27 / 272
第26話 祠の謎①
しおりを挟む
「なに? 山の祠について聞きたいとな?」
「ああ先日、裏山(蹄丘《ひずめのおか》)の山頂、私が転移していたとされる場所の祠を調べたんだが……」
アルテマはその時の出来事について占いさんに話した。
「ほう……魔力を吸収する祠か」
何か知っていそうな雰囲気で占いさんは思わせぶりにお茶を啜った。
あの祠のことは集落の全員に聞いてみたが、誰もその正体はよく知らなかった。
そこで一番の年長者であり、魔素にも精通していると思われる占いさんに話を聞きに、あらためて家を尋ねて来たのだ。
みゃ~~。みゃぁ~~。みゃぁお~~~~。
ごろごろごろごろ、と喉を鳴らして猫がまとわりついてくる。
一体この家には何匹猫がいるのかと、特別大きなドラ猫を膝に、三毛猫を背中に乗せながらアルテマはうなずいた。
「そう……だ。状況的に考えて私が転移してきたのと、あの祠は無関係とは思えない……。そこで……あれについて何か知っている事があったら聞かせて欲しいと……思って、痛たたたたたたたたたっ!!!!」
黒猫に飛び乗られ悲鳴を上げる。
そんなアルテマを見て微笑みながら、占いさんが話してくれる。
「わたしも40年ほど前にこの地に引っ越して来たばかりじゃからの、詳しいことは知らん。……だか、あれが龍穴だと言うことは知っているぞ」
「龍穴?」
「そうじゃ――――龍穴とは龍脈の口。龍脈とはこの世界の地に流れる『気』の道のこと。すなわち、あの祠はこの世界の『気』の流れを司るもの」
知らんと言いながら結構知ってるじゃないか、などとは突っ込まず、アルテマはさらに質問を重ねる。
「気とはなんだ?」
聞かれた占いさんは、しばらく考えて。
「恐らくは……お前さんが言う『魔素』の事じゃろうな。こっちとそっちの世界では解釈に少しズレがあるかも知れんが、占いや、神術、呪術など奇跡の力を呼び寄せる為に用いる力のことじゃ」
「なるほど……それはまさに魔素のことだな。おいこらやめろ」
白猫に髪の毛を食べられるアルテマ。
「しかし、ならば私の魔素が吸い取られたのは?」
「うむ……そこはわたしにゃわからん。……だが、感じていた気の力が無くなっているところを見ると、これはもしや流れが変わったのかも知れんな?」
「どういうことだ?」
「……まずは見てみないとわからんな」
――――かくして。
アルテマは占いさんを連れて、ふたたび祠へとやってきた。
もちろん、また熊が出るかも知れないので猟銃を持った元一も付いてきている。
さらに90歳を過ぎた占いさんに山登りは無理だろうと、六段もおんぶ役として来てくれた。
「すまんの、六段や。しかし若いってのは良いのう。わたしをおぶってもスイスイこの坂を上がって行きよるわ。カッカカカ!!」
ケラケラと笑いながら六段のハゲ頭をぺしぺし叩く占いさん。
六段の足はこの数日で見違えるように良くなり、もう痛みもほとんど無くなっているようだ。
あらためて興味深いと飲兵衛は目を輝かせていたが、当の六段は難しいことはどうでもいい、とにかく楽になって良かったと全てを簡単に受け入れ、上機嫌である。
「やめんか!! それにワシは若くはないぞ!?」
「20も年下じゃ、充分若者じゃよ。ほれキリキリ登れぃ」
「六段で若者じゃったら、じゃあアルテマは何なのだ?」
苦笑いで元一が聞くと、
「そりゃ、卵じゃよ」
「だれが卵だ!! 私は中身は大人だぞ!? 40超えてるぞ!!」
「50も年下じゃろがい。充分卵じゃ」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
などと年寄りマウントを取り合いしながらマウテンを上る一行。
やがて例の祠が見えてきた。
「おお……やはりか」
それを一目見て、占いさんが全てを理解したようにため息を漏らす。
祠の周りに皆が集まり、
「なんだ? やはり流れとやらが変わっているのか?」
アルテマが見ても何もわからない。
しかし占いさんには何かが見えているようだ。
「うむ。……以前は湧き水のように溢れ出ていた気が、今は何も出ておらん。それどころか……」
呟いて占いさんはそっと祠に手を触れてみる。
「むおぉぉぉぉ……や、やはり」
苦しげに呻くとその場に膝を付いてしまった。
「お、おいっ!?」
「どうした、大丈夫か!?」
元一と六段が慌てて占いさんを支える。
すると息を荒くして彼女は説明する。
「……これは、逆に気を吸い取っておる……!! これは……この場におると危険じゃ」
「なに!?」
それを聞いたアルテマが自分の手を見ると、
ぽわぽわぽわぽわ~~~~……。
と、体から染み出した魔素がどんどん光となって祠へと吸い込まれていた。
「やはり何かのショックで、今まで湧き出ていた流れが逆になっておるんじゃ。出口と入り口が逆になっておる……」
「ん~~~~? ……てことは??」
元一が首をかしげる。
「ここにいては無限に気を吸い取られるということじゃ」
「そうなるとどうなるんじゃ?」
六段も首をかしげるが、そこに占いさんが簡潔に答えを言った。
「死ぬ」
「よし、撤収じゃぁ~~~~~~~~っ!!!!」
これ以上無い簡単な危険信号に、六段は即座に撤収命令を下す。
それを聞くまでもなくアルテマはスタコラサッサと一人山を駆け下りていた。
