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第240話 捕縛作戦⑫
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『所長……百恵さんが現れました』
ビルから身を躍らせる百恵を確認して、菜々は努めて冷静に大西への報告を行う。
『見えてるよ~~。彼女の愛くるしい顔を見るのも久しぶりだねぇ。うんうん、元気そうで何より』
『宝塚さんの回収を邪魔するつもりみたいですけど、どうしますか?』
『どうもこうも、そりゃ抵抗するさ。椿には最後の力を振り絞ってもらうよ。菜々くんキミは離脱準備だ。椿くんが殺られ次第その場から撤収。いいかい? キミの代わりは中々いないんだから、くれぐれも危険な真似はしないようにね』
『敗北がわかっているのなら、いますぐにでも宝塚さんを諦めて撤収すべきでは?』
『マグレってこともあるだろう? どうせ実験体だ、最後にどこまで耐えられるか実践で確かめて見ようじゃないか』
『……わかりました。では私は引き続き離脱体制のままアンテナ役に徹します』
『うんうん、そうだねえ。聞き分け良くて偉いねぇ』
『…………………………………………』
返事を沈黙で返す菜々。
その顔は不機嫌に歪み、唇は噛み締められていた。
「――――ガルーダッ!!!!」
眼下に見える椿たちを狙って、百恵は牽制の能力《ガルーダ》を放った!!
彼女らを中心に、半透明の圧縮空気が無数に現れる。
「――――げっ!? も、百恵様っ!???」
瞬時にその気配を察知した斎藤が、青ざめながら上を見上げる。
落ちてくる、かつての上官を確認し慌てて宝塚を後部座席に放り込み、自分も中に飛び込んだ!!
その瞬間、
――――チュッドガガガガガガガガガガンッ!!!!
炎の無い爆発が起こると、その車体がひしゃげ宙に舞い上がった!!
「ひいぃぃぃぃぃっ!???」
車の中に退避していなければ手足が千切れ飛んでいるところだ。
割れたガラスの破片をかぶりながら斎藤は頭を庇う。
仲間の宝塚がいるというのにこの容赦のなさ、さすがに戦闘の駆け引きというものをわかっている。
百恵に対して人質が云々など安い駆け引きは通用しない。
幼い頃から姉によって徹底的に鍛え上げられたその判断力は、目的の為に捨てなければならないものを瞬時に切り捨てることが出来る。
仲間が戦闘不能で掴まっているのにもかかわらず、それを巻き込むほどの攻撃を初手で撃ってきたと言うことは、つまりそういう事だろう。
百恵の第一目標は我々の撃破。
宝塚の救出はその次と言うことだ。
――――ドゴォンッ!!!!
地面に叩きつけられ、走行不能になるワゴン車。
斎藤はそこから転がり出て空を見る。
そこには爆発能力を駆使して空に浮いている百恵と、その下に、氷の壁を作り自身を守っている椿の姿があった。
「……これは、だめだ」
最強クラスの能力に加え、この戦闘経験値。もはや自分がどうこう立ち回れる相手じゃない。
斎藤は宝塚の回収を諦め、ひとり逃げようと走り出す。
そこへ、
「……ガルーダ」
百恵の声が聞こえたかと思ったら、視界と意識が暗転した。
「――――ふん、他愛も無い。……あいつは何番じゃったかな」
頭を吹き飛ばし崩れ落ちるかつての部下を見ながら、百恵はゆっくりと地面に着地した。
ヤツの能力は大したことないモノだったが、たしか未来予知を使ったはずだ。
ほんのささやかな、一秒程度の先しか見えない能力だったが。それでも雑魚同士の戦闘では充分役に立つ能力だった。
もちろんそれでも百恵の敵になりようはずもないのだが、しかしマステマが絡んでくると話は変わってくる。
強化された予知能力はきっと何十秒……下手をすれば何分もの先を見通すことが出来るようになったかも知れない。
そうなると例え火力がなくても充分に脅威な存在になり得る。
双眼鏡で斎藤の顔を見た瞬間、まず最初に消すのはコイツだな、と百恵は冷酷にそう判断していた。
そして次はコイツ。
百恵は目の前で氷の殻に閉じこもっている椿を睨みつけた。
「……オジサマ」
椿の中から大西の気配を感じた。
憑依しているマステマを通じて伝わってきたものだろう。
久しぶりに感じる想い人の匂いに、百恵は少しだけ胸を高鳴らせた。
と、そんな彼女の気持ちを察したかのように結界を揺らす念話が飛んできた。
バチィッっと光を散らし、刺激を与えてくる。
「――――っ!!」
百恵はすぐさまその能力に波長を合わせ、結界を通過させる。
と、頭に懐かしい声が聞こえてきた。
『……やあ百恵くん、元気だったかい。僕だよ大西オジサンだよ』
その声を聞いて、少しだった胸の高鳴りが激しく踊りだす。
『オ……オジサマ。お久ぶりで……ございます』
ジワジワと、自然に涙がこみ上げてくる。
言いたいことは山ほどあった。
聞きたいことも山ほどあった。
だけど、いざ大西を目の前にしてそれらは全て真っ白になった。
大西はそんな百恵に言葉をかける。
『百恵くん。一度振られた僕だけど……もう一度キミを誘ってみてもいいかい?』
『な……何を……』
突然の誘いに、百恵は戸惑いの返事を返す。
学校での襲撃の時、百恵は誓った。
オジサマには付いていかないと。
吾輩が正しい道に引き戻して見せると。
しかし直接、本人から付いてこいと言われて……それで揺れない乙女心などありはしない。
百恵は高鳴る心臓を何とか鎮めようとしたが、幼い彼女の心はそれに反してなお激しく胸を叩いていた。
ビルから身を躍らせる百恵を確認して、菜々は努めて冷静に大西への報告を行う。
『見えてるよ~~。彼女の愛くるしい顔を見るのも久しぶりだねぇ。うんうん、元気そうで何より』
『宝塚さんの回収を邪魔するつもりみたいですけど、どうしますか?』
『どうもこうも、そりゃ抵抗するさ。椿には最後の力を振り絞ってもらうよ。菜々くんキミは離脱準備だ。椿くんが殺られ次第その場から撤収。いいかい? キミの代わりは中々いないんだから、くれぐれも危険な真似はしないようにね』
『敗北がわかっているのなら、いますぐにでも宝塚さんを諦めて撤収すべきでは?』
『マグレってこともあるだろう? どうせ実験体だ、最後にどこまで耐えられるか実践で確かめて見ようじゃないか』
『……わかりました。では私は引き続き離脱体制のままアンテナ役に徹します』
『うんうん、そうだねえ。聞き分け良くて偉いねぇ』
『…………………………………………』
返事を沈黙で返す菜々。
その顔は不機嫌に歪み、唇は噛み締められていた。
「――――ガルーダッ!!!!」
眼下に見える椿たちを狙って、百恵は牽制の能力《ガルーダ》を放った!!
