超能力者の私生活

盛り塩

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第220話 悪の食い合い②

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「銀野筆頭監視官からも説明があっただろう? 大西のすることに関しては、我々に被害が及んでこない限り、こちらも関与しないと」

 隣のテーブルで特盛マヨネーズ唐揚げ丼を貪っている筆頭を横目に見ながら、女将は言った。

「組織を抜けてしまった以上、大西とその一派がどれだけの怨嗟を社会にぶつけ、どれだけの一般人を殺して回ろうが、それはもう向こうさんの勝手ってことだよ。私たちはべつに、この国の能力者たち全員を縛り付けるつもりはないんだから。JPAの庇護下で安全に暮らしたいのならばルールには従ってもらうが、それから外れて自分たちの思想で生きていくって言うのなら誰も止めやしないよ。勝手にやんなってもんさね」

 その女将の言葉に、うんうんとうなずく料理長に瀬戸さん、ついでに筆頭も。

「菜々の奪還については、本部がきちんと動いているから、お前は何も心配しなくていいよ。……しばらくは大西が好き勝手やって世間を騒がせるだろうが、それも気にするんじゃないよ?」
「で、でも……それじゃ罪の無い人たちが……」

 なおも納得のいかない私に、唇を油でテカテカにした筆頭が言ってくる。

「そそそ、その罪の無いって言うのは、たたた宝塚さんにとってはでしょう? 大西前所長にとってはこの世の人間なんて、ぜぜぜ全員死刑囚みたいなものですよ、ぐふぐふぐふふ」
「……………………」
「ぼ、ぼ、ぼぼ僕も、おなおなおな同じ念話使いだから……ほほほ本当にこの世の人間は醜く卑怯で残忍で愚劣で自己中心的な蛆虫ばかりですよ、そんな者がいいいくら処分されようが、ききき気にすることはありません。我々は、我々とその愛する者たちが幸せならそれで良いのです。ななななぜなら、我々も連中と同じ愚劣な存在なのだからぐふぐふ……ぐふふふふふふふふふ~~~~~~~~……♪」
「そういう事だよ。……まったく、同じようなことを何度も言わせるんじゃないよ」

 やれやれと疲れた顔をして女将が言った。

 その晩、また立て続けにニュースが入った。
 すべて今回と同じような無差別大量殺人テロだった。




 日本各地で連続発生している事件に、朝からテレビやネットは大賑わいだった。

 首都圏を中心に突如出現した暴走テロ集団。

 たった二日の内に新宿、池袋、渋谷、品川、府中、と殺人テロは続き、死者は200人を超えて怪我人はその数を把握出来ないほど。

 ほとんどの事件は昨日と同じく車と銃器による蛮行だったが、時々、不可思議な力による破壊活動や、化け物のようになった人間が確認されて、マスコミや掲示板はこの一連のテロ行為の関連性や目的と合わせてその解明に躍起になっている。

 もちろんそのニュースを見ている私はその答えを知っている。

 テロの首謀者は大西健吾。すべての犯行は彼が率いる60名程度のメンバーが起こしたもので、その目的は一般人への無差別攻撃。動機は彼らがそれぞれ過去に受けた一般人からの差別行為による怨嗟である。
 不可思議な力は彼らが使うそれぞれの超能力だろう。
 そして最後の謎、化け物のようになった人間とは……マステマによって強制暴走させられた能力者だ……。

 私は朝の尾栗庵で特盛朝定食(カレー)をおかわりしながら壁に掛かっているモニターを睨みつけていた。
 殺人テロ行為についてはもう考えないことにした。
 それぞれの事情や立場が違いすぎる。
 私たちだって、正当と勝手に位置づけた理由を盾に同じようなことをしている。

 みんなのように冷徹に割り切ることはまだ無理だが、自分には関係のないことだと目を背けることくらいは出来る。

 だが、どうしても許せないのが――――人為的に作られたベヒモスの存在。

 モニターに映る事件のようす。

 人々がゴミクズのように殺されていく映像の一つに、そのベヒモスがいた。
 ただヒト型をしているだけのモンスター・ベヒモスは逃げ惑う人間を虫けらのように捕まえ引きちぎる。そしてときどき超能力を使っては、それぞれの個性で、ある者は燃やし、ある者は凍らし、ある者は溶かし……。

 その惨劇を見せられて、私の中から制御しがたい怒りが渦を巻いて上がってくる。
 両親を殺した化け物が、また笑いながら人を殺しているのだ。
 この現実にだけは目を背けることは出来なかった。

 いや……背けてはいけないと思った。
 その気も無かった。

 私はベヒモスを打ち倒す為に強くなろうとしているのだ。
 所長やその一派に、どんな目的、どんな事情、どんな権利があろうとも私はその存在を許さない。
 所長がベヒモスを生み出し続ける限り、私は……私だけは彼らの敵に回る。たとえJPAが動かずとも私は動く。たった一人でも、だ。

 という話を、四杯目のカレーを食べながら百恵ちゃんに話したら――――。

「お、そうか♪ まぁ怪我しない程度に頑張ってくれ♫ 吾輩は学校に行ってくるぞ、ではな~~♬」

 と、とびきり上機嫌で返事もおざなりに、スキップで登校してしまった。

 JPAが大西所長の脱退を認め、その行動に関与しないと言う方針を聞かされてからずっとこの調子なのである。
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