに突き刺さった。
『……どうかされたのですか、みなさん?』
「どうかもクソもないじゃろう!? だからそんなことしたら、その少年が死んでしまうんじゃないのか!?」
血相を変えて元一が少年とジルを交互に見やる。
『はい。ですが、そちらの御仁が申した通り、もしかすればそちらの水の価値はこちらより低いかも知れません。ならばこの少年一人で、せめて桶二杯分くらいはなるのではないかと……その、期待しておりますのですが?』
「……いや、そうじゃなくての? もっと安い物と交換出来るじゃろって話をしたつもりなんじゃがの……?」
その言葉を聞いて、しばらく固まるジル。
そして『ああ、そういうことか』と手をポンと合わせる。
『まあまあ、そうでしたの? まあ……私ったらてっきり……』
「お、お、お、恐ろしい師匠じゃの?」
汗を拭き拭き、アルテマに避難の顔を向ける元一。
「お師匠、こちらの世界では女、子供を生贄にするという行為はご法度とされている。どうかご理解頂けないでしょうか」
アルテマが皆の避難の目を代弁して伝える。
『……そうですか……。私はてっきり覚悟を決めろと言われたとばかり……。我が帝国でも子は宝です。普段であればこんなこと、出来る限りはしたくはありません、ですが、彼の命一つと交換で得られる水は、いくつもの別の命を救うことになります。私も心が痛いのですが、しかし今はそれでも一滴でも多く水を確保しなければいけません。覚悟を決めなければいけません。彼と彼の家族には英雄として――――』
「だから却下じゃと言っておるっ!! そっちの事情もわかるが、こっちとしてはそんな代償には如何なる物も交換出来んっ!! 別のものを持って来いっ!!」
そんな元一の剣幕に集落のメンバーも揃ってうなずく。
いかなる事情があろうかと、少年の命を代償に取引するなど、出来ようはずもないからだ。
そんな皆の強い避難を受け、ジルは悲しくも、ホッとした表情で少年を下がらせる。
そして自身もまた部屋を出ていった。
「……すまん。師匠も悪い人ではないのだ。だた、こちらの世界と比べて向こうは命の重さが軽いのも事実。……特に魔神様に捧げる神事となれば、それは時として人の命よりも価値あるものとなる」
「ほっほほほ、わかっておる。かつてこの国も、ほんの数百年前まではよく似たものよ……ジル殿も本意で連れてきたのではあるまい。むしろ身を裂かれる思いじゃったのだろうよ」
占いさんが理解を示して、それを皆にも伝える。
そうでなくとも、話に上がった以上、一度は子供を犠牲にしたのだろう。
それほどまでに逼迫した状況なのだろう。
やがて、部屋の扉が開かれた。
そして奥からジルが申し訳無さそうな顔で現れる。
『……先程も……申した通り……んぐぐ……。わ、我が帝国には……もう、んぬぐぐぐ……価値ある物資は、はあはあ……ほ、ほとんどぉ……ぐうう……残っておりません……。……い、いまぁ用意出来る……ものと言えば……くうぅ……こんなクズ鉄くらいしかぁぁぁぁ……』
そうして真っ赤な顔になりながら運んできたのは、両手が塞がるほどの大きさの、クッソ重そうな金の塊だった。
別室から戻ってきたジルは、なにやら萎えて地面に転がっているキモ男二人に首をかしげ尋ねてくる。
「い、いや、これは何でもありません!! おいっ、こらお前たち起きろ、失礼ではないかっ!??」
――――げしげしっ!!
二人の尻を蹴り飛ばし、場を取り繕うアルテマ。
のろのろと身を起こした二人は再びジルを眺めて、
「ああ……それでも…………やはり美人だ……!! いいじゃないか、年の差なんて……気にするな、パッションパッション!!」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕はもう、今日からおばあちゃん子として人生を歩み直しまするぅぅぅぅぅぅ……ばぶぅぅぅぅ」
理性と欲望と羨望と倫理が爆発して変になってしまう。
『あ……あの……?』
「……気にするな。……こいつらはこちらの世界でも底辺に位置する愚物……。六爺、処分を頼む」
困惑するジルに、モジョが六段に後始末を願う。
願われた六段は、まかせろとばかりに指関節を鳴らすと、
「うぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「どぅおうりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
二人を順番にジャイアントスイングし、退場させる。
「……おう、膝が治ってから、ますます脳筋っぷりに拍車がかかってきたようや、いや結構結構……ヒック」
『あ……あのぅ……??』
「気にしないで下され。で、その後ろに立っている少年は誰ですかな?」
なおも戸惑っているジルの後ろには、一人の少年が立っていた。
年の頃なら5、6歳程度のその少年は、綺麗な白装束に身を包み、祈るように手を合わせ静かに佇んでいる。
どうやら部屋を出たのはこの少年を連れてくる為だったようだが……?