「ああ先日、裏山(蹄丘《ひずめのおか》)の山頂、私が転移していたとされる場所の祠を調べたんだが……」
アルテマはその時の出来事について占いさんに話した。
「ほう……魔力を吸収する祠か」
何か知っていそうな雰囲気で占いさんは思わせぶりにお茶を啜った。
あの祠のことは集落の全員に聞いてみたが、誰もその正体はよく知らなかった。
そこで一番の年長者であり、魔素にも精通していると思われる占いさんに話を聞きに、あらためて家を尋ねて来たのだ。
みゃ~~。みゃぁ~~。みゃぁお~~~~。
ごろごろごろごろ、と喉を鳴らして猫がまとわりついてくる。
一体この家には何匹猫がいるのかと、特別大きなドラ猫を膝に、三毛猫を背中に乗せながらアルテマはうなずいた。
「そう……だ。状況的に考えて私が転移してきたのと、あの祠は無関係とは思えない……。そこで……あれについて何か知っている事があったら聞かせて欲しいと……思って、痛たたたたたたたたたっ!!!!」
黒猫に飛び乗られ悲鳴を上げる。
そんなアルテマを見て微笑みながら、占いさんが話してくれる。
「わたしも40年ほど前にこの地に引っ越して来たばかりじゃからの、詳しいことは知らん。……だか、あれが龍穴だと言うことは知っているぞ」
「龍穴?」
「そうじゃ――――龍穴とは龍脈の口。龍脈とはこの世界の地に流れる『気』の道のこと。すなわち、あの祠はこの世界の『気』の流れを司るもの」
知らんと言いながら結構知ってるじゃないか、などとは突っ込まず、アルテマはさらに質問を重ねる。
「気とはなんだ?」
聞かれた占いさんは、しばらく考えて。
「恐らくは……お前さんが言う『魔素』の事じゃろうな。こっちとそっちの世界では解釈に少しズレがあるかも知れんが、占いや、神術、呪術など奇跡の力を呼び寄せる為に用いる力のことじゃ」
「なるほど……それはまさに魔素のことだな。おいこらやめろ」
白猫に髪の毛を食べられるアルテマ。
「しかし、ならば私の魔素が吸い取られたのは?」
「うむ……そこはわたしにゃわからん。……だが、感じていた気の力が無くなっているところを見ると、これはもしや流れが変わったのかも知れんな?」
「どういうことだ?」
「……まずは見てみないとわからんな」
――――かくして。
アルテマは占いさんを連れて、ふたたび祠へとやってきた。
もちろん、また熊が出るかも知れないので猟銃を持った元一も付いてきている。
さらに90歳を過ぎた占いさんに山登りは無理だろうと、六段もおんぶ役として来てくれた。
「すまんの、六段や。しかし若いってのは良いのう。わたしをおぶってもスイスイこの坂を上がって行きよるわ。カッカカカ!!」
ケラケラと笑いながら六段のハゲ頭をぺしぺし叩く占いさん。
六段の足はこの数日で見違えるように良くなり、もう痛みもほとんど無くなっているようだ。
あらためて興味深いと飲兵衛は目を輝かせていたが、当の六段は難しいことはどうでもいい、とにかく楽になって良かったと全てを簡単に受け入れ、上機嫌である。
「やめんか!! それにワシは若くはないぞ!?」
「20も年下じゃ、充分若者じゃよ。ほれキリキリ登れぃ」
「六段で若者じゃったら、じゃあアルテマは何なのだ?」
苦笑いで元一が聞くと、
「そりゃ、卵じゃよ」
「だれが卵だ!! 私は中身は大人だぞ!? 40超えてるぞ!!」
「50も年下じゃろがい。充分卵じゃ」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
などと年寄りマウントを取り合いしながらマウテンを上る一行。
やがて例の祠が見えてきた。
「おお……やはりか」
それを一目見て、占いさんが全てを理解したようにため息を漏らす。
祠の周りに皆が集まり、
「なんだ? やはり流れとやらが変わっているのか?」
アルテマが見ても何もわからない。
しかし占いさんには何かが見えているようだ。
「うむ。……以前は湧き水のように溢れ出ていた気が、今は何も出ておらん。それどころか……」
呟いて占いさんはそっと祠に手を触れてみる。
「むおぉぉぉぉ……や、やはり」
苦しげに呻くとその場に膝を付いてしまった。
「お、おいっ!?」
「どうした、大丈夫か!?」
元一と六段が慌てて占いさんを支える。
すると息を荒くして彼女は説明する。
「……これは、逆に気を吸い取っておる……!! これは……この場におると危険じゃ」
「なに!?」
それを聞いたアルテマが自分の手を見ると、
ぽわぽわぽわぽわ~~~~……。
と、体から染み出した魔素がどんどん光となって祠へと吸い込まれていた。
「やはり何かのショックで、今まで湧き出ていた流れが逆になっておるんじゃ。出口と入り口が逆になっておる……」
「ん~~~~? ……てことは??」
元一が首をかしげる。
「ここにいては無限に気を吸い取られるということじゃ」
「そうなるとどうなるんじゃ?」
六段も首をかしげるが、そこに占いさんが簡潔に答えを言った。
「死ぬ」
「よし、撤収じゃぁ~~~~~~~~っ!!!!」
これ以上無い簡単な危険信号に、六段は即座に撤収命令を下す。
それを聞くまでもなくアルテマはスタコラサッサと一人山を駆け下りていた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる