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第214話 本当の想い①
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「天道正也に……渦女……真唯殿……。多くの仲間を手に掛けたオジサマにこんな感情を持つ吾輩は裏切り者かも知れん……でも、それでも吾輩は――――」
「裏切りなんてあるものかい」
泣きながら語る百恵ちゃんに、女将は真剣な眼差しでそう返した。
「お前が個人的に大西をどう思っていようが、そんなことは私らには一切関係ないことさね。……むしろそんな気持ちを正直に話してくれたお前は――――少なくとも私にとっては誰よりも信用できる部下だよ」
「う……うぅぅぅぅぅ…………っ」
声を殺して泣きじゃくる百恵ちゃん。
所長の起こしたこの一連の事件。一番心を痛めているのは間違いなく彼女だろう。
いままでの間、その小さな胸の中でいったいどれだけ葛藤していたかと思うと私まで涙がこぼれてくる。
っていうか瀬戸さんはもう号泣していた。
「でも――――もし、」
百恵ちゃんが話を続ける。
彼女の肩は今度は自責ではなく、恐怖ににって震える。
「もし……この気持が……吾輩のもので無かったら」
みんなの顔に影が落ちる。
そうだ……その可能性は……ある。
「もし……この気持が……マステマによって……作られた……感情であったのなら」
ぼろぼろぼろぼろ……。
「吾輩は…………」
そこから先は何も言わなかった。
きっと百恵ちゃん自身、どうしていいかわからないんだろう。
もし彼女の恋心が、所長によって作り出された偽りのものであったなら――――。
そんな残酷な現実を、まだ幼い百恵ちゃんが冷静に受け止められるとは思えない。
きっとそんなこと考えたくもないはずだ。
騙されていようがいまいが。
いま彼女が所長を好きだと言った事実は変えられない。
そこだけは真実なのだから。
その真実を壊したいなんて……百恵ちゃんは絶対に思っていないはず。
たとえウソでも大切な恋心なのだから……。
それでも、その正体を明らかにしようとするのは、たぶん彼女の責任感。
たとえ自分の心が壊れようとも、私たちを危険に晒さぬように……彼女はいま審判の聖台にその身を置いているのだ。
恐怖に震えながらも――――。
「百恵ぇ~~……」
そんな辛い思いを抱いて震えている妹の頭を、姉である先生がそっと抱き寄せる。
そして――――、
「せいっ!!」
――――ごきっ!!
『あ』
その首を100度右に回した。
「……さ、おやりなさいなぁぁぁ……筆頭さん~~……」
そして白目を剥いた百恵ちゃんを、ボロ雑巾ように変態の生贄に捧げる。
「ちょっと待て~~~~~~~~いっ!!!!」
そくざにツッコミの絶叫を上げる瀬戸さん。
百恵ちゃんを取り返すと背中に隠す。
「ちょっとぉ~~……なぁに邪魔してんのよぉぉう……呪い殺すわよぉぉ??」
「なんで、いまなんで首グリってしたっ!?? なんで白目剥かせたっ!?? 違うよね?? いまそんな場面じゃなかったよね!???」
妖怪首捻りの胸ぐらを締め上げ、怒り狂う瀬戸さん。
私やほかの皆も、あまりの展開にただ口を開けて呆然としていた。
「だってぇ~~はやく終わらせてもらわないと~~……夕方の~~ライブ配信にぃ間に合わないから~~~~……じれったくて……いらいらいら……」
「なんのライブじゃいっ!!」
「全国一斉読経選手権のぉ~~……」
「死ねっ!! 死んでから存分に読まれろっ!!!!」
「おおおおおおっ……♡♡♡」
めりめりめり……と、全力のエビ固めで空気の読めない妖怪を退治にかかる瀬戸さん。
はぁぁぁぁ……と女将の深い深い溜め息が聞こえた。
そして心底疲れた顔で呟く、
「……どうしてこう、うちには……まともな人間がいないのかねぇ……」と。
ん? いま視線の中に私も入っていなかったか??
気のせいだよね?? ……ねえったらねぇ??
「んが――――っ!!??」
私と瀬戸さんが見守るなか、百恵ちゃんは一つの痙攣とともに意識を取り戻した。
「百恵ちゃん?」「百恵様??」
私たちは彼女の顔を覗き込む。
「――――んが……あ? ……こ、ここは……いででででっ!??」
きょろきょろ見回そうとした百恵ちゃんだったが、痛めつけられた首が引きつって上手く回らず悲鳴を上げた。
そして自分が姉に何をされたのか思い出し、その眉が一気につり上がった。
――――ボンッ!!
