超能力者の私生活

盛り塩

文字の大きさ
上 下
238 / 241

第238話 捕縛作戦⑩

しおりを挟む
『それはわかってるけど、私にとっては菜々ちんの救出はもっと大事なことなのよ!!』
『そ、そ、そんな堂々と私情を持ち出さんでくだされよ……い、い、一応、拙僧は上司なんですけど……(汗)』
『欲情ダダ漏れの念話飛ばすあんたに言われたくない!!』
『で、ござるよな。しかしここはまず椿殿に集中してくだされ。まずは新たな戦力を把握しなければ勝てる戦も勝てないでござるよ?』

 言われて椿を睨みつける。
 先に菜々ちんを無力化して、彼女のベヒモス化を解除したかったが、当然、頭の良い菜々ちんはそんな私の思惑などお見通しなのだろう。そう簡単に私に近寄ることはしなさそうだ。

 ならばやはり、椿は実力で排除するしかなさそうだ。
 私は覚悟を決めて戦闘態勢を取った。

「結界術!!」

 ――――ドゴンッ!!!!

 力を込めるといままでにない強固な結界が私を覆った。
 クソ饅頭のドミニオンのおかげでレベルがアップされているからだ。

 すごい……。

 私はあらためてそのパワーに感動する。
 今のこの結界なら女将のそれと匹敵するかも知れない。
 それはすなわちエロ饅頭の精神レベルが女将に匹敵しているということ。
 それにももちろん驚いたが、しかし真に驚いたのは、そのレベルをドミニオンを介して他人に分け与えることが出来るというところだ。

 ――――能力強化ブースター

 精神を支配しベヒモス化にて術者のレベルを爆上げするマステマに対して、自分の精神エネルギーを送ることによって相手を強化するドミニオン。
 どちらも相手を強化すると言ったところは同じだが、その手段はぜんぜん違う。
 私は断然ドミニオンのほうが好きだった。

『拙僧もいまのプリティ~~な宝塚どのならば全然オッケーでござるよ』
『し、思考を読むな思考を!! 褒めたのは能力のことだけなんだからねっ!!』
『ソソル反応ありがとうでござる。しかし一つ断っておくことがあるでござる』

『断っておくこと!?』

『拙僧のドミニオン……力を相手に貸し与えることが出来るでござるが、その間、拙僧の能力はガタ落ちになるでござる。なのでここから先はサポート出来ないのでよろしく頼むでござるよ』
『はっ!?』

 と、筆頭がいただろう場所を見るが彼の姿はすでにそこに無かった。

『いまの拙僧は拳銃の弾一つ防げないほど弱体化しているでござるから……とりあえず身を隠させてもらったでござる。さあ、宝塚殿。拙僧のことは気にせず存分に戦うでござるよ!!』

 と言う念話。

 それと同時に、
 ――――ダンッ!!!!
 椿が飛びかかってきた。

『ちょちょちょっ!! じゃあ、念話でこの子の妨害は出来ないってこと!?』
『いかにも。いまの拙僧は無力にござるゆえ。ほら、氷が迫って来るでござるぞ?』
『なっ!??』

 椿の吐く息が凍り、それを切っ掛けに周囲の空気が氷に変わる。

 ――――ザンッザンッザンッザンッ!!!!
 地面から大きな氷柱が生えて一斉に襲いかかって来た!!

「――――くっ、こんなものっ!!」

 バキャアァァァァァァンッ!!!!

 強化版結界術の一撃でそれを薙ぎ払う。
 さっきは術切り替えの隙きを突かれて凍らされてしまったが、同じ手はもう二度と食らわない。
 このまま結界術で氷から身を守りつつ、椿の消耗を待つ。
 充分に弱ったところを満を持して回復術をかけてやる。
 強化されたいまの私の結界術なら、油断さえしなければ椿の能力など全て無効化出来るはずだ。

 そう作戦を立てたとき、
 ――――ボッ!!
 飛び散った氷片を突き抜け、椿が無防備状態で突っ込んできた。
 その身体にはなぜか結界は張られていなかった。
 そしてその丸腰状態で私に組み付いてくる!!

 ――――なっ!? 待ってそんなことしたら!??

 ババッ!! バババババババババババッ!!!!
 結界が反応して彼女の身体を焼き焦がした!!

「バカッ!??」

 防御策も無く、物理干渉出来る結界術に飛び込んできたらそりゃこうなる!!

 ――――ババババババババババッ!!!!

