4 / 297
第3話 やさしいお粥
しおりを挟む
「ほぉ……異世界の、帝国近衛暗黒騎士……? アルテマという名前か」
アルテマは二人の老夫婦に対してこれまでの経緯を正直に話した。
自分の身分。
名前。年齢。種族。
異世界の住人であること。
こちらの世界に転移してしまった理由、全て。
見知らぬ相手に自分の素性を話してしまうのは本来危険な行為なのだが、しかしここは異世界。まずは元の世界に帰ることを最優先に考えるのならば、自分の正体や事情はさらけ出したほうが効率よく情報を集められるだろう。
危険はもとより承知の上で、アルテマは全てを話した。
すると、お爺さんはかなり考え込み、
「異世界か……。突拍子もない話だが、そのツノを見る限りあながち嘘をついてるとも思えんのぅ」
と、アルテマの額に生えた角を見て言った。
アルテマも自分の角を触ってみる。
隨分と小さくなってしまっていた。
体が幼児化してしまった影響だろう。
この謎についてはひとまず置いておく事として、
「すまない。こちらの世界にはこんな角を持った人間―――魔族は居ないのか?」
と、聞いてみた。
「魔族か……うむ、言葉としてならあるが、実際にはいないのぅ。ワシはてっきり鬼かと思ったがのう?」
「鬼?」
「ああ、こちらの世界の妖怪じゃよ。頭から角が生えておって怪力で暴れん坊のな」
「私もびっくりしましたよ、いきなりお爺さんが慌てて山から降りてきて、頭に角が生えた鬼娘さんを抱えているもんだから、もうどうしようかと……」
「私は山にいたのか?」
「ああ、すぐそこの裏山じゃ、突然山が轟音とともに光ってのう。何事かとそこへ向かってみれば、祠の前にお前さんが素っ裸で倒れていたんじゃよ」
素っ裸?
そういえばそうだ。私は今も裸じゃないか?
アルテマは慌てて胸を隠す。
が、隠さなくてはならない膨らみなど、どこにもなかった。
下半身だけはズボンのように大きくてブカブカのパンツを履かされていた。
「ワシは慌てて救急に連絡しようと思ったがの……。お前さんのツノを見て、これは人じゃ無いかも知れんと思ったんじゃ。バカバカしい話じゃが、この歳になると妖怪とか幽霊とか……そういったモノを案外簡単に受け入れるようになってのう。だから変に人目に晒すのはマズイかもしれん、そう思い、婆さんと集落の人間にだけこの事を話して、皆でお前を看病しておったのじゃよ」
つまりは、匿っていてくれたというわけか。
ありがたい気遣いにアルテマは素直に頭を下げる。
「それは有り難かった。私も一応は追われる身だからな。すまない、機転に感謝する」
「ワシの名前は『有手《あるで》 元一《げんいち》』。この木津村で狩りと農業をやっている者じゃ。こっちはワシの連れ合いで―――、」
「節子《せつこ》っていいますよ。よろしくねぇアルテマちゃん。あんたさえ良ければいつまでもこの家に居ていいからね」
お婆さんはニッコリほっこりと笑顔を作ると、アルテマにお膳を勧めてくる。
ありがたい申し出だが……逆に親切過ぎやしないか?
違和感を感じるアルテマだが、しかしこの怪我と小さな身体だ。
右も左もわからないこの世界で、今のところ頼れるのはこの老夫婦しかいない。
「ささ、話もいいですけど、何をするにもまずは食べんといけませんよ。冷めないうちにさあ、お食べ」
節子お婆さんは木の匙でおかゆをすくうと、アルテマの口まで持ってくる。
「……………………」
まだ完全に信用出来るわけではないと、アルテマは声には出さずに口の中だけで呪文を唱えた。
(――――婬眼《フェアリーズ》)
『お粥。米を水で煮たもの。とても美味しい。やけど注意だよ』
…………米? 聞いたことの無い食材だが、しかし婬眼《フェアリーズ》の鑑定ではどうやら毒の類は入ってなく、とても美味しいと出ている。
……ならば。
アルテマは「いただきます」と感謝の言葉を伝え、恐る恐るその匙を口に入れた。
と、
「――――っ!?」
う、美味いっ!???
口にした途端、米という名の穀物が持つ芳醇な香りがぶわぁぁぁぁぁぁぁっと鼻に抜けた。
そして感じる絶妙な塩味と甘み。
具として入っている何かの卵らしき物も嫌な臭みは全くなく、まろやかな風味と舌触りで心を癒やしてくれた。
アルテマはたまらずお婆さんから匙と茶碗をひったくると、
――――ガッガッガッ!!!!
と、空腹に負けるがまま一気に熱々のお粥をかっこんだ!!
「ぶ~~~~~~~~っ!!!!」
そして盛大に吐き出した。
「熱っい、あっつい、熱い、熱っいっ!!!!」
ごろごろと転げ回るアルテナ。
「痛ったい!! 痛い、痛たたたたっ!!!!」
暴れた衝撃で肩の傷が開き、今度は激痛でのたうち回る。
「あ~~あ~~何をやっとるんじゃ、ほら婆さん水じゃ水じゃ!!」
「あらあらあらあら!!」
節子お婆さんは水差しから水を汲むとアルテマにコップを渡す。
――――んごっごっごっごっごっ!!
