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第30話 暗黒神官長ジル・ザウザー①
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『……まあ、それではそちらは本当に異世界だと言うのですか?』
この世界に飛ばされた経緯を一通り話し終えると、ジルはまだ信じられないと言った顔でアルテマをマジマジと見つめた。
『それで……転移と同時に体も幼女帰りしていたと?』
「……ええ、そうです。原因はわからないのですが」
騎士らしく膝を付き、全てを報告し終えるアルテマ。
それを聞いた神官長ジルは、
『あああ……』
と目眩を起こし体を傾かせる。
「師匠っ!!」
慌てて支えようとするアルテマだが、実体のない身体に触ることが出来ず、ジルはそのまま床にひっくり返って倒れてしまった。
「し、師匠~~~~~~~~っ!!」
『だ……大丈夫です。……ちょっと事態を掴みかねているだけです……』
杖を支えに起き上がり、青い顔で額を押さえるジル。
『ま、まあ……何はともあれ、あなたが生きていると分かっただけでも朗報です。陛下や皇子、あなたの部下たちも喜びましょう』
「は、ありがとう御座います。ですが、その後の戦況は、聖王国の連中はどうなったのでしょう!? 陛下や皇子は無事なんですか!?? 民はどうなりました!??」
必至に詰め寄り、状況を確認しようとするアルテマ。
聞かれたジルは少し顔を曇らせる。
『……戦況はおもわしくありません……。あなた失ったと思い込んだ我々の指揮は一時的に大きく下がり、反対に聖王国を勢い付かせました。戦線は下がり、ルルカ村とマーシュの街……それからザダブ水門が聖王国の支配下に落ちました』
「馬鹿な……穀倉地帯と水源を押さえられた……? そ、それでは兵士も、国民も飢えて死に絶えてしまいます!!」
真っ青な顔になってアルテマは立ちすくんだ。
『…………幸い、皇帝と三人の皇子はいまだ健在ですので、軍隊は何とか戦えています。が、このまま戦闘が長引けば……先はどうなるかわからない状況です』
「も、申し訳ありません!! 私があの聖騎士に遅れを取ることさえ無ければこんな事には……!!」
割れるほどに歯を食いしばり、己の不甲斐なさを責め、膝をつく。
しかしそんな彼女に、ジルは優しく微笑みかけ、
「何を言うのですアルテマ。あなたは近衛騎士として第一皇子の身代わりとなって敵を引き付けたのでしょう? あの時に皇子を失っていれば我軍は立て直しもきかず総崩れとなっていました、大手柄ですよアルテマ」
「いえ……ぐず、そんな……事は……!!」
優しいねぎらい言葉に、思わず鼻を赤くする。
ジルはそんなアルテマの後ろに控える元一たちに目を移す。
『あなた達がアルテマを助けて下さった異世界の人たちですね。皇帝陛下に代わり深く感謝を示したいと思います。私はこの娘、アルテマの育ての母にして魔導の師、サアトル帝国暗黒神官長ジル・ザウザーと申します』
そして丁寧に、深々と頭を下げる。
「……いや、これはご丁寧に……。えっと……ワシはこの村で集落長をやっている元一と申す者だが……いやはや、大した肩書もなく恥ずかしい限りじゃが……」
「元一殿にはこの世界で大変お世話になっております。他の者たちも同様に私を助けて下さいました。この者たちが居なければ、私はこの世界で路頭に迷い、ともすれば野垂れ死ぬところでありました」
ジルの醸し出す気品と、綺羅びやかなローブに気圧される元一。
他の者たちも皆、ジルの美しさに見とれているようだ。
アルテマは順に皆を紹介していく。
そしてこの集落での出来事も大雑把に話して聞かせた。
『まあ……そんな事が……。さすが異世界ですね、こちらの世界には無い物や事象が多く存在するようです』
興味深くその話を聞いていたジル。
特に興味を持ったのはこちらの世界の科学力と豊かさだった。
『現在、我が帝国は深刻な食糧難と水不足。そこから起こる疫病に苦しまされています。……そちらの豊かな世界がとても羨ましい』
すると占いさんが眉をしかめて、
「飢餓に疫病? 先程の話を聞いていたが、水源や田畑を取られたからといって、そんなにすぐには影響は出んだろう? それとも蓄えをしておらなかったのか?」
『数ヶ月分の蓄えは有りましたが……しかしそれ以上は……。……今は残った畑地の作物を国民皆で分け合っている状態です』
「……ちょっと待て、数ヶ月じゃと? アルテマがここにやってきたのは二週間ほど前じゃぞ」
元一が首を捻りながら日にちを数える。
それを聞いたジルは額を押さえ、大きなため息をついた。
『ああ……なんということでしょう。どうやらこちらの世界とそちらでは、時間の流れも違うようですね。こちらの世界ではアルテマが失踪したのはもう半年も前の事ですよ?』
「な、なんですと!?? そ、そ、そっちではそんなに経っているのですか!??」
『ええ。……ささやかですがあなたの葬儀も終わっています』
それを聞いてショックに崩れるアルテマ。
『ですからとても驚きました。とっくに諦めていたあなたから開門揖盗《デモン・ザ・ホール》 の呼び出しがあったのには。アルテマ……姿は変わってしまいましたが、再びあなたに会えて、私は……母は……とても嬉しいですよ』
