超能力者の私生活

盛り塩

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第230話 捕縛作戦②

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 JPAが所長たちとの不戦協定を破棄して五日が経った。

 しかし世間への攻撃は相変わらず続いていて、今日も関東のいたるところで『エノクの審判』による破壊活動は続いていた。

 死者はすでに5000人を超えたと報道されており、この正体不明のテロ組織に対して機動隊はもちろん、自衛隊まで動き出している。
 国会でも連日、このテロ事件を議題に怒号が飛び交っているが、議員の人はみなどこか示し合わせたように白々しかった。

 結局のところ『迅速に対処します』『由々しき犯行であります』『専門家との協議を交えて』『検討していく所存であります』などと決まり文句を言うだけで、誰も本腰をあげて『エノクの審判』と相対しようとする命知らずはいないようだ。

 いや、三日ほど前までは数人いた。
 野党第一党に席を置く若手議員たちだった。

 この事件を機に自分たちの存在をアピールでもしようと色気が出たのか、とにかく腰の重い与党を叩き、自分たちで独自に入手した『エノクの審判』のデーターを国会に持ち出して武力による殲滅を提言していた。
 テロに怯える国民もみなその議員の意見に賛成し、ネットを中心に人気が爆発したが、翌日にその議員たちは全員殺された。

 殺された三人はみな国会の屋根に裸で逆さ吊りにされて、肛門に『おバカちゃん♡』と書いた旗を刺されていた。

 それ以来、国会はもちろん、日本社会全体がテロ組織『エノクの審判』の得体の知れない戦闘力に恐れを抱き、決定的な解決方法を見い出せないでいた。

「そりゃそうだバブ。超能力なんて本気で信じているやつ、なかなかいないバブからね。連中の目的や対処なんてそうそう理解出来ないバブよ」

 哺乳瓶を揺らしながら先生が呟いた。
 今日は赤ちゃん気分だと言うから仰せの通りにしてやっていた。
 いまはお昼で私と先生は尾栗庵で昼食中だ。
 五合飯おにぎりを頬張りながら私は先生の話を聞いている。

「大臣クラスの議員にでもなれば、連中の正体やウチらの存在も知っているでしょうバブけど、知れば知るほど逆らいたくなくなるバブよ。……なにせウチら超能力者なら兵隊を飛び越して議員連中《あたま》を直接殺るなんて造作もないことバブからね。自分かわいいゲスどもが、そんな連中に逆らってまで国民を助けようとはしないでしょうバブバブちゅ~~~~~~~~ごっくん」
「誰もお尻に旗立てられて殺されたいとは思いませんからね」

 げっそりとした顔で宇恵ちゃんがおかわりのおにぎりを持ってきてくれる。

「ありがと、どうしたの? なんかやつれてるけど……?」
「昨日海外サイトでケツ旗議員の無修正版画像を見ちゃったんですよ。……もうそれから気持ち悪くて気持ち悪くて……ああ、男嫌いになりそうです……」
「いまどき男の股間なんてどこでも見れるでバブ。なにをカマトトぶってるバブ?」
「……私は初めてだったんです!! いままでずっと……そりゃちょっと興味はあってそういうサイトを覗いたこともありましたけど……でも無修正版を見たのは始めてだったんです!! うううわぁぁぁぁぁぁん!!」

 テーブルに突っ伏して泣いてしまう宇恵ちゃん。
 まぁ、始めて見た男のアレが……若手とはいえ中年の、しかもケツに旗を刺された死体写真だったっていうのだから……うん、泣きたくなるのもわからんでもない。

 馬鹿な子だよ。
 そういうことは無理せず欲望のままにさっさと無難なサイトで閲覧しとけばよかったのだよ。
 そう……まだ純粋だった頃の私のように。

「あんたのはただの犯罪行為バブよ?」

 言って、とある写真をどこからともなく取り出す死ぬ子ベイビー。
 そこには、裏サイトでリアルショタ画像を真剣な顔で保存している中学時代の私の愛くるしい姿が写っていた。

「気持ちはわかるバブが、地味に犯罪バブよ? JPAとしても感心出来ないバブ」
「お、お、お、おのれぇ~~~~~~~~っ!!!!」

 怒りに任せ、メデューサモードに変身した私は変態哺乳瓶女郎に襲いかかった。
 どっかんバリバリと結界で防御する先生と、蛇を噛みつかせる私。
 店内はしばし騒然となり、奥から料理長の冷ややかな視線が飛んできたところで、

『ちょちょちょ、ちょっとお邪魔するでおじゃるよ?』

 ――――ばりばりばりばりっ!!!!

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 いきなりテレパシーが飛んできて、私の結界ごと能力がキャンセルされた!!

「な――――な、な、な、なななっ!!」

 突然の衝撃に、頭から煙を上げつつ見上げると、そこには例の筆頭監視官の銀野さんが暑苦しい顔をして立っていた。

「や、やあやあ、せ、せ、せっかくのコミュニケーション中ごめんでござる。ちょちょちょ、ちょっと宝塚さんにおねおねお願いがあって来たでありんすよ」

 なんか語尾がよりうっとおしくなっている気がするが……しかしそれ以上に存在がうっとおしいのでまぁ気にしないでおこう……。




「……な、なんですかお願いって……?」
 
 静かになった店内、散らかしたお皿などを片付け終わって再び席に着く私。
 嫌な予感しかしないが一応聞いてみる。
 すると筆頭はタブレットPCを取り出し、一枚の画像を見せてきた。

「こここ、これは昨日の横浜で起こった『エノクの審判』による無差別殺人テロのようすでござるが……」

 見せられたそこには、一人の、私と同じ歳くらいの少女を中心に一面氷に覆われた交差点が写っていた。
 肩ほどの長さの外ハネ青髪に、茶色を基調にしたどこかの高校のブレザーと白マフラー。少女の顔は見たことがないが、彼女以外の全てが凍っているところを見ると、この子も超能力者なのだとはすぐにわかった。
 画面に写っている道路や車、人、建物の全てが凍らされていて、その能力レベルは相当なものと推測出来る。

「え? こんな強力な能力者……向こうにまだいたんですか?」
 
 片桐さんや菜々ちん以外はみんなJPASクラスの雑魚(失礼)だとばかり思っていたケド……?
 私の疑問に筆頭が首を横に振った。

「いいい、い、いや、これほどの能力者が向こうに流れたなんて話は聞いていないでごじゃるよ。そ、そ、そ、それにかかか、彼女はううう、ウチの組員名簿には載っていない人物でありんす」

 汗で眼鏡を曇らせつつ、困ったように筆頭はバサバサと頭を掻いた。
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