怒りに呼ばれたガルーダが姿を現す。
「だめだめだめだめっ!! どうどうどうどうっ!!!!」
私たちはそんな百恵ちゃんの体を擦り擦り、必死に怒りを沈めにかかる。
瀬戸さんが頭をわしゃわしゃと両手でこすり「お~~よしよしお~~よしよし」と頬擦りし、そこに私が秘蔵のおっぱいアイスをしゃぶらせる。
それでなんとか彼女の怒りは収まった。
ここは旅館の寮区画の一室。
百恵ちゃんにあてがわれた部屋『鷹の間』の中である。
そこに布団を敷いて私たちは彼女を見守っていたのである。
落ち着いた百恵ちゃんは、まだ痛む首を押さえつつ、私に訊いてきた。
「……吾輩の……吾輩の検査は…………もう終わったのか?」
私たちは顔を見合わせ、そしてうなずく。
百恵ちゃんはゆっくりと生唾を飲み込んで尋ねてくる。
「どうだった……んじゃ……?」と。
「裏切りなんてあるものかい」
泣きながら語る百恵ちゃんに、女将は真剣な眼差しでそう返した。
「お前が個人的に大西をどう思っていようが、そんなことは私らには一切関係ないことさね。……むしろそんな気持ちを正直に話してくれたお前は――――少なくとも私にとっては誰よりも信用できる部下だよ」
「う……うぅぅぅぅぅ…………っ」
声を殺して泣きじゃくる百恵ちゃん。
所長の起こしたこの一連の事件。一番心を痛めているのは間違いなく彼女だろう。
いままでの間、その小さな胸の中でいったいどれだけ葛藤していたかと思うと私まで涙がこぼれてくる。
っていうか瀬戸さんはもう号泣していた。
「でも――――もし、」
百恵ちゃんが話を続ける。
彼女の肩は今度は自責ではなく、恐怖ににって震える。
「もし……この気持が……吾輩のもので無かったら」
みんなの顔に影が落ちる。
そうだ……その可能性は……ある。
「もし……この気持が……マステマによって……作られた……感情であったのなら」
ぼろぼろぼろぼろ……。
「吾輩は…………」
そこから先は何も言わなかった。
きっと百恵ちゃん自身、どうしていいかわからないんだろう。
もし彼女の恋心が、所長によって作り出された偽りのものであったなら――――。
そんな残酷な現実を、まだ幼い百恵ちゃんが冷静に受け止められるとは思えない。
きっとそんなこと考えたくもないはずだ。
騙されていようがいまいが。
いま彼女が所長を好きだと言った事実は変えられない。
そこだけは真実なのだから。
その真実を壊したいなんて……百恵ちゃんは絶対に思っていないはず。
たとえウソでも大切な恋心なのだから……。
それでも、その正体を明らかにしようとするのは、たぶん彼女の責任感。
たとえ自分の心が壊れようとも、私たちを危険に晒さぬように……彼女はいま審判の聖台にその身を置いているのだ。
恐怖に震えながらも――――。
「百恵ぇ~~……」
そんな辛い思いを抱いて震えている妹の頭を、姉である先生がそっと抱き寄せる。
そして――――、
「せいっ!!」
――――ごきっ!!
『あ』
その首を100度右に回した。
「……さ、おやりなさいなぁぁぁ……筆頭さん~~……」
そして白目を剥いた百恵ちゃんを、ボロ雑巾ように変態の生贄に捧げる。
「ちょっと待て~~~~~~~~いっ!!!!」
そくざにツッコミの絶叫を上げる瀬戸さん。
百恵ちゃんを取り返すと背中に隠す。
「ちょっとぉ~~……なぁに邪魔してんのよぉぉう……呪い殺すわよぉぉ??」
「なんで、いまなんで首グリってしたっ!?? なんで白目剥かせたっ!?? 違うよね?? いまそんな場面じゃなかったよね!???」
妖怪首捻りの胸ぐらを締め上げ、怒り狂う瀬戸さん。
私やほかの皆も、あまりの展開にただ口を開けて呆然としていた。
「だってぇ~~はやく終わらせてもらわないと~~……夕方の~~ライブ配信にぃ間に合わないから~~~~……じれったくて……いらいらいら……」
「なんのライブじゃいっ!!」
「全国一斉読経選手権のぉ~~……」
「死ねっ!! 死んでから存分に読まれろっ!!!!」
「おおおおおおっ……♡♡♡」
めりめりめり……と、全力のエビ固めで空気の読めない妖怪を退治にかかる瀬戸さん。
はぁぁぁぁ……と女将の深い深い溜め息が聞こえた。
そして心底疲れた顔で呟く、
「……どうしてこう、うちには……まともな人間がいないのかねぇ……」と。
ん? いま視線の中に私も入っていなかったか??
気のせいだよね?? ……ねえったらねぇ??
「んが――――っ!!??」
私と瀬戸さんが見守るなか、百恵ちゃんは一つの痙攣とともに意識を取り戻した。
「百恵ちゃん?」「百恵様??」
私たちは彼女の顔を覗き込む。
「――――んが……あ? ……こ、ここは……いででででっ!??」
きょろきょろ見回そうとした百恵ちゃんだったが、痛めつけられた首が引きつって上手く回らず悲鳴を上げた。
そして自分が姉に何をされたのか思い出し、その眉が一気につり上がった。
――――ボンッ!!
怒りに呼ばれたガルーダが姿を現す。
「だめだめだめだめっ!! どうどうどうどうっ!!!!」
私たちはそんな百恵ちゃんの体を擦り擦り、必死に怒りを沈めにかかる。
瀬戸さんが頭をわしゃわしゃと両手でこすり「お~~よしよしお~~よしよし」と頬擦りし、そこに私が秘蔵のおっぱいアイスをしゃぶらせる。
それでなんとか彼女の怒りは収まった。
ここは旅館の寮区画の一室。
百恵ちゃんにあてがわれた部屋『鷹の間』の中である。
そこに布団を敷いて私たちは彼女を見守っていたのである。
落ち着いた百恵ちゃんは、まだ痛む首を押さえつつ、私に訊いてきた。
「……吾輩の……吾輩の検査は…………もう終わったのか?」
私たちは顔を見合わせ、そしてうなずく。
百恵ちゃんはゆっくりと生唾を飲み込んで尋ねてくる。
「どうだった……んじゃ……?」と。
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