そう言ってジルは、ようやく実感を噛み締めたか、目を赤くして涙を流した。
この世界に飛ばされた経緯を一通り話し終えると、ジルはまだ信じられないと言った顔でアルテマをマジマジと見つめた。
『それで……転移と同時に体も幼女帰りしていたと?』
「……ええ、そうです。原因はわからないのですが」
騎士らしく膝を付き、全てを報告し終えるアルテマ。
それを聞いた神官長ジルは、
『あああ……』
と目眩を起こし体を傾かせる。
「師匠っ!!」
慌てて支えようとするアルテマだが、実体のない身体に触ることが出来ず、ジルはそのまま床にひっくり返って倒れてしまった。
「し、師匠~~~~~~~~っ!!」
『だ……大丈夫です。……ちょっと事態を掴みかねているだけです……』
杖を支えに起き上がり、青い顔で額を押さえるジル。
『ま、まあ……何はともあれ、あなたが生きていると分かっただけでも朗報です。陛下や皇子、あなたの部下たちも喜びましょう』
「は、ありがとう御座います。ですが、その後の戦況は、聖王国の連中はどうなったのでしょう!? 陛下や皇子は無事なんですか!?? 民はどうなりました!??」
必至に詰め寄り、状況を確認しようとするアルテマ。
聞かれたジルは少し顔を曇らせる。
『……戦況はおもわしくありません……。あなた失ったと思い込んだ我々の指揮は一時的に大きく下がり、反対に聖王国を勢い付かせました。戦線は下がり、ルルカ村とマーシュの街……それからザダブ水門が聖王国の支配下に落ちました』
「馬鹿な……穀倉地帯と水源を押さえられた……? そ、それでは兵士も、国民も飢えて死に絶えてしまいます!!」
真っ青な顔になってアルテマは立ちすくんだ。
『…………幸い、皇帝と三人の皇子はいまだ健在ですので、軍隊は何とか戦えています。が、このまま戦闘が長引けば……先はどうなるかわからない状況です』
「も、申し訳ありません!! 私があの聖騎士に遅れを取ることさえ無ければこんな事には……!!」
割れるほどに歯を食いしばり、己の不甲斐なさを責め、膝をつく。
しかしそんな彼女に、ジルは優しく微笑みかけ、
「何を言うのですアルテマ。あなたは近衛騎士として第一皇子の身代わりとなって敵を引き付けたのでしょう? あの時に皇子を失っていれば我軍は立て直しもきかず総崩れとなっていました、大手柄ですよアルテマ」
「いえ……ぐず、そんな……事は……!!」
優しいねぎらい言葉に、思わず鼻を赤くする。
ジルはそんなアルテマの後ろに控える元一たちに目を移す。
『あなた達がアルテマを助けて下さった異世界の人たちですね。皇帝陛下に代わり深く感謝を示したいと思います。私はこの娘、アルテマの育ての母にして魔導の師、サアトル帝国暗黒神官長ジル・ザウザーと申します』
そして丁寧に、深々と頭を下げる。
「……いや、これはご丁寧に……。えっと……ワシはこの村で集落長をやっている元一と申す者だが……いやはや、大した肩書もなく恥ずかしい限りじゃが……」
「元一殿にはこの世界で大変お世話になっております。他の者たちも同様に私を助けて下さいました。この者たちが居なければ、私はこの世界で路頭に迷い、ともすれば野垂れ死ぬところでありました」
ジルの醸し出す気品と、綺羅びやかなローブに気圧される元一。
他の者たちも皆、ジルの美しさに見とれているようだ。
アルテマは順に皆を紹介していく。
そしてこの集落での出来事も大雑把に話して聞かせた。
『まあ……そんな事が……。さすが異世界ですね、こちらの世界には無い物や事象が多く存在するようです』
興味深くその話を聞いていたジル。
特に興味を持ったのはこちらの世界の科学力と豊かさだった。
『現在、我が帝国は深刻な食糧難と水不足。そこから起こる疫病に苦しまされています。……そちらの豊かな世界がとても羨ましい』
すると占いさんが眉をしかめて、
「飢餓に疫病? 先程の話を聞いていたが、水源や田畑を取られたからといって、そんなにすぐには影響は出んだろう? それとも蓄えをしておらなかったのか?」
『数ヶ月分の蓄えは有りましたが……しかしそれ以上は……。……今は残った畑地の作物を国民皆で分け合っている状態です』
「……ちょっと待て、数ヶ月じゃと? アルテマがここにやってきたのは二週間ほど前じゃぞ」
元一が首を捻りながら日にちを数える。
それを聞いたジルは額を押さえ、大きなため息をついた。
『ああ……なんということでしょう。どうやらこちらの世界とそちらでは、時間の流れも違うようですね。こちらの世界ではアルテマが失踪したのはもう半年も前の事ですよ?』
「な、なんですと!?? そ、そ、そっちではそんなに経っているのですか!??」
『ええ。……ささやかですがあなたの葬儀も終わっています』
それを聞いてショックに崩れるアルテマ。
『ですからとても驚きました。とっくに諦めていたあなたから開門揖盗《デモン・ザ・ホール》 の呼び出しがあったのには。アルテマ……姿は変わってしまいましたが、再びあなたに会えて、私は……母は……とても嬉しいですよ』
そう言ってジルは、ようやく実感を噛み締めたか、目を赤くして涙を流した。
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