 全身が青く発光し、まるで青い炎に焼かれているかのように身を焦がす彼女。
 四肢の肉が引き裂かれ血が吹き出る。

 その意味がわからない自殺行為に、思わず私は結界を解いた。

「何やってるのっ!?? あなた結界術の怖さ知らないの!??」

 ボロボロになり崩れ落ちる椿を抱きかかえる私だが、

『ダメでござる宝塚殿!! それは大西氏の罠でござる!!』
「――――へっ!?」

 呆気に取られると同時に、

『その通りだよ、宝塚くん?』

 と、突然マステマが椿の中から顔を出した。
 瞬間、椿の気配がもう一段ヤバくなった気がする。

 焼き焦げた椿の右手が私の胸に触れる。
 しまった!? ――――結界術を!!
 再び張り直そうとしたが、遅かった。

「……雪女郎《ゆきじょろう》」

 虚ろな意識で椿が呟く。すると彼女の背中から肌蹴《はだけ》た着物を着た黒髪美人が姿を現した!!

「――――雪女郎!? これがあんたのファントムか!??」

 まさに雪女を彷彿とさせる、冷たい美女が凍った息を吐く。

 ――――パキッ……パキキキキキキキッ!!!!

 するといままでとは比べようもない冷気が周囲を襲い、全てを凍らせた。

「――――く、あっ!?」

 視界が氷に覆われる。
 氷漬けになる瞬間、わずかに纏った結界術で椿に殴りかかるが凍った下半身に引っ張られ届かない。拳はそのまま地面に突き刺さった。

 パキパキパキパキッ!!!!

 強烈な絶対零度が体に浸透してくる。

 さっきはほんの表面だけ凍らされた感じだったが、今回は桁が違う。
 身体の全細胞、血液にいたるまで全て一瞬で凍らされた。
 そして脳味噌まで全て凍らされた瞬間。

 フッと視界が暗くなり、私の意識は途絶えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の人は別の女性を愛しています

杉本凪咲
恋愛
王子の正妃に選ばれた私。 しかし王子は別の女性に惚れたようで……

心を求めて

hakurei
青春
これはとある少年の身に起こった過去の物語。 そして今、ぽっかりと空いた穴を埋められない少年の物語。 その穴を埋める為に奮闘する『誰か』の話です。

第二王女は死に戻る

さくたろう
恋愛
死を繰り返す死に戻り王女はループの中で謎を解く! 「ヴィクトリカ、お前とヒースの婚約は解消された。今日の花婿は、このレイブンだ」  王女ヴィクトリカは、結婚式の当日、冷酷な兄からそう告げられる。  元の婚約者は妹と結婚し、同時に国で一番評判の悪い魔法使いレイズナー・レイブンとの結婚を命じらてしまった。だがヴィクトリカに驚きはなかった。なぜなら告げられるのは二回目だったからだ。  初めて告げられた時、逃げ出したヴィクトリカは広場で謎の爆発に巻き込まれ、そのまま死んでしまったのだ。目覚めると、再び結婚を命じられる場面に戻っていた。何度も逃げ、何度も死に、何度も戻る。  死のループに嫌気が差したヴィクトリカだが、一つだけ試していないこと、レイズナーとの結婚をすると死なずに生き残った。  かくして否応なく結婚生活が始まったのだが――。  初めは警戒心を抱くが、ヴィクトリカも彼の不器用な愛を受け入れ始め、共に何度も巻き戻る時の謎を解くことにした。時を繰り返しながら、徐々に真相が明らかになっていく!  突然の結婚を、本物の結婚にする物語。 ※約10万字のお話です ※話数はヴィクトリカが時を戻る度にリセットされます。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った

mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。 学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい? 良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。 9話で完結

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

お前の存在が鬱陶しいと婚約破棄を告げられましたが…だったら、あなたは罰を受けますよ?

coco
恋愛
浮気を咎めた私を鬱陶しいと罵る婚約者。 そして彼は、私に婚約破棄を告げて来て…?

観月異能奇譚

千歳叶
キャラ文芸
「君に頼みたいことがある」 突然記憶を失った「わたし」は救護者の兄妹に協力を要請される。その内容とは――彼らの目となり耳となって様々な情報を得ること。 「協力してくれるなら身の安全を確保しよう。さぁ、君はどうしたい?」 他に拠り所のない「わたし」は「音島律月」として〈九十九月〉に所属することを決意する。 「ようこそ〈九十九月〉へ、音島律月さん。ここはこの国における異能者の最終防衛線だ」 内部政治、異能排斥論、武装組織からの宣戦布告。内外に無数の爆弾を抱えた〈異能者の最終防衛線〉にて、律月は多くの人々と出会い、交流を深めていく。 奇譚の果てに、律月は何を失い何を得るのか。 ―――――――― 毎週月曜日更新。 ※レイティングを設定する(R15相当)ほどではありませんが、人によっては残酷と感じられるシーン・戦闘シーンがあります。ご了承ください。 ※カクヨムにも同じ内容を投稿しています。

処理中です...