『はい、この少年は我が皇帝陛下に使える修行僧で御座います。……此度はこの者を対価として、そちらの貴水を分けてもらおうかとご用意しました。では、さっそく良いですかアルテマ? ――――開門揖盗《デモン・ザ・ホール》!!』
「だめじゃだめじゃっ!!」
「やめんかっ!!」
「いや、師匠待って下さい!?」
「……むごい……」
「きゃーーーーーーーーっ!!」
「そんな酷いことはしないでちょうだいっ!!」
「――――ひっく、ヒックっ!??」
四方八方から非難の声がジルに突き刺さった。
『……どうかされたのですか、みなさん?』
「どうかもクソもないじゃろう!? だからそんなことしたら、その少年が死んでしまうんじゃないのか!?」
血相を変えて元一が少年とジルを交互に見やる。
『はい。ですが、そちらの御仁が申した通り、もしかすればそちらの水の価値はこちらより低いかも知れません。ならばこの少年一人で、せめて桶二杯分くらいはなるのではないかと……その、期待しておりますのですが?』
「……いや、そうじゃなくての? もっと安い物と交換出来るじゃろって話をしたつもりなんじゃがの……?」
その言葉を聞いて、しばらく固まるジル。
そして『ああ、そういうことか』と手をポンと合わせる。
『まあまあ、そうでしたの? まあ……私ったらてっきり……』
「お、お、お、恐ろしい師匠じゃの?」
汗を拭き拭き、アルテマに避難の顔を向ける元一。
「お師匠、こちらの世界では女、子供を生贄にするという行為はご法度とされている。どうかご理解頂けないでしょうか」
アルテマが皆の避難の目を代弁して伝える。
『……そうですか……。私はてっきり覚悟を決めろと言われたとばかり……。我が帝国でも子は宝です。普段であればこんなこと、出来る限りはしたくはありません、ですが、彼の命一つと交換で得られる水は、いくつもの別の命を救うことになります。私も心が痛いのですが、しかし今はそれでも一滴でも多く水を確保しなければいけません。覚悟を決めなければいけません。彼と彼の家族には英雄として――――』
「だから却下じゃと言っておるっ!! そっちの事情もわかるが、こっちとしてはそんな代償には如何なる物も交換出来んっ!! 別のものを持って来いっ!!」
そんな元一の剣幕に集落のメンバーも揃ってうなずく。
いかなる事情があろうかと、少年の命を代償に取引するなど、出来ようはずもないからだ。
そんな皆の強い避難を受け、ジルは悲しくも、ホッとした表情で少年を下がらせる。
そして自身もまた部屋を出ていった。
「……すまん。師匠も悪い人ではないのだ。だた、こちらの世界と比べて向こうは命の重さが軽いのも事実。……特に魔神様に捧げる神事となれば、それは時として人の命よりも価値あるものとなる」
「ほっほほほ、わかっておる。かつてこの国も、ほんの数百年前まではよく似たものよ……ジル殿も本意で連れてきたのではあるまい。むしろ身を裂かれる思いじゃったのだろうよ」
占いさんが理解を示して、それを皆にも伝える。
そうでなくとも、話に上がった以上、一度は子供を犠牲にしたのだろう。
それほどまでに逼迫した状況なのだろう。
やがて、部屋の扉が開かれた。
そして奥からジルが申し訳無さそうな顔で現れる。
『……先程も……申した通り……んぐぐ……。わ、我が帝国には……もう、んぬぐぐぐ……価値ある物資は、はあはあ……ほ、ほとんどぉ……ぐうう……残っておりません……。……い、いまぁ用意出来る……ものと言えば……くうぅ……こんなクズ鉄くらいしかぁぁぁぁ……』
そうして真っ赤な顔になりながら運んできたのは、両手が塞がるほどの大きさの、クッソ重そうな金の塊だった。
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