彼女らを中心に、半透明の圧縮空気が無数に現れる。
「――――げっ!? も、百恵様っ!???」
瞬時にその気配を察知した斎藤が、青ざめながら上を見上げる。
落ちてくる、かつての上官を確認し慌てて宝塚を後部座席に放り込み、自分も中に飛び込んだ!!
その瞬間、
――――チュッドガガガガガガガガガガンッ!!!!
炎の無い爆発が起こると、その車体がひしゃげ宙に舞い上がった!!
「ひいぃぃぃぃぃっ!???」
車の中に退避していなければ手足が千切れ飛んでいるところだ。
割れたガラスの破片をかぶりながら斎藤は頭を庇う。
仲間の宝塚がいるというのにこの容赦のなさ、さすがに戦闘の駆け引きというものをわかっている。
百恵に対して人質が云々など安い駆け引きは通用しない。
幼い頃から姉によって徹底的に鍛え上げられたその判断力は、目的の為に捨てなければならないものを瞬時に切り捨てることが出来る。
仲間が戦闘不能で掴まっているのにもかかわらず、それを巻き込むほどの攻撃を初手で撃ってきたと言うことは、つまりそういう事だろう。
百恵の第一目標は我々の撃破。
宝塚の救出はその次と言うことだ。
――――ドゴォンッ!!!!
地面に叩きつけられ、走行不能になるワゴン車。
斎藤はそこから転がり出て空を見る。
そこには爆発能力を駆使して空に浮いている百恵と、その下に、氷の壁を作り自身を守っている椿の姿があった。
「……これは、だめだ」
最強クラスの能力に加え、この戦闘経験値。もはや自分がどうこう立ち回れる相手じゃない。
斎藤は宝塚の回収を諦め、ひとり逃げようと走り出す。
そこへ、
「……ガルーダ」
百恵の声が聞こえたかと思ったら、視界と意識が暗転した。
「――――ふん、他愛も無い。……あいつは何番じゃったかな」
頭を吹き飛ばし崩れ落ちるかつての部下を見ながら、百恵はゆっくりと地面に着地した。
ヤツの能力は大したことないモノだったが、たしか未来予知を使ったはずだ。
ほんのささやかな、一秒程度の先しか見えない能力だったが。それでも雑魚同士の戦闘では充分役に立つ能力だった。
もちろんそれでも百恵の敵になりようはずもないのだが、しかしマステマが絡んでくると話は変わってくる。
強化された予知能力はきっと何十秒……下手をすれば何分もの先を見通すことが出来るようになったかも知れない。
そうなると例え火力がなくても充分に脅威な存在になり得る。
双眼鏡で斎藤の顔を見た瞬間、まず最初に消すのはコイツだな、と百恵は冷酷にそう判断していた。
そして次はコイツ。
百恵は目の前で氷の殻に閉じこもっている椿を睨みつけた。
「……オジサマ」
椿の中から大西の気配を感じた。
憑依しているマステマを通じて伝わってきたものだろう。
久しぶりに感じる想い人の匂いに、百恵は少しだけ胸を高鳴らせた。
と、そんな彼女の気持ちを察したかのように結界を揺らす念話が飛んできた。
バチィッっと光を散らし、刺激を与えてくる。
「――――っ!!」
百恵はすぐさまその能力に波長を合わせ、結界を通過させる。
と、頭に懐かしい声が聞こえてきた。
『……やあ百恵くん、元気だったかい。僕だよ大西オジサンだよ』
その声を聞いて、少しだった胸の高鳴りが激しく踊りだす。
『オ……オジサマ。お久ぶりで……ございます』
ジワジワと、自然に涙がこみ上げてくる。
言いたいことは山ほどあった。
聞きたいことも山ほどあった。
だけど、いざ大西を目の前にしてそれらは全て真っ白になった。
大西はそんな百恵に言葉をかける。
『百恵くん。一度振られた僕だけど……もう一度キミを誘ってみてもいいかい?』
『な……何を……』
突然の誘いに、百恵は戸惑いの返事を返す。
学校での襲撃の時、百恵は誓った。
オジサマには付いていかないと。
吾輩が正しい道に引き戻して見せると。
しかし直接、本人から付いてこいと言われて……それで揺れない乙女心などありはしない。
百恵は高鳴る心臓を何とか鎮めようとしたが、幼い彼女の心はそれに反してなお激しく胸を叩いていた。
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