「はぁぁぁぁぁ~~~~~~~~」
一気に飲み干し一息ついたたアルテマは、お粥まみれになった畳を見て。
「す……すまない。美味しすぎて、つい後先考えずかっこんでしまった」
赤くなってうつむくと、
「…………は、ははははは!!」
「やだよう、もうこの子は。慌てなくたって誰も取りはしませんよ? ふふふふ」
二人はそんなアルテマを責めることなく、笑ってくれた。
その目はなぜかとても優しかった。
アルテマは二人の老夫婦に対してこれまでの経緯を正直に話した。
自分の身分。
名前。年齢。種族。
異世界の住人であること。
こちらの世界に転移してしまった理由、全て。
見知らぬ相手に自分の素性を話してしまうのは本来危険な行為なのだが、しかしここは異世界。まずは元の世界に帰ることを最優先に考えるのならば、自分の正体や事情はさらけ出したほうが効率よく情報を集められるだろう。
危険はもとより承知の上で、アルテマは全てを話した。
すると、お爺さんはかなり考え込み、
「異世界か……。突拍子もない話だが、そのツノを見る限りあながち嘘をついてるとも思えんのぅ」
と、アルテマの額に生えた角を見て言った。
アルテマも自分の角を触ってみる。
隨分と小さくなってしまっていた。
体が幼児化してしまった影響だろう。
この謎についてはひとまず置いておく事として、
「すまない。こちらの世界にはこんな角を持った人間―――魔族は居ないのか?」
と、聞いてみた。
「魔族か……うむ、言葉としてならあるが、実際にはいないのぅ。ワシはてっきり鬼かと思ったがのう?」
「鬼?」
「ああ、こちらの世界の妖怪じゃよ。頭から角が生えておって怪力で暴れん坊のな」
「私もびっくりしましたよ、いきなりお爺さんが慌てて山から降りてきて、頭に角が生えた鬼娘さんを抱えているもんだから、もうどうしようかと……」
「私は山にいたのか?」
「ああ、すぐそこの裏山じゃ、突然山が轟音とともに光ってのう。何事かとそこへ向かってみれば、祠の前にお前さんが素っ裸で倒れていたんじゃよ」
素っ裸?
そういえばそうだ。私は今も裸じゃないか?
アルテマは慌てて胸を隠す。
が、隠さなくてはならない膨らみなど、どこにもなかった。
下半身だけはズボンのように大きくてブカブカのパンツを履かされていた。
「ワシは慌てて救急に連絡しようと思ったがの……。お前さんのツノを見て、これは人じゃ無いかも知れんと思ったんじゃ。バカバカしい話じゃが、この歳になると妖怪とか幽霊とか……そういったモノを案外簡単に受け入れるようになってのう。だから変に人目に晒すのはマズイかもしれん、そう思い、婆さんと集落の人間にだけこの事を話して、皆でお前を看病しておったのじゃよ」
つまりは、匿っていてくれたというわけか。
ありがたい気遣いにアルテマは素直に頭を下げる。
「それは有り難かった。私も一応は追われる身だからな。すまない、機転に感謝する」
「ワシの名前は『有手《あるで》 元一《げんいち》』。この木津村で狩りと農業をやっている者じゃ。こっちはワシの連れ合いで―――、」
「節子《せつこ》っていいますよ。よろしくねぇアルテマちゃん。あんたさえ良ければいつまでもこの家に居ていいからね」
お婆さんはニッコリほっこりと笑顔を作ると、アルテマにお膳を勧めてくる。
ありがたい申し出だが……逆に親切過ぎやしないか?
違和感を感じるアルテマだが、しかしこの怪我と小さな身体だ。
右も左もわからないこの世界で、今のところ頼れるのはこの老夫婦しかいない。
「ささ、話もいいですけど、何をするにもまずは食べんといけませんよ。冷めないうちにさあ、お食べ」
節子お婆さんは木の匙でおかゆをすくうと、アルテマの口まで持ってくる。
「……………………」
まだ完全に信用出来るわけではないと、アルテマは声には出さずに口の中だけで呪文を唱えた。
(――――婬眼《フェアリーズ》)
『お粥。米を水で煮たもの。とても美味しい。やけど注意だよ』
…………米? 聞いたことの無い食材だが、しかし婬眼《フェアリーズ》の鑑定ではどうやら毒の類は入ってなく、とても美味しいと出ている。
……ならば。
アルテマは「いただきます」と感謝の言葉を伝え、恐る恐るその匙を口に入れた。
と、
「――――っ!?」
う、美味いっ!???
口にした途端、米という名の穀物が持つ芳醇な香りがぶわぁぁぁぁぁぁぁっと鼻に抜けた。
そして感じる絶妙な塩味と甘み。
具として入っている何かの卵らしき物も嫌な臭みは全くなく、まろやかな風味と舌触りで心を癒やしてくれた。
アルテマはたまらずお婆さんから匙と茶碗をひったくると、
――――ガッガッガッ!!!!
と、空腹に負けるがまま一気に熱々のお粥をかっこんだ!!
「ぶ~~~~~~~~っ!!!!」
そして盛大に吐き出した。
「熱っい、あっつい、熱い、熱っいっ!!!!」
ごろごろと転げ回るアルテナ。
「痛ったい!! 痛い、痛たたたたっ!!!!」
暴れた衝撃で肩の傷が開き、今度は激痛でのたうち回る。
「あ~~あ~~何をやっとるんじゃ、ほら婆さん水じゃ水じゃ!!」
「あらあらあらあら!!」
節子お婆さんは水差しから水を汲むとアルテマにコップを渡す。
――――んごっごっごっごっごっ!!
「はぁぁぁぁぁ~~~~~~~~」
一気に飲み干し一息ついたたアルテマは、お粥まみれになった畳を見て。
「す……すまない。美味しすぎて、つい後先考えずかっこんでしまった」
赤くなってうつむくと、
「…………は、ははははは!!」
「やだよう、もうこの子は。慌てなくたって誰も取りはしませんよ? ふふふふ」
二人はそんなアルテマを責めることなく、笑ってくれた。
その目はなぜかとても優しかった。
2
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる